ESTATE★椰子の木の下で 〜バリ島ずっこけ物語〜
  ひょんなことから、突然バリ島へ移住してしまった日本人家族の日々の喜び、驚き、感動を綴ったエッセイです。
バリ島生活泣き笑い。これから行き着く先は・・・!?
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バリ島 楽器職人 スチール・パン・ドラム

第83話 楽器職人 BackNext

チール・パン・ドラム(以下パン・ドラム)という楽器を知ったのはいつの頃だろうか。数十年前に観た、中南米が舞台の映画で、その楽器が演奏されていたような記憶がある。
面白い金属音で、音域も広く、陽気なラテン調の曲には最適だ。ただ、実物の楽器は常々見たいと思っていたのだが、そのチャンスは長い間やって来なく、いつのまにか僕にとって忘れた存在になっていた。
ところがなんと、そのパン・ドラムをバリ島で販売しているという。忘れていたその楽器に対する好奇心が蘇る。

インドネシアでは、多くの民族的打楽器(パーカッション)が製作されている。それもインドネシアの民族楽器に限らず、南米やアフリカ系のものまで、幅は広い(日本の『でんでん太鼓』まである)。
ただ、バリ島の伝統音楽『ガムラン』に使われる打楽器を除けば、それらはプロが使うにはちょっと頼りない品質だ。
僕は、パン・ドラムがあると聞いても、きっとバリ島で作った楽器だから、遊びに使える程度の品質で、音程も正確ではないだろう、とあまり期待せずに、そのショップに向かった。

スチール・パン・ドラムところが、見てびっくり。生まれて初めてその楽器を叩かせてもらったのだが、叩いたとたん、その音色が僕の「感動センサー」を著しく刺激したんだ。久しぶりだ、音そのものに感動するなんて。音色が素晴らしいだけでなく、チューニングも正確だ。
後で知ったことだが、このパン・ドラムは音域によって4種類ほどあるそうだ。そこにあったのは一番音程の高いテナー(tenor)パンと呼ばれるものだ。音域は二オクターブと三分の一(Cから二オクターブ上のD♯まで)と広い。

この楽器を知らないはずのバリ人がどうやってこれを作ったのだろうか。好奇心がますます膨らんでくる。
楽器を作っている人に是非会いたい、と店員に尋ねたところ、連絡先のe-mailアドレスを教えてくれた。(まさか教えてくれるとは・・・)



速、駄目もとで、このパン・ドラムパンの製作工程を見学したい旨をmail送信したところ、直に返信が来た。このmailの相手は、バリ人ではなく、ニューヨーク在住のアメリカ人(仮称ミスターK)だった。
数回mailを交わすうち、彼は親切にも、製作工程の見学を許可してくれ、住所と実際に作っているバリ人の製作者の名前を教えてくれた。
(まさか教えてくれるとは・・・)

こういう風に物事がうまく進む場合は、何か別の力に後押しされているように感じる。その製作者の住所は、聞いたこともない村の名前だ。しかも通りの名も、番地も入っていない。しかし、何故だか、その村に辿り着けさえすれば、必ず会えるだろうという確信めいたものが生まれた。



の日は快晴。デンパサールから目的の村までバイクで約1時間くらいの距離だと、ミスターKは言う。僕はバイクを飛ばし、まずは、その村に一番近い市に向かった。そこから人に尋ねることを繰り返すこと6回、アップダウンのきつい畦道を走り抜け、やっとのことで目的の村へ辿り着く。
何だか『ウルルン滞在記』にあったような景色だ。静かな山間に位置するその村は、人口は推測するに300人程度かな。村の中心地に集会所があり、その横に役場のようなものがある。(派出所はない)。

よし、ここで尋ねてみよう。


「へんてこな金属のドラム作っている人の家を探しているのですが、ご存知ですか?」

「あぁ、それなら、その交差点から北へ行って村の外れから3軒手前の家だ。」


了解!その製作者が不在だったらどうしよう、という否定的な考えは全くなく、僕はわくわくしながらその家の門をくぐった。
応対してくれた人は、突然の日本人の訪問に、最初は怪訝そうな表情だったが、僕の目的がわかると、すぐに相好をくずして、喜んで迎えてくれた。それが製作者のSさんだった。



外の10平米ほどの製作スペースに案内され、そこで話をお聞きすることにした。いつのまにか、Sさんの家族と思われる10人くらいの老若男女が僕らの周りを取り囲み、話を聞く態勢に入っている。ふと横を見ると、Sさん宅で飼っている豚が走り回っている。なんとも のどかな雰囲気だ。
ミスターKと、Sさんとの関係は、最初はガムラン(伝統音楽)楽器の生徒と先生という間柄だったそうで、ミスターKは数ヶ月ガムラン習得のため、この村に滞在していた。なんだかますます『ウルルン滞在記』のようなストーリーだ。
ミスターKも、もともと楽器製造に明るい人だったらしく、ここでドラム缶が手に入るのを見て、パン・ドラムを作製することを思い立った。そう、パン・ドラムはドラム缶から作られるのだ。


スチール・パン・ドラム

ミスターKはアメリカから実際のプロ用のパン・ドラムと必要な工具を取り寄せ、今度は師弟関係を逆転させ、製作方法をSさんに伝授した。
三年の努力の結果、やっとプロに通用するものができるようになったとのこと。しかしまだテナー・パンだけで、他の3種類の音域のものは、まだ練習段階だそうだ。(既にサンプルは出来上がっていたが)

気になっているチューニング(音合わせ)に関して質問してみた。一度作製したら、もう音程/音色の変更はできないはずだ。チューニング方法はおそらく音叉か何かを使っているのだろうと想像していたが、彼はおもむろにKORG社の電子チューナーを出してきたので驚いた。
既に440Hzにセットしてあり、ある音を発すると、その音に一番近い音程が液晶に示され、そのぶれ方まで判るんだ。周りで走っている豚くんの鳴き声(ブヒブヒー)の音程を計りたかったけど、それはできずじまいだった。

音程はそれで判るとしても、音色のチェックはどうするのだろうか。これこそSさんの職人としてのセンスが問われるところだろう。幼少からガムラン音楽で鍛えてきた耳は、相当に発達しているようだ。
彼は販売するには恥ずかしいという失敗作も見せてくれたが、それは練習用とし充分に使える代物に思えた。(ただで頂戴?)



やぁ Sさんの努力も素晴らしいが、ミスターKも立派だ。ミスターKがこの製造方法を伝授したことによって、Sさんファミリーの収入もより安定したものになっている。その証拠に、彼がアメリカに帰っても、こうして伝授された製造方法はずっと生き続け、販売につながっているんだ。

その国から物を買うだけでなく、こういった自身の持っている知恵や技術のシェアが、真の意味の貢献と言えるのかもしれない。シェアする側も、される側も、互いがハッピーなんだ。

***

また近々、あの村に行ってみたいな。そしてあのテナー・パンをオーダーしてこようかな。

(2007.6.4)
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