Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第7回締約国会議

ラムサール条約 基本文書

河川流域管理のガイドライン

日本語訳:環境庁,2000年[了解を得て再録].

 英語   フランス語   スペイン語  (以上,条約事務局)    PDF  (環境省のインデックスページ)


「人と湿地:命のつながり」
"People and Wetlands: The Vital Link"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第7回締約国会議
1999年5月1018日 コスタリカ サンホセ

河川流域管理に湿地の保全と賢明な利用を組み込むためのガイドライン

決議Ⅶ.18により採択)


はじめに

1.湿地は、人間に利する多くの生態学的、水文学的機能を果たす。湿地の機能のうち、最も重要なものは水の供給と浄化、洪水調節に果たす役割にあるといってよい。その他にも、例えば漁業や林業資源のための生息地提供といった多くの重要な社会経済的機能を果たしており、生物の多様性保全にもきわめて重要である。

2.河川流域、または集水域(源流から河口までの、川に流れ込む水が集まる範囲をすべて含む陸域)及び、集水域から流出する水により影響を受ける沿岸・海洋系は、湿地と水資源の管理を考える上で重要な地理上の単位である。湿地とそれを含む河川流域の、急速で持続不可能な開発は、自然の水文学的循環を攪乱させている。多くの場合、これは洪水、干ばつ、汚染などの頻発と激化をもたらしている。湿地とその生物多様性の劣化あるいは喪失は、こうした河川流域に住む人々に多大な社会的・経済的損失と犠牲を強いている。したがって、このような生態系が存続しその地域の社会に重要な財とサービスの提供を続けられるようにするには、湿地の適切な保護と湿地への水の配分とが不可欠である。

3.来るべき新千年紀には、水資源への需要が増加の一途をたどり、汚染物質の量も同じく増大を続けるであろう。淡水資源の持続可能な利用という目標を達成するためには、水と河川流域の管理への新たなアプローチが緊急に求められている。これまで水資源と湿地は、目標も業務の進め方もまったく異なる別々の部門機関が担当することが多かった。その結果、水資源の利用と河川流域の管理をめぐっては過去もまた現在でも対立が絶えない。悲しむべきことに、こうした議論において、湿地は健やかで豊かな河川系の維持に貢献する上で果たしている重要な機能を考慮して当然与えられるべき高い優先順位が、常に与えられてきたとは言えない。

4.河川の管理において湿地が果たしうる重要な役割を考慮すれば、ラムサール条約(1971年、イランのラムサール)が推進するように、河川流域の管理へ湿地の保全と賢明な利用を組み込むことが、それらがともに人類に与える恩恵を最大限にし、維持するために不可欠である。

本ガイドラインの目的

5.河川流域の管理に湿地を組み込むことの必要性は、各国政府や地球規模の諸機関の多くが認識してきたことではあるものの、それをどのように行うかをラムサール条約のもとに定めた明確な手引きは現時点で存在しないことから、このガイドラインが着想された。したがって本ガイドラインのねらいは、この目的を果たそうとする締約国への支援にある。

条約本文及び締約国会議のこれまでの決定から得られた手引き

6.湿地、水、河川流域管理のきわめて重要な結びつきは、ラムサール条約本文に、また3年毎に開催される条約締約国会議における決定に強調されている。条約前文の第2節には、水の循環を調整するものとしての湿地 の基本的な生態学的機能を考慮しとあり、また第6回締約国会議はラムサールと水に関する決議.23を通じて、締約国は地下水の蓄積、水質改善、洪水の軽減、及び水資源と湿地の密接な関係を含めた湿地の重要な水文学上の機能を認識し水資源管理及び湿地保全の総括を含む、河川流域規模の計画の必要性を明確に理解すると確認している。

7.決議.23はさらに、締約国が水資源管理と湿地保全の統合を促進するにあたり、さまざまな行動(湿地の水文学的モニタリングネットワークの確立、伝統的水管理の体系や経済評価方法の研究などを含む)を実施し、国内ラムサール委員会及び地元の利害関係者を河川流域管理に参加させ、学際的研修を支援し、水に関連した機関と協力するよう求めている。

8.第6回締約国会議で承認された「19972002年戦略計画」の実施目標2.2は、締約国に対し、 土地利用や地下水管理、集水域・河川流域や沿岸域の計画策定、その他すべての環境管理に関する、国、都道府県、地方の計画策定と政策決定に、湿地の保全と賢明な利用を統合するよう要請している。


制度的枠組み

統合的な河川流域管理

9.統合的水資源管理は、水が生態系の不可欠な一部分であり、自然資源であり、また社会経済的財産であって、その量と質がその利用法の性質を決めるものである(「アジェンダ21」、国連1992年)という概念に基づいている。量と質の両面で信頼しうる水源が、人類の文明の存続と社会経済的発展の前提条件である。水の不足、徐々に進む劣化、進行する汚染とインフラ開発によって、水のさまざまな利用方法をめぐり対立が増加している。河川流域管理のアプローチは、対立を解決し、自然の生態系を含め競い合う利用者の間に水を配分するための、奨励措置に基づく参加型の仕組みの一例である。

