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今から一年ほど前、娘が丁度中学二年生に進級するころ、ギターが弾けるようになりたい と突然言い出した。丁度、僕もこのくらいの年齢に、ギターに興味を持ったことを思い出す。
何から影響されたのだろうか。
僕は娘が幼少の頃から、楽器が演奏できることの楽しさを話し聞かせ、また自分が実演し、なんとか楽器に興味を持たせたいと思ってきた。しかし本人はそれほど興味も示さなかったため、彼女は音楽に関しては聴く一方だった。
我が家には、香港在住に購入した激安のガットギターが一台ある。その何年も人の手に触れていない埃だらけのケースから取り出してみると、案の定、弦はさび付き、切れている弦もある。さらにギターの空洞部分を覗くと中にはカビまで生えている。
こんな湿度の高いところで、ケースに長い間入れておいたらそうなるだろうな。幸いに弦を巻くところのパーツは壊れていなかったので、弦さえ張り替えれば、何とかギターとしての体裁が整いそうだ。早速、弦を購入するために楽器屋さんに出向く。
バリ島では、楽器や音楽関連商品だけを扱っているショップは無いんだ。必ずそこには、楽器と一緒にスポーツアイテムや健康器具が販売されている。一つのショップの中で両者が区分けされているのだったらまだ理解できるが、それらは混在しているんだ。
だから壁を見れば、バイオリンの隣にバトミントンラケットが掛けてあったり、ショーケースを覗けば、リコーダーの横に鉄アレイがあったりする。
確かにインドネシア語では、「演奏する」と「スポーツをする」という動詞は同じ「main」という単語だ。英語の「play」も同様だけど、だからといって・・。
僕は店員にクラシックギターを指差し、その弦を探していることを伝えたところ、出してきたのはスチール弦だ。
あれ?お姉さんそれは違うよ。僕が探しているのはナイロン弦だよ。
もう一度クラシックギターを指差して、そこで目を疑った。そこに並んでいる全てのクラシックギターにはスチール弦が張られているんだ。再度、探しているのはナイロン弦と言うことを伝えたのだが、よく理解されないようだ。
口ではうまく伝わらないので、扱っている全ての弦を見せてもらうことにした。すると、あるではないかガットギター用のYAMAHAの弦が。価格は1セット6本の弦が入って約¥120だという。
えっ? 弦ってこんなに安いもんなの??
YAMAHAは、発動機、日本楽器製造、ともにインドネシアに工場がある。我が家の電子ピアノのYAMAHAクラビノーバもインドネシア製だ。しかし、この弦は何となく怪しい。印字も雑だし、パチもんの臭いがぷんぷんする。
まぁいいか。あまり深く考えずその弦を購入し、次に楽譜を探した。すると、楽器屋さんには楽譜は売っておらず、本屋に行けと言う。バリ島の本屋で譜面なんか置いてあるのかな。あまり期待せずに本屋に向かうと、そこにある楽譜というのはポピュラーソングのコード譜くらいだ。僕が求めるクラシックギター譜はない。さらに五線紙は、と言うと。それは文房具店に行けと言う。
ちなみに音楽CDは楽器屋さんでは販売されていない、というかできないんだ。別の販売カテゴリーに属してしまうらしい。こういったルールは、売る側、買う側、双方にとってメリットがないと思うのだが・・・
何とかして下さいよ。
あぁ・・もう20年前に行ったきりの銀座の山野楽器や新橋のヤマハが懐かしい。あそこに行けば『音楽』と名のつくものだったら何でも揃ったな。
***
早速自宅に戻り、YAMAHAの弦に張り替え、10年以上ぶりにコード『C』を奏でてみる。
ボロロ〜ン♪
やっぱ新品の弦の音はいいなぁ。楽器が生き返ったような気がする。張り替えたばかりの弦は、すぐに低くなりがちだが、その第4弦はいくらも経たないうちにどんどん低くなっていく。
おかしいなぁ、あれ??よく弦を見ると、第4弦のコイル状に細く巻かれているひもが、ぷちぷち切れているではないか。
何だよ、やっぱりこれはYAMAHAの名を冠した偽物じゃねぇかよ。まぁこんな風にバリ島では、何か今までしたことがない新しいことをしようとすると、スムーズに進まないのが常だ。
翌日、別の楽器屋さんに出向き、6弦セット¥800くらいのドイツ製の輸入品を購入し、やっと弾ける準備が整った。
これで娘にギターを渡せる。
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