Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう | ●資料集第9回締約国会議

ラムサール条約 第9回締約国会議
文書24:評価ツール

日本語訳:琵琶湖ラムサール研究会,2005年.  PDF (232 zip

条約事務局原文: 英語 


「湿地と水:命を育み,暮らしを支える」
"Wetlands and water: supporting life, sustaining livelihoods"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第9回締約国会議
ウガンダ共和国カンパラ,2005年11月815日

ラムサール条約第9回締約国会議文書24
Ramsar COP9 DOC. 24
情報文書

「湿地目録、評価及びモニタリングの統合的枠組み(IF-WIAM)」に含まれる評価ツール

[訳注:この文書は決議Ⅸ.1付属書E「湿地目録、評価及びモニタリングの統合的枠組み」に参照される。]

1.この情報文書は、第9回締約国会議決議案DR1付属書E「湿地目録、評価及びモニタリングの統合的枠組み」訳注1を裏付けるために、条約の科学技術検討委員会STRP)第1作業部会と条約事務局が準備したものである。

2.湿地目録、評価及びモニタリングの統合的枠組みに現在含まれる各評価ツールについて、本文書に標準項目と追加情報のための参考文献を示して手短かにまとめた。これらのツールは、以前の締約国会議に採択されたもの、今回の第9回締約国会議で採択を検討されるもの、あるいは詳細な方法論の手引きの場合にSTRPが「ラムサール条約技術報告書 Ramsar Technical Report」として出版を準備中のものがある。

3.それら評価ツールとは次のものである:

A.湿地リスク評価 Wetland Risk Assessment
B.環境影響評価 Environmental Impact Assessment (EIA)
C.戦略的環境影響評価 Strategic Environmental Assessment (SEA)
D.湿地脆弱性評価 Wetland Vulnerability Assessment (VA)
E.湿地価値評価 Wetland Valuation
F.生物多様性迅速評価 Rapid Assessment of Biodiversity

A.湿地リスク評価決議Ⅶ.10付属書より)

評価の目的

4.条約の湿地リスク評価の枠組みは、国際的に重要な湿地の登録リストに掲げられた湿地およびその他の湿地の生態学的特徴の変化を予測しかつ評価するための方法を提供する。湿地の生態学的特徴の変化をいかに予測し評価するかを手引きし、また特に、早期警戒システムの有効性を高めるものである。

説明

5.この枠組みは湿地リスク評価のために標準化されたモデルからなり、一般化された生態学的リスク評価パラダイムを修正したものである。それは、次の6つのステップに概説される:

6.ステップ1−問題の特定。これは、問題の性質を特定し、この情報に基づいて、リスク評価の計画を作成する過程である。この段階では、リスク評価の目的と範囲を定めて、当該評価の基礎を築く。化学的影響の場合には、対象となる化学物質の特徴(性状、既知の毒性等)、その発生源、何が影響を受ける可能性があるか、どのように影響を受けるか、及び重要なこととして、何が保護されるべきかに関する情報を得て、それを盛り込むことを含む。

7.ステップ2−悪影響の特定。この段階では、湿地に対するマイナスの変化または影響が及びうる範囲を評価する。データはできれば現地調査から得るべきである。その理由は、フィールドデータのほうが、多くの湿地に生じているような複合的影響を評価するのに適しているからである。マイナスの変化の範囲と利用できる資源に応じて、こうした調査は定量的現場実験から定性的観察調査まで様々なものとなりうる。化学的影響については、現場で環境毒性の生物検定法を行うのが適切な方法であり、雑草や野生化した動物によって引き起こされた変化については、現場観察とマッピングを行うだけでよい。

8.ステップ3−問題範囲の特定。この段階では、湿地の挙動及び問題の発生範囲に関して他で集められた情報を使って、対象となる湿地について問題となる可能性の高い範囲を推定する。化学的影響の場合、この情報には、一般的な化学的性質、及び化学物質が環境に入ってくる割合に関するデータに加えて、輸送、希釈、分離、残留性、劣化、変容等のプロセスに関する情報も含める。侵入種の植物の場合、この情報には、生態系への進入、広がる速度、生息地の好みに関する詳しい情報を含めることができる。現地調査はもちろん理想的な方法ではあるが、過去の記録の利用、シミュレーションモデリング、現地や実験室で実験研究を行うことは、いずれも、問題範囲の特性を指摘する代替法ないし補完法となる。

