他の国際的な枠組みとの関係
ガイドラインの中では,以下に挙げる3つの国際的な動きに重点が置かれています.
なお,世界水協議会が主催する第3回世界水フォーラムが2003年に京都を中心に行われます.
ただ,こうした動きは,地球温暖化条約に関するCO2の排出権取引と同様,水が政治的・金融的な取り引きの対象となっていくのではないかという懸念もあります.今後の動きに注目する必要があるでしょう.
また,陸水の生物多様性の保全を最優先事項と特定した生物多様性条約の第4回締約国会議では,ラムサール条約との共同作業計画が採択されています.
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決議の背景
この決議は,世界的に水資源の枯渇が問題になる中,「水資源の保全」に果たす湿地の役割をクローズアップするなかで成立しました.その転機となったのが第6回締約国会議で採択された決議VI.23「ラムサールと水」で,この決議ではラムサール条約に水文学的な視野を取り込むことを奨励しています.
それを受け,地球環境ネットワークがプロジェクトリーダーとなり,条約事務局の協力を得ながら,1998年にオセアニア,1999年にアジアで行われた会議などを通じて各地域での実績や知見をとりまとめました.
さらに16人の専門委員会を設置し,プロジェクへトの助言を続けてきました.この委員会には,2003年に京都・滋賀・大阪で「第3回世界水フォーラム」を開催する予定の世界水協議会(WWC)や,世界銀行などからも人材が登用されていました.
決議の意義
この決議の大きな意義は,これまで別々のセクションで行われてきた水資源の保全と湿地生態系の保全を統合しようという呼びかけを全面に打ち出していることです.このガイドラインではそれを「統合的河川流域管理(Integrated
river basin management)」と呼んでいます.
その視点を持つことで,湿地の生態系を乱さない水需要の目標設定や,生態系の保全や復元に必要なコストの流域負担などが可能になります.
また,統合的河川流域管理の計画策定や実施には,さまざまな機関や地域社会が参加する協議の機会が必要であるとも述べられています.決議VII.8(地域社会の参加を促進するガイドライン)や決議VII.9(普及啓発プログラム)と併せて目を通されることをおすすめします.
ガイドラインは,以下のように構成されています.
- まず,「統合的な河川流域管理」とは何であり,その実現のために必要な手続きは何であるかが,政府レベルから地域レベルにかけて記されています.
- 次に,水管理において湿地が果たしている役割を評価し,それを強化する手続きが記されています.
- そして土地利用や開発が湿地とその生物多様性に与える影響を最小限に抑えるための手引きが記されています.
- これに加えて,湿地環境を維持するために自然な水の挙動を維持することの重要性とその手続き,および
- 複数の国にまたがる河川(日本にはありませんが)における管理,他の条約や機関等との連携といった国際協力に関する手続きが記されています.
第8回の締約国会議までに,締約国はガイドラインを促進・実施する実験的な活動やプロジェクトを行い,成功例や教訓を会議で持ち寄ることになっています.
ただし,近年琵琶湖の流域で盛んになっているような,湿地に流入する河川からの汚濁負荷を減らすための概念や手続きについては,あまり触れられていません.しかし,発展途上国(という表現は好きではありませんが)のように流域の人口集積が高まっている地域では,こうした問題への対処が急務であると思います.この分野は,琵琶湖から世界に発信していける分野ではないかと思います.
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