10.統合的河川流域管理の鍵となる重要な必要条件は、河川流域の規模に照準を合わせた土地利用と水の計画策定及び管理の機構である。また、集水域からの流出物の影響を受ける海洋・沿岸系の生態学的要求条件への配慮を含める必要もある。水資源管理の統合的アプローチを推進するには多くのステップがある。特定されている重要な問題の一つは、一つの河川流域に対し、さまざまな管理機関の間で管理の責任が分散して、その結果水資源の計画策定と管理へのアプローチが分断されてしまうことである。水資源の計画策定と管理は学際的プロセスであり、したがって地元の地域社会はもとより、河川流域の範囲内で関わるもの、全国規模で活動するものも含めたすべての関連機関の間での協力の枠組みとして推進されなければならない。

11.もう一つの重要な問題は、水の問題が部門間にまたがる性格を持つこと、そして水管理の技術、経済、環境、社会、法の各側面の統合に向けた新たな発展のパラダイム 訳注 が必要であることが認識されていない点である。水資源管理における管理単位は、政治的境界線でなく河川流域の境界と一致しなければならない。水に関する立法と政策の欠如または不備も、河川流域の統合的管理と水資源の最適な利用へのもう一つの障害である。

訳注 考え方の枠組み

12.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションA

統合的河川流域管理に関する締約国のためのガイドライン

A1.河川流域内での、統合的河川流域管理と土地・水利用計画策定及び管理の促進への主要な障壁を特定し、その克服に努める。

A2.少なくとも水の管理、環境保護、農業に責任を持つさまざまな部門や機関を巻き込んだ協議型のプロセスを作り、河川流域全体の水資源の保全、利用、管理の計画を策定する。

A3.水の供給、洪水管理、汚染の事前緩和、生物の多様性の保全といった管理の目標を達成しやすくするため、河川流域の管理に湿地の保全を組み込む。

A4.河川流域内にある湿地域及びその生物多様性の保護と復元を推進する。

A5.河川流域の管理に関わるコストのための、適切で社会的に受容可能な費用分担の仕組みを作り出す。

A6.流域の管理に寄与するため、政府、市町村、水管理機関、学術機関、産業、農家、地域社会、NGOといった、河川流域管理に関わる主要団体すべてが一堂に会する適切な仕組みの構築を推進する。

A7.河川流域の統合的管理のための効果的な手段としての、適切な教育と普及啓発の計画を促進する。(決議.9「ラムサール条約普及啓発プログラム」を参照。)

統合的水資源管理のための、政策及び法令の策定と強化

13.河川流域の規模での統合的水資源管理に移行するには、水の価格設定政策(例えば「使用者負担」、「汚染者負担」など)のような経済的手段を含めた、適切な法律と政策手段の支援が必要である。締約国は、水資源の計画策定と統合的管理を可能にし促進するため、水に関する適切な国の政策と法律を定める必要がある。こうした政策は、国家湿地政策、国家環境計画、国家生物多様性戦略、国際的な協定や法的枠組みのような関連政策がある場合は、そうした政策と整合させる必要がある。

14.河川流域の適切な開発、保全、管理、利用を導くには、国及びそれに準ずるレベルの十分な政策が必要であることを考慮すれば、締約国が次のような点について効果的な総合政策を策定することが不可決である。

14.1.海洋及び沿岸生態系を含めたすべての生態系の維持のための水の配分、

14.2.取水とその使用のための許認可、

14.3.家庭用及び産業用の水の使用、排水処理、及び排水の安全な放出、

14.4.農業用の水の使用、大規模水管理構造物の影響の事前緩和、水の返還、殺虫剤など農薬の使用制限、

14.5.各種の目的での使用のための水質基準の決定、

14.6.地下水の汲み上げと使用に関する規則と規定、

14.7.飲料水及び農業、産業などの水の使用料に関する政策、

14.8.土地及び水の保全、

14.9.国の社会経済開発の課題における水と湿地の保全の統合、

14.10.水に影響を及ぼす侵入種。

15.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションB

統合的水資源管理のための政策と法律の策定・強化に関する締約国のためのガイドライン

B1.現行の水または河川流域管理政策に湿地管理の問題を組み込む。また、国家湿地政策及びそれに類する手段に、水資源管理の問題を組み込む(決議.6)。

B2.現行の法律を見直し、適切な場合には河川委員会などの設置、経済的奨励措置及び抑制要因となる措置の導入、水管理に悪影響を及ぼすおそれのある活動の規制といった主要な政策課題の実施を促進する新たな立法を進める(決議.7)。

B3.河川流域内での活動を規制するための包括的な国家水政策(決議.6)または国家河川流域管理政策を策定し、その政策及び地域の戦略・行動計画に湿地管理を組み込む。

B4.社会経済的発展が水界生態系の保護にしばしばきわめて大きく依存することを認識し、各種の部門(保全、水、経済開発など)に対し、統合的水資源管理のための政策及び法律を実施するための十分な資金、人材等の資源を協力して配分または確保するよう奨励する。