9.ステップ4−リスクの特定。この段階では、湿地のマイナスの生態学的変化がどのような水準で起こりうるかを推定するために、起こりうる影響についての評価結果と、見込まれる問題範囲についての評価結果とを統合する。リスクを評価するには一連の技術があり、どの技術が適しているかは、起こりうる影響の種類、質、その範囲に応じて決まる。湿地のリスクを特徴づけるのに有用と見込まれる技術は、GISをベースにした枠組みによるものであり、この方法では、影響と要因を関連づけるために、各種評価結果を対象地域の地図上に重ねる。こうした方法はリスクを評価するだけでなく、将来の評価やモニタリングを、特定した問題地域に集中して行うのにも役立つ。

10.ステップ5−リスク管理とリスク削減。この段階は最終的な意思決定過程であり、ここでは上述した評価過程から得た情報を利用して、他の社会価値、地域社会の価値または環境価値を損なわずに、リスクを最小限にとどめようとする。ラムサール条約の場合、リスク管理は、「賢明な利用」の概念を考慮するとともに、管理上の決定がこの概念に及ぼす潜在的影響についても考慮していなければならない。リスク管理において考慮する要因は、リスク評価の結果だけではなく、政治的要因、社会的要因、経済的要因、工学的技術的要因、並びにそれぞれのリスク削減行動の長所と限界についても考慮する。リスク管理は、湿地管理者と関連分野の専門家とのコミュニケーションを必要とする学際的な作業である。

11.ステップ6−モニタリング。モニタリングはリスク評価過程の最終段階であり、リスク管理に関する決定の有効性を検証するために、これを行うべきである。モニタリングには、深刻な環境上の悪影響が発生する前に、リスク管理に関する決定の不履行または履行不十分という状況を探知し、信頼性のある早期警戒システムとして機能する要素を組み込むべきである。効果的なモニタリングを行わないならば、リスク評価はほとんど価値のないものとなる。モニタリング過程においては、測定する終点の選定がきわめて重要な意味を持つ。またGISに基づくアプローチは、湿地への悪影響をモニタリングするのに役立つ立体的寸法を組み込んでいるため、湿地リスク評価にとって有用な技術になるはずである。

図1.湿地リスク評価モデル
[付録:和訳ワードファイル (27)]
図1.湿地リスク評価モデル

ケーススタディ

侵入種

環境を目的とした水の配分

条約の資料

参考資料

B.環境影響評価(EIA(ラムサール条約「湿地の賢明な利用ハンドブック」第2版第11巻(2004)より)

評価の目的

12.環境影響評価とは、プロジェクト案または開発案について、社会経済、文化及び人の健康への相互に作用しあう影響を、プラス面もマイナス面も含めて考慮し、生じうる環境影響を評価するプロセスをいう。

説明

13.世界各地で法律や慣行に違いはあるものの、環境影響評価の基本的な構成要素として次の段階が必ず含まれているものと思われる:

14.ステップ1−スクリーニング。プロジェクトまたは開発計画のうち、完全な、または部分的な影響評価を要するのはどれかを判定する。

15.ステップ2−スコーピング。スクリーニングの段階で重要と判明した広範にわたる問題は、スコーピングによって焦点が絞られる。これは、環境影響評価の評価事項(ガイドラインと呼ばれる場合もある)を導き出すために行われる。またスコーピングにより、管轄当局(スコーピングが制度化されていない国の場合は、環境影響評価の専門家)は以下を行えるようになる:

16.ステップ3−影響の分析と評価。この段階は、影響の評価、代替案の立案、比較を繰り返し行うプロセスでなければならない。影響の分析と評価における主な作業は次のとおりである:

