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            07 年5月2日 
             
            その日の朝から僕のPCの調子が悪かったため、昼近くになってから日頃頼りにしているサービスセンターにPCを持って行った。するとそこの担当者が開口一番 
             
            「今クンバサリが燃えているぞ。あんたの仕事にも影響があるんじゃないのか」 
             
            えっ!マジかよ! 
             
            クンバサリとはバリ島のデンパサールにあるビルの名前で、「雑貨卸センター」とも呼ばれる5階建てのビルだ。インドネシア産の雑貨、衣類、アクセサリー、絵画などの卸ショップが数百店舗、ところ狭しと出店しており、毎日多くの雑貨バイヤーたちで賑わうところだ。僕も日頃大変にお世話になっている店舗も数多くある。ここバリ島で、現在僕ら家族が住まわせてもらっている借家の大家さんも、クンバサリに店舗を構えている人だ。 
             
            どの程度の被害なのだろうか? 
            けが人はいるのか? 
            火災の原因は? 
             
            そのビルに店舗を構えるオーナーの数人に連絡しても携帯がつながらない。居ても立ってもいられなくなり、まずは火災現場に急行した。 
             
            着いたのは午後3時、5階、4階は既に焼け落ち、3階の窓からの火の勢いが強い。消防隊員も、はしご車から防戦だ。 
             
            僕はビルに沿って流れる幅30mほどの川の対岸、すなわち中央市場側から、多くの野次馬と一緒に眺めていると、そこに行けばいつも気軽に声をかけてくれる、それぞれの店舗のオーナーたちの顔が次々と浮かんでくる。ここが焼け落ちて、そのオーナーたちは在庫が消失しただけでなく、展示する場所も同時に失ってしまったのだ。彼らたちはこれからどうするのだろうか。 
             
            ふと振り返るとそこは中央市場の屋外販売の場所で、そこまで飛び火はしないにしても、おばさんたちはいつもと同様に屋台に生鮮食料品を並べ始めている。 
             
            ちょっと!おばさん!目の前が火事なんだけど。どうしてこんなときに物売りができるの?? 
             
            と僕は思うのだが、おばさんは黙々と販売の準備にとりかかる。おばさんたちにとって重要なことは、周りが火事になろうとも、この生鮮品を腐らす前に売って、日銭をかせがなければならないことなんだ。僕らのように火事だ火事だと騒ぐことは何の生産性もない。 
             
            僕は、バリのこのおばさんたちの逞しさに触れ、ちょっと考えさせられた。皆、自分が今できることを一所懸命にしているだけなんだ。きっとそれが大切なんだろうな。そんなおばさんたちと、火災被害に遭ったオーナーたちの顔が重なり、彼ら彼女らが逞しく復活してくる日はそう遠くないであろうと思った。 
             
             
             
              
            バリ島クンバサリ市場 火災後のビル内部の様子 
             
             
             
            07年5月16日 
             
            火事から二週間。 
            死者もけが人も出なかったことが不幸中の幸いだった。出火原因は放火説がもっとも有力のようだ。この放火によって誰が得するのだろうか。 
             
            久しぶりにクンバサリを訪れてみると、被害のなかった1階2階は通常通り営業を再開していた。しかし、電気系統はまだ十分に復旧していないようすだ。早くも駐車場内に仮設ショップが立てられている。被害に遭ったショップはここに移設するのだろうが、今はまだ営業されていない。 
             
            馴染みのセキュリティのおじさんとちょっと立ち話をし、火災現場の階に行ってもいいかと駄目もとで尋ねたところ、ちょっとの間だったらOK、ということで案内してくれた。 
             
            僕はビル火災の現場に入ることなど、生まれて初めてだ。好奇心と若干の恐れを抱きながら3階に上がった。嗅覚が最初に反応する。火災から二週間もたっているにもかかわらず、煤の臭いは強烈だ。 
            真っ黒な景観のなかで目に入ってくるのは、火災の激しさを物語るひしゃげた鉄のフレームやシャッターだ。それ以外のものはほとんどが灰に帰している。 
             
            かつてそこにあったと思われる店をそれぞれ思い出しながら通路を徘徊し、あらためてビル火災の恐ろしさと、消失したものの大きさを感じた。 
             
            ふと足元を見ると、そこには煤で汚れた高さ60cmほどの石像のガネーシャ(ヒンドゥーの神様)が鎮座している。 
            何かを語りかけてりるような気がしたが、僕にはわからなかった。 
             
            
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