B5.水の保全と、より効率的で社会的に受容可能な水資源配分を促進するための、需要管理や水の価格設定戦略のような適切な奨励措置(決議.15)を用意する。

河川流域管理機関の設置と制度的対応力の強化

16.土地と水の利用のための機関を設ければ、河川流域全体を一つの単位としてとらえる統合的管理が可能になるはずである。水資源管理の管理構造の抜本的変更は、少しずつ段階を踏めば達成できる。最初の段階は水資源管理、環境保護、農業などに責任を負う諸機関の間に協力体制を築くことである。その後、これら機関の代表者が、水資源及び河川流域の湿地の管理に責任を持つ、調整機関の設立に向け支援を行う。

17.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションC

河川流域管理機関の設置と制度的対応力強化に向けた締約国のためのガイドライン

C1.達成されるべき基準と目標を定め(例えば水の量と質、河川流域内の水の使用における物理的効率、河川流域内の健全な湿地生態系など)、その目標を達成するための選択肢とコストを特定する。

C2.さまざまの利害関係者による河川流域管理機関に、河川流域管理計画作成の責任を持たせる。

C3.適切な場合には、河川流域管理機関は、統合的河川流域管理に必要な資金を調達するため経費分担策の用意を考慮する(例えば受益者負担、河川流域住民への課税、政府の補助金、環境劣化のコスト/「原因者負担」か)、またはその代わりとして開発援助機関からこれらの資金の調達を図る。

C4.下流の受益者から集水域上流部などの重要な地域の保護・管理へと、資金等の資源の移転を容易にする機構を構築する。

C5.湿地の重要性を含めた、統合的水資源・河川流域管理の概念を理解し実施できるよう、すべてのレベルの水/湿地に関わる管理者に研修を受けさせる。

C6.水資源、河川流域管理、湿地保全に関わる計画策定と管理を任務とする組織の効果的な運営のために十分な財源を提供し、適切な場合には、自然に関する措置の下での債務スワップや国または地方の信託基金設立のような、別の財源からの資金調達を図る。

C7.生態学的な水への需要を含む、総合的な水需要の評価のため、地元機関(大学、研究機関、水管理機関など)の能力を高め維持する。

C8.集水域上流部等の河川流域内の重要な地域を、保護区体系の中に含めるか、あるいは特別な管理戦略を用いて、そうした地域の保護を強化する。

C9.河川流域管理機関の中に、湿地の生態学的機能に関する専門知識を持つスタッフの配置を促進する。

利害関係者の参画、地域社会の参加、普及啓発

18.統合的河川流域管理の概念の中の重要な要素は、計画策定及び管理を行う機関は、湿地の利用者や野生生物を含めた流域内の水の利用者全体、加えて河川流域外の利害関係者とともに、またそれら全体のために、業務を行うということである。水を利用する者すべてのニーズと問題点を特定するため、水資源に関する計画策定と管理に一般住民が参加することは重要な目標である(決議.8も参照せよ)。

19.比較的最近まで、河川流域と水資源に関する計画策定についての協議を行なう国はほとんどなかった。管理責任が移行し、市民社会により大きな役割が与えられるに至って、管理機関と地域住民とが効果的に協力しあえば効果的な河川流域計画を立てられる可能性が高まることを示す経験が最近得られている。住民との早い段階における協議は、流域資源のそれまで知られていなかった利用法や価値を見出し、さまざまな価値観の相対的重要性を判断するために有効である。

20.湿地及び河川の管理とモニタリングに、地元の地域社会は重要な役割を果たすことができる。湿地と河川流域の管理に地域住民の集団を参画させる計画は、いくつも既に存在している。例えば、「地球河川環境教育ネットワーク(GREEN)」は、実績ある集水域(河川流域)教育モデルに基づいて、教育への行動志向アプローチを推進している。この活動は、米国・カナダ全域の企業、政府、地域社会、教育機関、及び世界135か国のGREEN国内コーディーターと緊密に連携して行われている。このネットワークは、河川流域の持続可能な管理を推進する地球規模の教育ネットワークを通じ、国民の知識レベルを向上させることを目指している。また、地域パートナーシップ活動を通じ、地域社会を拠点とする教育の支援も行う。このアプローチをさらに考慮するには、「ラムサール条約普及啓発プログラム」(決議.9)を参照。

21.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションD

利害関係者の参画、地域社会の参加、普及啓発に関する締約国のためのガイドライン(決議.8及び.9も参照)

D1.河川流域内の土地保有に関する取り決めの見直しを含め、河川流域とその湿地に関する計画策定と管理に対し、利害関係者を特定し参画させる仕組みを設ける。

D2.利害関係者の個々のニーズに応え、すべての当事者によって合意された取り決めにしたがって資源管理への権限と責任を分担し、利害関係者の活発な参加を促す。

D3.地域の課題、ニーズ、問題点を特定するため、水管理機関と利害関係者、特に地元地域の住民との間に、河川流域の管理についての開かれた話し合いの場を設ける。

D4.伝統的な知識と技術によって発展してきた、持続可能な湿地・河川流域の管理慣行を詳細に記録し、これを促進する。

D5.地球河川環境教育ネットワーク(GREEN)のモデルや計画を利用するなど、河川流域内の資源のモニタリングと管理の技術を向上させるため、地域社会を拠点とする組織やNGOの能力強化を支援する。