17.一般に影響の評価では、その性質、規模、範囲及び効果の詳細な分析と、それらの重要性の判定(影響が利害関係者にとって受け入れられるか、影響緩和措置が必要か、まったく受け入れられないか)が行われる。生物多様性に関して得られる情報は、一般に記述的で限定的であり、数値的な予測の根拠としては使えない。影響評価に使える生物多様性についての基準を作成または編纂し、個々の影響の重要性を評価する際に対比できるような測定可能な基準や目標を定めることが必要である。生物多様性国家戦略・行動計画のプロセスで定められた優先事項や目標は、こうした基準を策定する際の手引きとすることができる。リスク評価の手法や予防的アプローチ、適応的管理を用いる際の基準など、不確実性を扱うための手法を開発する必要がある。

18.ステップ4−影響緩和措置の特定。評価のプロセスで影響が重大であると判定された場合、影響緩和措置を提案するのが次の段階であり、これらはともに「環境管理計画」に盛り込まれることが理想である。環境影響評価における影響緩和措置の目的は、活動によるマイナスの影響を回避するか許容できるレベルまで軽減できるよう、そして環境上の利益が拡大するように、より有効なプロジェクトの実施方法を探ること、また、社会や個人が負担するコストがプロジェクトから生じる利益を超えないようにすることである。この場合の救済措置には、回避(または防止)、影響緩和(現地の再生や回復)、代償(防止や緩和を行ったあとに残った影響に関して行われることが多い)など、いくつかの形が考えられる。

19.ステップ5−意思決定。意思決定は、スクリーニングやスコーピングの段階から、データの収集・分析の過程での決定、代替案や影響緩和措置を選択するための影響予測、そして、プロジェクトの却下か承認かの決定に至るまで、徐々に規模を増しつつ環境影響評価のプロセス全体にわたって行われる。生物多様性の問題は、その全プロセスを通し、意思決定が行われるとき考慮すべき重要な要素でなければならない。その最終決定は、本質的には、プロジェクトを進めるかどうか、どのような条件で進めるかについての政治的な判断である。プロジェクトが却下された場合は、計画を見直したうえで再提出することができる。プロジェクトの提案者と意思決定機関は、二つの別々の主体であることが望ましい。

20.生物多様性に重大な害が及ぶリスクに関して科学的に不確実性がある場合、意思決定においては予防的アプローチをとるべきである。科学的確実性が高まるにしたがい、決定は修正することができる。

21.ステップ6−モニタリングと査定。モニタリングと監査は、プロジェクトの開始後、実際に何が起きているかをみるために行われる。予測される生物多様性への影響と同様、環境影響評価で提案された影響緩和措置の有効性もモニタリングする。適切な環境管理によって、予測される影響が予測の範囲内に収まるようにし、予期しない影響については問題化する前に対処して、プロジェクトの進行とともに、期待される利益(またはプラスの展開)が実現するようにする。モニタリングの結果から得られる情報に基づき環境管理計画の定期的な見直しや変更が行われ、またプロジェクトの全段階で優良実践例を通じて環境保護を最適なものにするためにもこの情報が使われる。環境影響評価によって生成された生物多様性に関するデータは、他者も入手して利用できるようにし、また生物多様性条約に基づいて立案、実施される生物多様性評価プロセスとリンクさせる。

22.環境監査は、プロジェクトの(過去の)実績を独立に調査、評価するものであり、かつ環境管理計画に対する評価の一環であり、環境影響評価の承認の決定の実効性を確保するのに役立つ。

図2.環境影響評価手順フローチャート
(英語原典:UNEP/CBD/SBSTTA/7/13PDF),ならびにラムサール条約「湿地の賢明な利用ハンドブック」第11巻)
[付録:和訳ワードファイル (31)]
図2.環境影響評価手順フローチャート

条約の資料

環境影響評価について取り扱う条約の決議や勧告には次のものがある:

環境影響評価についての手引きはラムサール条約「湿地の賢明な利用ハンドブック」第2版(2004)の第11巻「環境影響評価」にまとめられている。

参考資料

C.戦略的環境影響評価(SEA(ラムサール条約「湿地の賢明な利用ハンドブック」第2版第11巻(2004)より)

