Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第7回締約国会議

ラムサール条約 基本文書
リスト拡充の戦略的枠組み

日本語訳:環境庁,2000年[了解を得て再録].

 英語   フランス語   スペイン語 

(以上,条約事務局,この付属書を含む決議Ⅶ.11のPDFファイル [ウェブページ(html)は最新版のみが掲載される]

 PDF  (環境省のインデックスページ)     2002年版    2006年版 


「人と湿地:命のつながり」
"People and Wetlands: The Vital Link"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第7回締約国会議
1999年5月1018日 コスタリカ サンホセ

ラムサール条約(1971年にイランのラムサールにて採択)の国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン

決議Ⅶ.11において採択]

目次

Ⅰ.はじめに

Ⅱ.国際的に重要な湿地のリストに関するビジョン、目標、短期目標

Ⅲ.国際的に重要な湿地とラムサール条約における賢明な利用原則

Ⅳ.ラムサール条約登録湿地に指定する優先的湿地を選定するための体系的方法に関するガイドライン

Ⅳ.1.カルスト等の地下水文系を国際的に重要な湿地として選定し及び指定するためのガイドライン

Ⅴ.国際的に重要な湿地を指定するための基準及び長期目標、並びにその適用のためのガイドライン

湿地グループA 代表的、希少または固有な湿地タイプを含む湿地

基準1     代表的、希少または固有な湿地タイプに関する選定基準

湿地グループB 地球規模の生物多様性の保全に重要な湿地

基準2、3、4 種及び生態学的群集に基づく選定基準

基準5、6、  水鳥に基づく特定基準

基準7、8、  魚類に基づく特定基準

添付文書A.ラムサール条約における「湿地」の定義、湿地分類法

添付文書B.戦略的枠組み用語集

添付文書C.ラムサール登録湿地情報票

添付文書D.参考文献

Note:「カルスト等の地下水文系を国際的に重要な湿地として特定し指定するためのガイドライン」(決議.13の付属書)も、決議Ⅶ.13の規定どおり「戦略的枠組み」に加えられた。]


.はじめに

背景

1.主権国家は、ラムサール条約(1971年にイランのラムサールにて採択)に署名する際、または同条約の批准書もしくは加盟書を寄託する際に、条約第2条4に基づいて、少なくとも1か所の湿地を国際的に重要な湿地として指定するよう義務づけられている。その後は、第2条1に定めるように、各締約国は、その領域内の適当な湿地を指定するものとし、指定された湿地は、国際的に重要な湿地に係る登録簿に掲げられる。

2.上述の条約第2条1で用いられている「適当な」というキーワードについては、条約第2条2に部分的に解釈を助ける条文があり、当該条項では、湿地は、その生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上の国際的重要性に従って、登録簿に掲げるため選定されるべきである。特に、水鳥にとっていずれの季節においても国際的に重要な湿地は、掲げられるべきであると定めている。

3.ラムサール条約は、その進展過程を通じて常に、国際的に重要な湿地(登録湿地)を選定するための基準を策定し、絶えずその見直しを行ってきた。またこの条約は、自然保護科学の発展を反映した基準を締約国が解釈しかつ応用するのを補佐すべく、定期的にガイドラインを更新して当該基準を補ってきた。

4.「国際的に重要な湿地のリスト」の拡充に対する戦略の方向性は、これまではどちらかといえば限定的なものであった。その顕著な例として第6回締約国会議では、条約の「19972002年戦略計画」を通じて、地球規模または国内で、特にこれまであまり登録されていない湿地タイプに関して、国際的に重要な湿地のリストへの登録湿地の面積を増やすよう、締約国に要請している(実施目標6.2)。

目的

5.第7回締約国会議において登録湿地の数が急速に1000に近づきつつある中で、ラムサール条約は、この「国際的に重要な湿地のリスト(登録湿地リスト)を将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」を採択した。その目的は、ラムサール条約が登録湿地を通じて達成しようとしている長期目標または成果に関して、より明確な展望、つまりビジョンを示すことである。また締約国が登録湿地の総合的な国内ネットワークを構築するために、将来の指定に関して優先順位を特定しようとする場合、体系的な方法をとれるように締約国を補佐すべく、手引きも提供している。この登録湿地の総合的な国内ネットワークは、地球レベルで考えれば、登録湿地リストに関して掲げたビジョンを実現するものである(次の第項を参照)。


.国際的に重要な湿地のリスト(ラムサール条約登録湿地リスト)に関するビジョン、目標、短期目標

ラムサール条約登録湿地リストに関するビジョン

6.ラムサール条約は、「国際的に重要な湿地のリスト」に関して、以下のビジョンを採択した。

生態学的及び水文学的機能を介して地球規模での生物多様性の保全と人間生活の維持に重要な湿地に関して、国際的ネットワークを構築し、かつそれを維持すること。

7.上述した湿地の国際的ネットワークについては、条約の各締約国の領土内に設けられた国際的に重要な湿地の、緊密な総合的ネットワークから構築しなければならない。

登録湿地リストの目標

8.登録湿地に関する上述のビジョンを実現するため、締約国、条約の国際団体パートナー、地域の利害関係者及びラムサール条約事務局は、以下の4つの目標の達成をめざして協力していく(この目標は優先順に並んでいるわけではない)。