D6.管理計画の成功は一般住民の参加と支援の有効性にかかっていることから、利益の公平かつ公正な分配への考慮を含め、地域の利害関係者の目標や希望を考慮に入れた管理計画を策定し、実施する。

D7.地域社会に根ざした実証プロジェクトを特定、計画、実施し、地元地域社会のためのさらなる経済的奨励措置を設ける。

D8.水資源管理を支援するため、「ラムサール条約普及啓発プログラム」(決議.9)に示されたガイドラインに従い、湿地保全の重要性について、広報、啓発、教育プログラムを計画し実施する。

D9.不適切な殺虫剤や肥料の過度の使用または誤用、下水道設備の不備、湿地の干拓、集水域内の森林伐採など、河川系の劣化につながる行為を最小限に抑えるための啓発広報活動を計画する。


水の管理における湿地の役割の評価と強化

水文学的機能

22.既に述べたとおり、湿地は多くの生態学的及び水文学的機能を果たしている。これらには、洪水被害の予防、侵食の縮小、地下水涵養、水質の維持・改善といった機能が含まれる。そうした機能を果たす湿地を管理することで、水の供給量と質を保ち、地下水を満たし、侵食を減じ、洪水から人間を守るといった、水の管理におけるさまざまな目標を果たすことができる。

機能の評価

23.水資源の管理における湿地の役割を維持・強化するためには、まず個別の湿地がもたらす恩恵を特定し評価する必要がある。このプロセスには三つの段階がある。

23.1.湿地の目録と記載(決議.20を参照)、

23.2.水管理に寄与していると思われる属性と特有の機能の特定、

23.3.そうした機能の定量的把握。

24.長期にわたる詳細な調査が望ましいとはいえ、河川流域内の湿地の相対的重要性と機能とを判定するには短期の評価技法を用いる方がより適切であることが多い。初期の機能評価は、その湿地ではどの機能がありそうかを予測するために湿地の一般的な物理的・生物学的特性が用いられる。この評価は初期の湿地目録作成と同時に行わなくてはならない。この評価は、確定的なものでも定量的なものでもない。初期の評価は、各湿地を特定の機能についての相対的尺度で比較するためのものである。湿地が特定のニーズを満たす能力と機会を推定するために、初期の機能評価が必要である。これらの評価を湿地について行うことで洪水調節、水質改善、堆積物の保持、地下水への供給等における潜在的役割を特定することができる。

25.こうした機能評価技法の例として、米国陸軍工兵隊で用いられる湿地評価法(WET)及び機能分析指数、そしてヨーロッパで開発された欧州湿地生態系機能分析法(FAEWE)がある。これらの技法には、次を含め多くの要素が取り入れられている。

25.1.理論的研究と現場調査の両方からのデータベースの構築、

25.2.質的・量的評価、影響に対する感受性の評価、機能の経済評価、

25.3.モデル化及びモニタリング手順。

機能の強化

26.機能が確定されれば、その湿地が、河川流域内の水資源管理において果たしている役割を評価することができる。世界中で行われた多くの調査から、湿地を干拓したり、他の(あまり重要でないことが多い)用途に転換し、その後でダムや堤防、水処理施設など構造物による制御手段によって同じサービスを提供しようとするよりは、自然の湿地をそのまま維持する方が、ほぼ例外なく費用効果が高いことが示されている。また多くの場合、こうした機能を提供するため湿地を復元する、または新しく作り出すのであっても、そのほうが高額な技術的構造物を新しく建設するより費用効果が高いことも判明している。

27.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションE

水の管理のための湿地の役割の評価と強化に関する締約国のためのガイドライン

E1.機能及び生物多様性の評価方法に関する情報、及び湿地管理にそれらの方法を取り込む手段は、ラムサール条約の科学技術検討委員会がまとめ、締約国がそれぞれ自国の状況に合わせ調整できるよう普及させなければならない。

E2.各河川流域内の湿地が、水管理に果たす機能と恩恵を特定するための調査研究を実施する。これらの結果から、締約国は水資源の管理に寄与している残存する湿地域を、適切な行動によって緊急に保護する必要がある。

E3.水の管理に関するサービス提供のため、河川流域内の劣化した湿地の機能回復または復元、あるいは新たな人工湿地の創出を考慮する(決議.17を参照)。

E4.現行の洪水調節用のインフラを補う、または置き換えるため、湿地の自然な機能を利用した、構造物に頼らない洪水調節方法(例えば氾濫原の湿地復元、または洪水路を設けるなど)による河川管理計画を十分に考慮する。