評価の目的

23.戦略的環境影響評価は、提案される政策や計画、プログラムなどが環境に与える影響の重大性を特定し査定する、定型化された系統的かつ包括的な過程である。またそれは、意思決定の最も初期段階において、環境に与える影響の重大性を、経済的ならびに社会的な検討と同様に、十分考慮し適切に対処することを確実にしようとするものである。戦略的環境影響評価は本質的に、特定のプロジェクトの環境影響評価よりも広い活動範囲あるいは区域におよび、より長期間にわたることがしばしばである。

24.戦略的環境影響評価は、(例えばエネルギーに関する国家政策といった)活動分野全体、あるいは一定の地理的範囲(例えばある地方の開発を計画する場合)に適用されるものであろう。

説明

25.戦略的環境影響評価の基本的なステップは環境影響評価のものと同様であるが、その視野が異なる。戦略的環境影響評価は、各プロジェクトレベルで実施する環境影響評価に置き換わるものでもその必要性を削減するものでもなく、(生物多様性を含む)環境に関する配慮を意思決定過程に合理的に組み入れることを助けるものであり、各プロジェクトレベルでの環境影響評価をより効力のある過程にすることもしばしばである。戦略的環境影響評価は、一般的に国レベルの政策や計画あるいはプログラムの潜在的影響を評価するように設計されている。

26.戦略的環境影響評価は次のようなステップをとる:

ステップ1−開始。戦略的影響評価が必要かどうかを決定する。
ステップ2−検討。計画提案と他の関連政策・計画・活動プログラムとのあいだの関係を評価する。
ステップ3−スコーピング。評価すべき代替案や影響を特定する。
ステップ4−影響の評価。検討される代替案による環境に対する成果について、その証拠を評価し予測する。
ステップ5−外部諮問。他の政府機関や外部の専門家、利害関係者、ならびに一般の人々を含む外部からの意見や助言を求める。
ステップ6−情報公開。報告するための情報を収集して提示し、必要に応じてそれらをさらに利用する。
ステップ7−決定。成果および影響評価に関する最初の考察を概説する。
ステップ8−特定。各プロジェクトレベルの環境影響評価に必要とされる情報やモニタリングを特定する。
ステップ9−フォローアップ。これ以降に何が必要か追跡する。各プロジェクトレベルで影響がおよぶ前に影響緩和措置を実施することを含む。

27.戦略的環境影響評価は環境影響評価よりもゆっくりと発達してきており、ようやく統合されて首尾一貫したアプローチになろうとするところである。一般の人々の参加や協議が戦略的環境影響評価のすべての過程において組み込まれる。管轄によっては法律的にも必要とされる。戦略的環境影響評価はこのように、意思決定権者が当該提案の環境に関する目標や含蓄を見直してそれらが他の政策や計画されるイニシアティブと矛盾がないことを確実にするためのひとつの過程である。計画立案者は地方の当局のこともあれば、政府の省庁、あるいは政策決定ならびに計画立案の責任を負うその他の公共機関のこともあろう。多くの管轄権において、戦略的環境影響評価が持続可能な開発を進めるためのツールとしてより明白に意図されている。それはラムサール条約が目指す湿地の賢明な利用の概念の実施、ならびに水資源と湿地資源の統合的管理を支援するものである。

条約の資料

28.環境影響評価について取り扱う条約の決議や勧告には次のものがある:

参考資料

D.湿地脆弱性評価(VA(準備中の「ラムサール条約技術報告書」(Gitay in prep.)より)

評価の目的

29.脆弱性評価は、気候変動や変化性その他の圧力による悪影響に対する湿地の感受性、あるいは悪影響に湿地が対処できなくなる限度を測定する。そのような圧力には土地利用被覆変化や水循環、あるいは過剰収穫や過剰利用、外来種の侵入も含まれる。これらの圧力は、個別、累積的、あるいは相乗的に働く。