目標1.各締約国に、湿地の多様性並びにその主要な生態学的及び水文学的機能を完全に代表する登録湿地の国内ネットワークを設立すること。

9.1.1)各生物地理区内に存在する自然のまたは自然度が高い湿地タイプごとに少なくとも1か所の適当な(つまり国際的に重要な)湿地を登録湿地に加えること(湿地タイプについては添付文書Aを参照のこと。生物地理区の定義については添付文書Bを参照のこと)。生物地理区分は地球、超国家的な地域、または各国で定められるものであり、各締約国が自国に適切な形でそれを適用する。

10.1.2)湿地タイプごとに適当な湿地を決定する場合には、主要河川流域、湖または沿岸系の自然の機能の中で、生態学的または水文学的に重要な役割を果たしている湿地を優先すること。

目標2.適当な登録湿地の指定と管理を通じて、地球規模の生物多様性の維持に寄与すること。

11.2.1)地域、地方、国、超国家的な地域のレベル及び国際的なレベルにおいて、生物多様性の保全と湿地の賢明な利用を最善の態様で推進するため、登録湿地リストの拡充について見直し、適宜、登録湿地の特定と選定のための基準を一層向上させること。

12.2.2)絶滅のおそれのある生態学的群集を含む湿地、または、絶滅のおそれのある種に関する国内法もしくは国家計画、またはIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の付属書、及び移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約)等の国際的な指定により、危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された固有種の生存にとって重要な湿地を、登録湿地に加えること。

13.2.3)各生物地理区(定義は用語集を参照)の生物多様性の保全に不可欠な湿地を、登録湿地に加えること。

14.2.4)生物の生活史の重要な段階においてまたは悪条件の期間中に重要な生息地を提供する湿地を、登録湿地に加えること。

15.2.5)関連する登録湿地選定基準の定めるところにより、水鳥及び魚類の種または系統にとって直接の重要性を持つとされる湿地を、登録湿地に含めること(第項を参照)。

目標3.登録湿地の選定、指定及び管理の面で、締約国、条約の国際団体パートナー、及び地域の利害関係者の間の協力を促進すること。

16.3.1)渡り鳥の渡りルート沿いにある湿地、国境を共有する湿地、同じ様なタイプの湿地、または同じ様な生物種が生息している湿地に関して、2か国(またはそれ以上)の締約国の間で、登録湿地「姉妹提携」協定を結ぶ機会を探ること(決議.19)。

17.3.2)その他の形式の共同事業で、登録湿地及び湿地一般の長期保全及び持続可能な利用の達成を実証または援助できるものを、複数の締約国の間で行うこと。

18.3.3)登録湿地リストの戦略的作成、及びそれに続いて地方、国内、超国家的な地域で行われる登録湿地の管理及び国際的に行われる登録湿地の管理において、適当な場合には、NGO及び地域社会に根ざした組織がより大きな役割を担い、かつより大きく貢献するよう奨励し、また支援すること(決議.8)。

目標4.補い合う環境条約に関する各国の協力、超国家的な地域の協力、及び国際的な協力を推進する手段として、登録湿地ネットワークを利用すること。

19.4.1)生物多様性の喪失、気候変動及び砂漠化の進行の推移を検出するための国別モニタリング、超国家的な地域モニタリング、及び国際的なモニタリングのためのベースライン及び参照地域として、登録湿地を利用すること。

20.4.2)登録湿地において、保全及び持続可能な利用の実証プロジェクトを実施すること。これはまた、生物多様性条約、気候変動に関する国際連合枠組み条約、砂漠化防止条約、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、世界遺産条約、移動性野生動物種の保全に関する条約及びそれに基づくアフリカ・ヨーロッパ渡り性水鳥協定等、適当な国際的環境協定との協力、並びに、北米水鳥管理計画、西半球シギ・チドリ類保護区ネットワーク、19962000年アジア太平洋地域水鳥保全戦略、地中海湿地フォーラム、南太平洋地域環境プログラム、南アフリカ開発共同体(SADC)、東南アジア諸国連合(アセアン)、欧州連合のナチュラ2000ネットワーク、ヨーロッパの野生生物及び自然生息地に関する条約(ベルン条約)のエメラルドネットワーク、汎欧州生物及び景観多様性戦略、アンデス高地湿地計画、アマゾン協力条約、環境と開発に関する中米委員会等の地域協定や協力のためのイニシアチブとの協力に関して、具体例を示すものとなる。