現在及び将来の水の需給の特定

28.河川流域管理に欠くことのできない構成要素の一つは、起こりうる気候変動の影響をも考慮に入れた、河川流域内の水資源に対する現在及び今後の需要と供給についての知識である。この水資源の現在及び将来の評価は、人間による水の使用(灌漑、水力発電、家庭用・産業用の水の供給など)とともに、河川流域のさまざまな地域における生態学的な水へのニーズに注目しなければならない。この意味で、水への需要は水の量だけでなく、水質の点も含めて明らかにする必要がある。水への生態学的需要は目に見えにくく量的に把握することも難しいため、しばしば無視または過小評価されてきた。しかしこの需要を無視すると、漁獲高の激減や下流域での塩水の進入といった深刻な環境・社会問題に発展する可能性がある。また、環境への最大の打撃は、通常の状況でなく極端な事態が起きたときに発生する場合があることも認識しておくことが重要である。

29.社会経済的システムは常に変化しており、従って何通りもの将来の需要のシナリオを考え、さまざまな状況に合わせて調整できる持続可能な利用への柔軟な戦略を立てておくことがしばしば必要である。水需要の評価に結びついているのが、そうしたシナリオで特定される需要パターンから生ずる、水に関連した重要問題の特定と解決である。こうした問題は人間活動に関連するものに限定するのでなく、一定の生態系の中での水の供給量や水質の低下への適応といった生態学的な問題も含めるべきである。

30.水の需要は、水と湿地の使用に対する経済的奨励措置によって主に決定される。環境上、持続可能な方法で水を使用させるような奨励措置を設ければ、湿地域への影響を最低限に抑えることができる。水の供給に要する真のコストを反映した水の価格を設定することはきわめて重要であり、それが水の使用の適正化を促し、そうすることで湿地がもたらすその他のサービスの経済的価値も認識される。奨励措置は、部門別政策の文脈の中で、淡水資源の持続可能な使用に向けて設定されなければならない。同様に、持続可能でない行為を奨励するような、環境上不適正なまたは不公正な奨励措置は、特定され廃止されなければならない(決議.15を参照)。

31.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションF

現在及び将来の水需給の特定に関する締約国のためのガイドライン

F1.生態学上の、また人間の要求を満たすための、河川流域内の水資源に対する現在及び将来起こりうる需要と供給の評価を行い、不足あるいは対立の可能性がある部分を特定する。

F2.生態学上の水の需要が満たされない場合に発生すると考えられる経済的・社会的コストを明確にするための評価を行う。

F3.上記評価に基づき、国内において国レベル及び河川流域レベルでの、水の量と質をめぐる問題や対立が発生した場合の解決の仕組みを用意する。

F4.水資源と湿地の生態学的機能と価値の維持に資するため、適切な需要管理と水の価格設定戦略を策定する。

F5.関連する奨励措置及び逆効果をもたらす奨励措置を見直し、湿地の破壊や劣化につながるような措置についてはその廃止を考慮する。湿地の復元と賢明な利用を促進する措置を導入または強化する(決議.15及び.17を参照)。


土地利用と開発プロジェクトが湿地とその生物多様性に及ぼす影響を最小限にする

土地利用と開発プロジェクトの影響

32.ほぼあらゆる土地利用と開発プロジェクトが、その水の使用または汚染物質の排出を通じて河川流域の水の質と量に何らかの影響を及ぼし、河川周辺の湿地にも影響を与える。水の開発プロジェクトも多大な影響を及ぼすが、それらについては後述する。

33.河川と湿地に特に大きな影響を及ぼしうる土地の利用法は林業、農業、採鉱、工業、及び都市化である。不適切な林業活動、特に集水域上流部においては、土壌流出の増加と保水力低下を招きかねない。農業活動も、農薬と農業廃棄物から多量の汚染物質を発生させる可能性がある。高地の農業は、土地の開墾とその後の作業によって水質に多大な悪影響を及ぼし、洪水の流れにも乾期の水流にも大きな変化を与えることにもなりうる。低地の農業は氾濫原の湿地干拓や他の用途への転用につながり、その結果、生物多様性の減少や自然の機能と恩恵の喪失を招くことにもなる。発展途上国の多くでは、主に灌漑により河川の水が失われている。

34.採鉱及び工業活動の影響は、主に汚染物質の放出によるが、それらの物質の中にはきわめて毒性が高いものがある(例えば水銀など)。さらに工業活動や採鉱では、流出事故が起こると河川流域全体、加えて関連する湿地とその生物多様性が、一瞬にして危険な状態に陥る。都市部は直接に、また道路、港湾、水道、洪水調節といった関連インフラによって、湿地に侵入し影響を及ぼす。加えて、都市部に住む人間も、資源への需要増大と直接の汚染をもたらしている。

影響の評価と軽減

35.現行の土地利用が河川系とその周辺湿地に及ぼす影響は、林業、農業、採鉱、都市の廃棄物処理に関する規則やガイドラインを組み合わせることにより監視し、規制する必要がある。こうしたガイドラインの実施は、土地利用者にとって利点となることが多い。例えば、植林による森林再生や適切な林業の方法・技術が長期的な木材産出量を増加させる、農法の改善が土壌劣化を抑え乾期に向けての保水能力を高める、廃棄物処理の改善が都市住民の生活の質と健康を向上させるなどである。しかしそうしたガイドラインを有効に実施するためには、適切なモニタリングと施行の機構が必要となるのが普通である。