説明

30.脆弱性は特定の空間的ならびに時間的規模で測定され、現地の状況によって変化する動的な特性である。例えば、火事に対する脆弱性が乾季に高まるように、特定の時期に脆弱であるがその他の時期はそうでもない系もある。湿地はその適応能力が低ければ脆弱であるが、変化に対処する本来の能力が低い場合や、(例えばその地理学的位置や社会政治学的状況による)圧力による悪影響を減らすための選択枝がほとんどないか、全くない場合、あるいはまたそのような圧力にもともと感受性が高い場合は極めて脆弱である。脆弱性には、リスク評価(即ち、害の程度と害への曝露)が組み込まれ、湿地の安定性あるいは回復力ならびに感受性、また一以上の害に対処する能力と関連する(表1)。

表1.湿地の感受性ならびに回復力と,その脆弱性との関係.

回復力

感受性

脆弱極めて脆弱
脆弱でない脆弱

31.湿地の脆弱性評価の概念には次のような特質が適用される:

  1. 当該湿地の将来状況における変化の確率を何らかの基準(あるいは基線)に関連させて予測し評価する;
  2. そのような変化は何らかの危機的な出来事によって起こる;
  3. 脆弱性は期間次第である(即ち、ある季節、一年、あるいは十年のあいだといった検討する期間によって脆弱性は変化しうる);そして、
  4. 現在のその系の状況、その回復性と感受性が将来の脆弱性を決める。

32.脆弱性評価は、危機的な出来事が発生する確率やその出来事が当該湿地に及ぼす影響を測定し、当該湿地の感受性と回復力に基づいてリスク削減と悪影響を低減するためのリスク管理の選択枝を開発し、当該湿地に望ましい結果を明確にしてその望ましい結果を達成するための対応選択枝を確実にするようなモニタリングと適応性のある管理を実施するといった一連の過程である。

33.OECDの「状態・圧力・影響・反応モデル(state-pressure-impact-response model)」やミレニアム生態系評価の概念的枠組み(Millennium Ecosystem Assessment 2003)、ならびに引用したケーススタディより導いた、脆弱性評価の枠組みはつぎのとおりである:

34.ステップ1−リスク評価とリスク認識

35.ステップ2−リスクの最小化あるいは管理

36.ステップ3−モニタリングと適応性のある管理

ケーススタディ

条約の資料

参考資料

図3.湿地脆弱性評価の枠組み
(準備中の「ラムサール条約技術報告書」(Gitay in prep.)より)
[付録:和訳ワードファイル (29)]
図3.湿地脆弱性評価の枠組み

E.湿地価値評価(湿地サービスの評価)(準備中の「ラムサール条約技術報告書」(de Groot & Stuip in prep.訳注3より)

評価の目的

37.ここに扱う価値評価は、湿地や湿地サービスの価値(重要性)に関する情報をさまざまな利害関係者に提供するものであり、よって湿地の利用にかかる競合が生じた場合にバランスのとれた意思決定を確実にしようとするものである。かつては経済的開発にかかる決定がなされる際にこのような情報が十分には考慮されないことがしばしばであった。ミレニアム生態系評価によってこの価値評価は次のように定義される:『湿地の特定の財やサービスについてその価値を表現する課程であり、それは数量化可能なものを用いて、金銭的価値のことがしばしばだが、それ以外の分野(社会学や生態学など)からの方法や尺度を通じても述べられる』。

説明

38.湿地価値評価に取りかかるにはつぎの5つの主要なステップを踏む:

39.ステップ1−政策過程および管理目標の分析。どのような価値評価が必要か(例えば、過去あるいは現在ある干渉の影響を評価するのか、計画される湿地利用のトレードオフを分析する(これは部分的価値評価である)のか、そのままの湿地の総合的価値を測るのか、など)を議論する場を設定するために、政策過程および管理目標への洞察を提供する。このステップでは、政策や管理の決定に関連のある価値を生み出す方法を確かめる。

