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物を購入した際に、それを『無駄使い』と言えるのは、 購入したものを全く利用しない場合と、その物の価格が価値よりも際立って高い場合だ。
努力して交渉相手より優位に立とうとする正攻法を諦めた僕は、逆に、相手を引きずり落として相対的に優位なポジションを確保する作戦にでた。思い余った末の捨て身の作戦と言えそうだ。
「君は俺がバイクを買い換えようとしていることを『無駄使い』と言うけど、人のこと言えるか？この間だって、日本から来る友人に、『美脚器』なるものを買ってきてもらったけど、何にも使ってねぇじゃねぇかよ」
この「美脚器」なるもの、JJ（ファッション月刊誌）の中に載っていた、胡散臭さ100%の通販商品だ。それを恥を忍んで友人にお願いして日本で購入し、バリ島までハンドキャリーしてもらったんだ。
そもそも女性雑誌には、こういった、例えば、ダイエット、豊胸、皺取り、美肌、などの美容に関する宣伝がやたら多い。 そして必ず、体験者の使用前、使用後の、これまた胡散臭さ200%の写真を載せて、購買欲をそそっている。
こういった宣伝を見る度に、こんな宣伝文句（写真）に踊らされてオーダーする読者なんかいるのだろうかと、常々思っていただけに、僕に一番身近な人間がオーダーしたときには、呆れるのを通り越して大笑いしてしまったものだ。
「何いってんのよ、あれは美脚器かもしれないけど、私は脚のむくみを取るために、お願いしたものよ。今はそんなに脚がむくまないから使っていないだけでしょ！それにあのときは特別セールで2割引って宣伝してたから買ったのよ。」
痛いところを指摘されたらしく、カミさんもちょっと狼狽ぎみで言い訳も苦しそうだ。このままこっちのペースに持っていこう。
「しかしあんな玩具みたいなものが、16,000円なんて馬鹿げているぜ。2割引ったって、最初から二重価格に決まってんだろ。まんまと売る側の戦略に はまっているだけじゃねぇかよ。」
「だから何なのよ！女は『脚が命』なのよ！（怒）」
「あれぇーこの間は『肌が命』って言ってなかったっけ？その前は『胸が命』だっけ？君は『命』がいくつあるのかな？そういえば、『美乳器』の宣伝ページも何故か折れ曲がっていたな。まさかそんなものまで買うつもりじゃないだろうな。」
「うるさいわね！大体あなたは男のくせして細かいのよ！美しさの追求は『女のロマン』よ！ 『美乳器』だってT-シャツをかっこよく着るには必要なのよ。あなただって昔（香港在住時10年ほど前）、『巨乳』なんてエッチビデオを私に隠れて借りてきてたじゃない。知ってんだから！」
なに！僕は突然話しを別方向に振られ、ちょっと慌てる。
「べ、別にあれは隠していた訳じゃねぇよ。あのビデオ屋のオヤジ（香港人）が、好いビデオが入ったから持ってけ って言ったからしかたなく借りただけだよ（汗）」
態勢を整えて反撃しようとしたところ、 「どうしたのママー！」 と 別の部屋から両親の会話を聞きつけた娘が飛び込んできた。
「うん何でもないのよ。パパがちょっとエッチだから注意しただけよ。」
何でこういった展開になるの？バイク買い替えの話しから、いつのまにか僕がエッチオヤジにされている。この時に限ったことではないが、カミさんと話していると、いつのまにか論点がすり変わっていることが多いんだ。
結局、『窮鼠 猫を噛む 大作戦』は、どっちが猫か鼠かわからなくなったまま、フェードアウトだ。 まぁ焦ってもしょうがない、時期をみてまた話してみよう。
それから数週間後、いきなりカミさんが放った言葉に驚いた。
「バイクを買い替えたらどう？その代わり、もう一生何にも買っちゃダメよ」
一体どうなっちゃてんだ。女心と秋の空（バリ島に秋はあるのか？）と言うものの、何か良い事でもあったのだろうか。 それ以上、会話をして機嫌を損ねると、またややこしくなるので、僕は一言「あんがと」と言って、一人でバイク購入資金を下ろす為、急いで銀行へ向かった。「もう一生何にも買っちゃダメよ」という言葉にはちょっと引っかかったが、この際、気にするのはやめよう。
（エピローグ）
カミさんの承認を得てGSX250を購入してから3年が経った。事故にも遭わず、マシンもすこぶる好調だ。 今日もカミさんを後部シートに乗せ、一緒にデンパサールの手芸屋さんまで買い物に付き合ってやった。
信号が青に変わるたびに、「ハイドー」と言いながら僕の脇腹を叩くのは止めて欲しい。僕は馬じゃない。 それから、減速しているときに、僕のベルトを上に引っ張ることも止めて欲しい。ベルトは手綱じゃない。
今日の無事故を神に感謝して。
（おしまい）
(2005.9.11)
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