36.新規の開発活動を規制するに当たり、環境への影響を最小限とするために各種の機構が利用できる。その第一は環境面の評価とゾーニングである。これは、河川流域の土地利用と自然資源を調査し、流域を各種の土地利用ごとにゾーンに区分するもので、各ゾーンには、他のゾーンや河川・湿地系に大きな影響を与えることのない土地利用が認められる。持続可能性を確保するため、ゾーンの中で特定の活動に対する制限を設けることもある。

37.第二に、新規開発プロジェクトが提案された場合、より適用しやすい手段は、環境影響評価である。環境影響評価は、開発の選択肢が環境(湿地を含む)に及ぼす影響を評価する枠組みを提供する(決議.16を参照)。

38.第三に、費用便益分析は、あるプロジェクトの費用と便益の全体を測定することによって、そのプロジェクトが社会の経済的厚生に及ぼす正味の影響を算定する手段である。多くの場合費用便益分析の結果は金銭的に表現しうるが、費用の種類によっては、例えば住民の強制移住や湿地の生物種の喪失によって生ずる費用については、そのような方法で表現することは難しい。環境影響評価及び費用便益分析による、水管理計画の経済、社会、環境面に及ぼす費用と便益の分析には、しかるべき意思決定が必要とされる。

39.上述のプロセスは学際的チームが実施すること、また早い段階で利害関係者の参画を図ることが重要である。

40.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションG

土地利用と開発プロジェクトが湿地とその生物多様性に及ぼす影響を最小限にする上で締約国を支援するためのガイドライン

G1.各種の活動や土地利用が、河川・湿地系及び地域住民に及ぼす影響を最小限とするための手段として、河川流域ごとに統合的土地利用計画を策定する。

G2.土地利用、特に林業、農業、採鉱、都市の廃棄物処理に対しては、その河川・湿地の生態系に及ぼす影響を最小限にするため、それらを管理するしかるべき規則措置を策定し施行する。

G3.河川や湿地に大きな影響を及ぼす可能性のある開発プロジェクトに対しては、独立した学際的チームにより、またすべての利害関係者との協議のもとに、環境影響評価及び費用便益分析の調査を実施し、開発を行わないという選択肢を含め、代案を考慮する。

G4.環境影響評価及び費用便益分析の結果は、すべての利害関係者が容易に理解できる形で広く普及させる。

G5.開発プロジェクトが許可された場合、影響を最小限にする、もしくはそれを補償するための適切な管理及び事前の影響緩和の手段を確保する。

水開発プロジェクトの影響を最小限にする

41.水資源開発プロジェクトは一般に、乾期の間の貯水、洪水の予防、灌漑された農地への送水、産業用・家庭用水道、船舶航行の改善、水力発電等の目的のために、河川流域の自然な水の流れを改変することを目指している。このようなプロジェクトは多くの場合、ダム、分水路、河川の水路化、洪水防止の堤防といった、技術的構造物の建設を通じて進められてきた。しかしこうしたプロジェクトの多くは、湿地の形成を可能にした自然条件を改変するために、湿地とそこに生息する生物の多様性に多大なマイナスの影響を及ぼしてきた。

42.こうしたプロジェクトの最も大きな影響として、河川の水流の低減、回遊魚など水生種のルートの妨害、水質汚染の進行、湿地を維持する自然洪水が発生する時期の攪乱、氾濫原にある湿地への堆積物など栄養分流入の低減、河川周辺の湿地の干拓や永続的な浸水、地表及び地下水の塩化などがある。

評価と事前の影響緩和(ミティゲーション)

43.下流域の湿地が劣化した結果としての、社会的、経済的損失は、水開発プロジェクトそのものから得られる利益をはるかに凌ぐ大きさであることが多数の事例で判明している。開発活動の結果として起こる潜在的な社会的、環境的コストの特定に資するため、各種の方法が考案されてきた。例えば、環境影響評価、費用便益分析、社会影響評価、参加型農村評価などである(決議.16参照)。

44.しかしこうした標準的な評価手順には、水開発プロジェクト、または複雑な河川・湿地生態系への影響の予測に容易に適用できないものがいくつもある。近年になって、湿地・水資源プロジェクトのための具体的手順がいくつか開発されている。例えば、Howe らの「熱帯湿地のための環境影響評価のスコーピングマニュアル」、及び米州開発銀行の「淡水生態系の機能・便益と水開発プロジェクトの統合に関するマニュアル」(印刷中)がある。影響を受ける湿地とそれに伴う生物の多様性は、地域のさまざまな利用者にとって大きな意味を持つものであることが多いため、プロジェクトのサイクルの早い段階で利害関係者との協議機構が確立されることが重要である。

45.前項で述べたとおり、自然の湿地は河川管理に重要な役割を果たすことが多く、また洪水調節、地下水涵養、水質改善のための、一般により費用のかかる技術的解決法に代わるものとして機能回復または復元できることが多い。灌漑、産業・家庭用水道に代わるものとしては、水の保全、処理、または再利用、自然に利用できる水を使った新たな作物や産業の開発などがある。