40.ステップ2−利害関係者の分析と参加。主要な利害関係者を特定する。これは価値評価の手順のほとんどすべてのステップにそれら利害関係者の参加が欠かせないからである。そのような価値評価手順はすなわち、主要な政策および管理目標の決定、主要な関連サービスの特定とそれらサービスの価値の評価、ならびに湿地利用に組み込むトレードオフについての議論である。

41.ステップ3−機能分析(湿地サービスの数量化)(なにを価値評価するか?)。湿地の特色(過程や構成要素)が特定のサービスを提供する機能に変わる。これらのサービスを、適当な(生物物理学的あるいはその他の)ユニットで、実際上あるいは潜在的な持続可能な利用の水準に基づいて、数量化する。

42.ステップ4−湿地サービスの価値評価(いかに評価に取りかかるか?)。ステップ3で特定された湿地サービスから得られる恩恵を分析する。これら恩恵は、(生態学的、社会文化的、ならびに経済的指標の)適切な価値ユニットと金銭的価値の両面で数量化する。

43.ステップ5−湿地の価値についての対話。価値評価の結果をすべての利害関係者や関連する意思決定者が十分に理解するために、対話と普及活動が欠かせない。そのための指針が、ラムサール条約事務局やIUCN等がパートナーシップを組んで進めている「自然の価値評価と資金調達ネットワーク Nature Valuation and Financing Network (www.naturevaluation.org)」のプロジェクトの英語ウェブサイトに提供されている。このサイトのデータベースから文献やケーススタディのを入手でき、また湿地の機能の価値評価に関する情報や経験を交換するための議論の場が提供されている。

44.価値評価自体はこのステップ5で終了するが、価値評価で生成された情報を意思決定手段(例えばマルチクライテリア分析やコスト・ベネフィット分析)に構造的に統合することが極めて重要である(図4)。但し、価値評価に取り組むためのこの指針の範囲外である。

図4.湿地サービスの統合的評価と価値評価の枠組み
MFU=多機能利用;TEV=全経済価値;EIA=環境影響評価;DSS=意思決定支援システム;CBA=コスト・ベネフィット分析;MCA=マルチクライテリア分析
[付録:和訳PPTファイル (22 zip)]
図4.湿地サービスの統合的評価と価値評価の枠組み

ケーススタディ

条約の資料

参考資料

F.生物多様性迅速評価COP9決議案DR1付属書E☞ 決議Ⅸ.1付属書Eⅰに採択された]より)

評価の目的

45.迅速評価は湿地の生物種の多様性の梗概の評価である。しばしば緊急事項として取りかかり、信頼できる適切な成果が得られる可能な限り最短の期間で取り組む。

46.湿地のための迅速評価では、季節性のような生態系の一時的な分散を考慮するようには立案されないことが一般的であるが、統合的なモニタリングプログラムの要素として繰り返される調査のなかでそのような一時的な分散を扱う迅速評価方法を採ることもできる。

説明

47.迅速評価の技術は生物多様性の種レベルの構成要素に特に関連するが、リモートセンシング技術のように生態系あるいは湿地の生息環境レベルに適用できる他の方法もある。生態系レベルでの迅速評価方法についてのいっそうの手引きを開発することも適当かもしれない。遺伝子レベルでの生物多様性の評価は一般的には「迅速な」アプローチには適していない。

48.迅速評価のための指針は、生物多様性条約とラムサール条約が協働して開発したものであり、評価の立案と実施の基礎としてその目的を明確に築くことの重要性を強調する。また、迅速評価方法を用いた新たな野外調査を実施する必要があるかどうかを決める前に、地元の社会が保有する情報も含めた既存の知識や情報の総論に取りかかるべきであることも強調する。その次のステップは、評価の目的を満たす適切な方法を選択しやすいように決定樹のかたちをとって提示される。各々の迅速評価方法を通じて得られる情報の範疇の指標が示され、迅速評価の目的の各々に適する範囲の方法の情報も含まれる。また一連のデータ分析ツールに関する情報も示されている。