46.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションH

水開発プロジェクトの湿地に与える影響軽減に関する締約国のためのガイドライン

H1.水開発プロジェクトの提案があった場合は、構造物に頼らない別の手段が、実行しやすく、可能性があり、望ましい方法であるかどうかを判断するため、プロジェクトの初期の段階で慎重に検討する。

H2.水開発プロジェクトの建設工事中、また長期的な操業において、生物多様性と社会経済的恩恵への影響を最小限にするため、すべての必要な措置をとる。

H3.プロジェクトの企画・計画策定プロセスには、環境問題(特に初期の生物多様性・資源調査)及びプロジェクト終了後の評価とモニタリングを組み入れていくための段階的なプロセスを含める。

H4.プロジェクト準備のきわめて初期の段階から、長期的な社会的利益と費用の考慮をプロセスに組み入れる。


湿地維持のため自然な水の循環を維持する

47.湿地の生態系がその生物多様性、機能、価値を維持できるかどうかは、水の流れ、その量と質、温度、タイミングといった自然の水の循環が維持されるかどうかにかかっている。自然の流れの循環は、河川周辺の湿地生態系の生態学的完全な状態を調節する、最も重要な変数と考えることができる。水の流れを妨げる構造物や、自然な流れより速く氾濫原から水を運び出す水路の建設は、自然の湿地の劣化につながり、やがては湿地が提供するサービスも失われる。こうした懸念に対して多くの国々が、自然の湿地生態系を維持するため、適切な水の配分を確保する法律やガイドラインを導入している。

48.構造的な変更が必要な場合には、自然な流れの循環を変える水開発プロジェクトは、湿地の生態系を保護または復元するために、次のガイドラインを守らなければならない。

49.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションI

湿地維持のための自然な水の循環を維持するための締約国のためのガイドライン

I1.河川周辺の自然の湿地生態系を維持するために必要かつ最低限の理想的な流れと流れの循環(季節的変動を含む)を特定するための調査を実施する。

I2.この調査結果(前I1項)をもとに、主要な湿地及びその他の河川流域の主要な生態学的機能を維持するための最適な流れの配分及び循環を確定する。

I3.生物学的パラメーターや物理的な生息環境に関し十分な情報が入手できず、必要な最適の流れについて最終的な決定ができない状況にあっては、できるかぎり自然の状況に近い状態を維持する予防原則を適用する。

I4.河川流域内の、さまざまな資源利用者に対する、持続可能な水の配分計画を立てる。これには、湿地を維持するための水の配分も含まれる。

I5.河川及び洪水路内で行われる、大規模なインフラ開発(氾濫防止の堤防、土手、道路、堰、小規模ダム、掘割など)の影響を規制し監視する。

河川流域管理の一環としての、湿地及びその生物多様性の保護と復元

50.湿地の保護と復元は、それぞれの河川流域内での重要な戦略である。それは湿地が、水管理を支えるサービスを提供するからだけでなく、湿地それ自体が、保護と復元に値するきわめて重要な生態系であるからでもある(決議.17も参照)。

51.湿地に依存する多くの種、特に魚類と両生類については、生存を確実にするためにその河川流域内での管理を必要とする。生息環境と野生生物の保護が行政上の境界に従って行われる国は多いが、河川流域の境界に沿って行われることは少ない。この場合、一つの湿地または種に対し保護措置を講じても、その河川流域内の別の場所での活動、例えば湿地に入り込む魚種の回遊や水の流れを堰き止めるような行為によって、その保護措置が効果を失うこともありうる。劣化した湿地の復元は、河川流域内の生物多様性が損なわれる傾向を逆転させる、最も重要な可能性の一つなのである。

52.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションJ

湿地とその生物多様性の保護と復元に関する締約国のためのガイドライン

J1.各河川流域ごとに湿地とその生物多様性の状況を評価し、必要であれば、よりよい保護措置を講ずるため求められる行動をとる。

J2.各河川流域ごとに湿地の状況を評価するにあたっては、主要な湿地の、「国際的に重要な湿地のリスト」への登録を考慮する。

J3.ラムサール登録湿地の管理計画は、個々の湿地固有の問題に加え、河川流域内部から外部へ及ぼす影響の可能性をも考慮に入れる。(決議5.7:「ラムサール登録湿地及び他の湿地の管理計画策定に関するガイドライン」を参照。)

J4.希少種を保護し、またより一般的な種についてもその乱獲を防ぐため、湿地にかかわる生物多様性、特に魚類など水生種の保全のための規則や手続きを見直し、必要であれば調整する。


国際協力

複数国にまたがる河川流域と湿地系に関する特別な問題

53.河川流域が、二か国以上の締約国にまたがる場合は、それら締約国はそうした資源の管理に協力すべきことがラムサール条約第5条に明確にされている(決議.19参照)。

54.1998年3月パリで開催された第2回世界水会議の宣言は、河川周辺の国々は、それらの共有する水資源の効率よい管理と効果的な保護への共通したビジョンを持つ必要があることを強調している。そのような成果を達成する上で考慮すべき一つの選択肢は、協議と広範な調整を促進するため河川周辺諸国により設置される国際的河川委員会である。