49.ステップ1−目的と目標を明言する。迅速評価に取りかかる理由を明言する:なぜ情報が必要なのか、誰が必要としているのか。ここには、目的と目標を達成するのに必要な規模や解決策を決定すること、それに続いて核となるあるいは最少限の位置や大きさを記述するデータの特定、ならびに当該湿地に特別な特徴が含まれる。

50.ステップ2−既存の知識と情報を総論し、不足を特定する。入手可能な情報源および地元の知識(科学者や利害関係者、ならびに地元および先住民の社会を含む)を、机上での研究やワークショップなどを用いて総論する。そうして検討対象の湿地の生物多様性について得られる知識と情報の程度を測定する。得られるデータのすべてを含める。

51.ステップ3−研究の立案。ここには次のような別々の要素が含まれる:

  1. 既存の評価方法を検討し、適切なものを選ぶ。利用できる方法を検討し、必要に応じて専門家の技術的助言を求めて、所要の情報を供給可能な方法を選択する。決定樹が適切な野外調査方法を選ぶ手助けになる。
  2. 必要な場合は生息環境の分類システムを築く。地球規模で統一されるものとして認められた分類システムは無いので、評価の目的を満たす分類を選ぶ。
  3. 時間配分の予定を築く。次の作業に時間配分が必要である:
    1. 評価作業の計画づくり;
    2. データの収集と加工ならびに解釈;
    3. 結果の報告。
  4. 必要資金の水準を築き、実行可能性と所要の費用効果性を評価する。評価作業に利用可能な資金の程度と確実性を築き、資金不足によるデータの損失が無いように不慮の際の臨時計画も複数を立てておく。制度的、資金的ならびにスタッフの現状のもとに結果の報告まで含めたプログラムが着手可能かどうか評価する。データの入手から分析までの費用が予算内に納まるかどうか、またプログラムを完遂する資金が得られるかどうかを決める。適切な場合に、プログラムの定期的な見直しを計画する。
  5. データ管理システムと標本保存システムを築く。データを収集して記録し、保存するための明確な実施要綱を、電子形式あるいは印刷形式を含めて、築く。データ源およびその正確さと信頼性を将来のユーザーが決定し、またそれら資料を利用できるように、適切な標本の保存を保証する。この段階でまた、適切なデータ分析方法を見極めることも必要である。データ分析のすべては、正確で検査された方法によって実施され、すべての情報は文書化されるべきである。データ管理が分析を制限するのではなく、分析を支援するようなデータ管理システムにして、かつ次の目的のためのメタデータベースを含む:)目録のデータセットに関する情報を記録する;および)データ管理任務の詳細ならびに他のユーザーの利用について概説する。
  6. 報告の手順を築く。結果のすべてを時を得て、かつ費用効果があるように、説明し報告する手順を築く。報告は簡潔によくまとまっていなければならない。目標が達成されたかどうかを表わし、さらなるデータや情報が必要かどうかも含めて、生物多様性を管理する行動のための提言を盛り込む。
  7. 見直しと事後評価過程を築く。報告や評価過程の調節が必要な際の情報提供を含めたすべての手順が効力をもつことを確実にするように、公式の開かれた見直し過程を築く。

52.ステップ4−研究の実施と方法論の継続的な評価。評価に取りかかり、試験して必要に応じた調節を施す。すべての方法の詳細と方法の変更については、用いた専門知識を含めて記録する。参加スタッフの研修の必要性を評価し、彼らに必要な技能を提供する段階を踏む。データを対照し、収集し、入力、分析、解釈する手段も確認して記録する。特に、リモートセンシングについてはどの場合でも必ず、適切な地上実測調査で確実に証拠立てる。

53.ステップ5−データ評価と報告。報告やプログラムの調節が必要な際あるいはプログラムを終える検討のための情報提供を含めたすべての手順が効力をもつことを確実にするように、公式の開かれた見直し過程を築く。結果は、適切な様式で、かつ地元当局や地元社会等の利害関係者、地元レベルから国レベルまでの意思決定者、支援団体や学会などに適した詳しさで提供する。評価の目的を満たさなかった場合は上記ステップ3へ戻る必要がある。