55.河川流域を共有する諸国は、水資源とその管理に関する情報交換のため、頻繁に具体的な連絡を取り合うよう奨励される。このための選択肢として次のようなものがある。

55.1.流域内の水質及び水量に関するモニタリング及びデータ交換のため、ネットワークを確立する。

55.2.各国で、さまざまな目的に使用される水の量と種類についての情報を共同で分析する。

55.3.地下水、集水域上流部、湿地のそれぞれの保護措置について情報を交換する。

55.4.船舶航行及び洪水防止のための流れの調節を、構造物により行う、また構造物によらずに行う、それぞれの機構に関する情報の共有。

56.河川流域の各地域の生息動物のニーズに関する情報、加えて河川流域内の各地の既存のまたは潜在的な問題で、それに対処するための個別のまたは集団での取組が必要なものに関する情報を含めた、河川流域についての専門的報告書の作成を目的とする。

57.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションK

複数国間にまたがる河川流域と湿地系の管理に向けた締約国のためのガイドライン

K1.複数国間にまたがる河川流域を特定し、その状況を記述し、流域における共通の懸念事項の主要課題を詳しく述べ(診断的調査)、それらの課題に対処する行動計画の策定と実施のための公式の共同管理措置または共同行動を進める。

K2.適切な場合には、共有される水資源及び湿地の管理への国際協力を促進するために、二国間または多国間河川流域管理員会を設置または強化する。

K3.複数国間にまたがる河川流域に関し、締約国は共同管理の取り決めを決定した場合には、また「国際的に重要な湿地のリスト」(ラムサール条約登録湿地リスト)に登録された湿地の自国の領土内にある部分での、他の締約国または非締約国による、生態学的特徴の変化につながるような行動は、これをラムサール条約事務局に連絡する。

関連する条約、機関、イニシアチブとのパートナーシップ

58.湿地の保全と賢明な利用の、河川流域管理への組み入れ促進への効果的アプローチをとるため、ラムサール条約の締約国が他の国際条約、機関、イニシアチブの関連する活動について認識し、それらを考慮に入れることが重要である。

59.淡水の持続可能な利用は、「アジェンダ21」のきわめて重要な構成要素とされており、そうした重要性からこれが国連持続可能な開発委員会やその他の国連機関の主催による一連の会議の焦点となってきた。他の三つの国際イニシアチブが特筆される。

59.1.特に途上国において、統合的水資源管理を促進する取組を調整するための枠組として機能する地球水パートナーシップの創設、

59.2.世界水協議会の主催による地球水委員会を通じた「水・生命・環境ビジョン」の策定、

59.3.世界銀行とIUCN(国際自然保護連合)による世界ダム委員会の設立。

60.本ガイドラインを始めラムサール条約の枠組の下での適切なガイドライン及び活動が、これらの他の国際レベルでのイニシアチブの連携及び情報源として役立つことが重要である。

61.他の条約や協定の中でも、地球規模の諸ガイドラインの中で最も関連性のあるものは次の通りである。

61.1.陸水の生物多様性の保全を最優先事項と特定した生物多様性条約。生物多様性条約第4回締約国会議は、この問題に取り組むためラムサール条約との共同作業計画を採択した。

61.2.各国に、他の流域諸国への大きな害を回避、除去、事前緩和するよう求め、国際水路の使用における変更に関する詳細な規則を定めた、国際水路の航行以外の使用の法令に関する条約(1997年5月21日ニューヨークにて。未発効)。扱われた問題には環境影響調査、協議、水路生態系の共同の保護、汚染防止、外来種の導入、土壌流出・土砂の堆積・塩水侵入の防止などがある。

61.3.陸上活動による海洋環境保護のための地球行動計画(GPA)。

62.地域及び河川流域全体のレベルで、複数国にまたがる水資源の管理において協力の基礎として200件を上回る協定が締結されている。

63.次のガイドラインに留意しなければならない。

セクションL

関連条約、機関、イニシアチブとのパートナーシップに関する締約国のためのガイドライン

L1.ラムサール条約の目標が、関連する国際条約、機関、計画など他のイニシアチブの活動に反映されることを目的として、このガイドラインをはじめラムサール条約の下での他の関連ガイドラインがこれらのイニシアチブの注意を引くようにする。

L2.ラムサール条約担当政府機関と、これらのテーマに関連する他の国際条約や協定の担当窓口との間の、国レベルでの緊密な調整を確保する。

L3.適切な場合には、共有される河川流域及び水資源に関連する地域協定の実施において、湿地に関連する問題を十分考慮する。


「記録」表紙

[英語原文:ラムサール条約事務局,1999.Ramsar Resolution VII.18 Annex "Guidelines for integrating wetland conservation and wise use into river basin management", May 1999, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/key_guide_basin_e.htm.]
[和訳:「ラムサール条約第7回締約国会議の記録」(環境庁 2000)より了解を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2001年6月.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]


Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう●第2部●「河川流域管理」
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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop7/key_guide_basin_j.htm
Last update: 2006/09/27, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).