図5.迅速評価の概念的枠組みを適用する主要段階の概要
[付録:和訳ワードファイル (39)]
図5.迅速評価の概念的枠組みを適用する主要段階の概要

54.決定樹が、適切な生物多様性評価方法の選択を可能にするために使え、その際は選択基準の構造的な枠組みに基づく。それらの基準は湿地の生物多様性評価の最も重要な要因を発達させる際にまとめられる。決定樹は評価の最も基礎的かつ最も広い構成要素にはじまり、より選択的な基準を進歩させるに従って決定樹も伸びてゆく。最終的に必要な評価全般の枠組みが明らかになり、それは評価の目的やアウトプット、得られる資源と対象範囲によって規定されて融合した形をとる。その着想は、アウトプットや目的のような情報のパラメーターを、時間枠や資金ならびに地理的範囲などの論理的パラメーターと融合させることであり、こうして現実的な評価モデルを提示し、またどの方法が実施可能か決めることができる。

55.決定樹は5つの特定の目的と一致する3つの全般的目的を提供し、それは評価の型を決める。決定樹に用いる5つの特定の評価型は、目録評価特定の種の評価影響評価指標評価、ならびに経済的資源評価である。評価の目的と型をひとたび決定すれば、決定樹はより特定の生物多様性評価構成要素のマトリックス(行列)を通じてユーザーを導く。

ケーススタディ

条約の資料

参考資料


[訳注]
  1. 第9回締約国会議決議案DR1付属書E「湿地目録、評価及びモニタリングの統合的枠組み」は同決議案とともに締約国会議により採択され、決議Ⅸ.1付属書Eとなった。
  2. 「機能グループ」は生活様式、特に生理的特性に基づいて類型化された生物群のこと。例えば、常緑針葉樹/落葉広葉樹/常緑広葉樹の類型や、塩分や温度への適応性による類型など。
  3. ラムサール条約技術報告書シリーズの湿地価値評価の手引き(英文)は、2006年につぎのとおり発刊した:De Groot, R.S., Stuip, M.A.M., Finlayson, C.M. & Davidson, N. 2006. Valuing wetlands: Guidance for valuing the benefits derived from wetland ecosystem services. Ramsar Technical Report No. 3 / CBD Technical Series No. 27. Ramsar Convention Secretariat, Gland, Switzerland & Secretariat of the Convention on Biological Diversity, Montreal, Canada, 45 pp, ISBN 2-940073-31-7. [on-line] http://ramsar.org/lib/lib_rtr03.pdf (1.6MB)


[英語原文:
ラムサール条約事務局,2005.Ramsar COP9 DOC. 24: Assessment tools contained within the Integrated Framework for Wetland Inventory, Assessment and Monitoring (IF-WIAM). http://ramsar.org/cop9/cop9_doc24_e.htm
 本文書はラムサール条約「湿地の賢明な利用ハンドブック」第3版(2006)の第11巻「目録・評価・モニタリング」にも収録されている.]
[和訳・編集:
琵琶湖ラムサール研究会 本文書のA節「湿地リスク評価」の部分は「ラムサール条約第7回締約国会議の記録」(環境庁 2000)の決議Ⅶ.10付属書の和訳,B節「環境影響評価」の部分は「ラムサール条約第8回締約国会議の記録」(環境省 2004)の決議Ⅷ.9付属書の和訳を,本文書の記述にあわせて編集したものであり,その他の部分は新たに訳出したものである.琵琶湖ラムサール研究会,20062008年.]
[レイアウト:
条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページにおおむね従う.文献リストに挙げられているもののオンライン資料へのリンクを加えた.]
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決議Ⅸ.1付属書ERTR[未刊]RTR3英語PDF), RTR2英語PDF), 決議Ⅸ.1付属書Eⅰ決議Ⅷ.6決議Ⅶ.10付属書決議Ⅷ.9 決議Ⅹ.[x]SC37案文:DOC. SC37-22[英文]), 決議Ⅵ.1付属書 .]
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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop9/cop9_doc24_j.htm
Last update: 2008/06/17, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).