登録湿地リストに関する2005年までの短期目標

21.ラムサール条約は、生物の多様性と生産性に富んだ中心地であって、かつ人類の生命維持システムでもある湿地の重要性を強調し、世界の多くの地域で湿地の連続的な喪失と劣化が進行していることを憂慮している。この憂慮への対応として、条約は、登録湿地に関する以下の短期目標を設定した。

登録湿地を拡充する際には、条約が採択した長期的ビジョン、戦略目標、及び登録湿地に関する目標を考慮すべきことを認識した上で、2005年に開催される第9回ラムサール条約締約国会議までに、少なくとも2000か所の湿地を「国際的に重要な湿地のリスト」に掲げるよう確保すること。

.国際的に重要な湿地とラムサール条約における賢明な利用原則

22.ラムサール条約の下では、賢明な利用と登録湿地の指定という二つの概念は完全に両立し相互に補強しあう。締約国に対しては、湿地を生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上の国際的重要性に従って(条約第2条2)国際的に重要な湿地のリスト 訳注 に登録するために指定し、かつ、登録簿に掲げられている湿地の保全を促進し及びその領域内の湿地をできる限り適正に利用することを促進するため、計画を作成し、実施する(条約第3条1)ことが期待されている。

訳注 条約の日本語正訳では「登録簿」。

23.第3回ラムサール条約締約国会議(1987年)では、湿地の賢明な利用とは生態系の自然財産を維持しうるような方法で、人類の利益のために湿地を持続的に利用することであると定義した。第6回締約国会議(1996年)で採択された戦略計画では、「賢明な利用」を持続可能な利用と同一のものとみなしている。締約国はさらに、生態学的及び水文学的な機能を通して、湿地がはかり知れないサービス、生産物及び利益を提供し、人類がそれらを享受しながらそれによって支えられていることを認識している。従って条約は、登録湿地に指定された湿地を中心としてあらゆる湿地が、将来の世代のために、また生物多様性の保全のために、このような機能や価値を引き続き確実に提供してくれるような実践方法を推進する。

登録湿地と賢明な利用原則。条約に基づいて湿地を国際的に重要なものと指定する(登録する)という行為は、保全と持続可能な利用という道程に踏み出すにふさわしい第一歩であり、その道程の終着点では、湿地の長期的かつ賢明な(持続可能な)利用を達成するのである。

24.条約の第3条2では、各締約国は、その領域内にあり、かつ登録簿に掲げられている湿地の生態学的特徴が技術の発達、汚染その他の人為的干渉の結果、既に変化しており、変化しつつありまたは変化するおそれがある場合には、これらの変化に関する情報をできる限り早期に入手できるような措置をとるように定めている。ラムサール条約は、この規定に従って湿地の「生態学的特徴」の概念を展開し、この用語を次のように定義する。

生態学的特徴とは、湿地生態系の生物的、物理的、化学的構成要素及び湿地とその生産物、機能、属性を維持する相互作用を総合したものである(決議.10)。

25.締約国には、各湿地の生態学的特徴を維持するために、及び当該特徴を維持しながら、「生産物、機能及び属性」を最終的には提供してくれる基本的な生態学的及び水文学的機能を保持するように、自国の登録湿地を管理することが期待されている。したがって、生態学的特徴は湿地の「健康」を表す指標であり、締約国が登録湿地を指定する際には、生態学的及び水文学的属性の変化を検出するためにその後行うモニタリングに対して、ベースラインデータを提供できるように、承認されている「登録湿地情報票」(添付文書Cを参照)を用いて、当該湿地について十分に詳しく説明するよう、締約国に期待されている。生態学的特徴の変化が自然に起こりうる変動域を超えている場合には、その湿地の利用または湿地に対する外部的な影響が持続不能なものであること、自然作用が悪化する可能性があること、及び最終的にはその湿地の生態学的、生物学的、及び水文学的機能が破壊される可能性があることを示している。

26.ラムサール条約は、生態学的特徴をモニタリングする手段と、国際的に重要な湿地の管理計画策定のための手段を開発した。このような管理計画の策定はすべての締約国に要請されていることであり、その策定にあたっては、人間活動が湿地の生態学的特徴、湿地の経済的及び社会経済的価値(特に地域社会にとっての価値)、並びに湿地に関係する文化的な価値に対して及ぼす影響等の問題を考慮する必要がある。また締約国に対しては、管理計画の中に、生態学的特徴の変化を検出するための定期的かつ厳格なモニタリング制度を盛り込むことが奨励されている(決議.10)。


.ラムサール条約登録湿地に指定する優先的湿地を選定するための体系的方法に関するガイドライン

27.この戦略的枠組みの「はじめに」と題する部分(を参照)では、この枠組みの目的が、ラムサール条約が「国際的に重要な湿地のリスト」を通じて達成しようとしている長期目標または成果に関して、より明確な理解、つまりビジョンを示すことであると述べている。

28.以下の項では、締約国が登録湿地の総合的で一貫性のある国内ネットワークを構築するために、将来の指定に関して優先順位を特定しようとする場合、体系的な方法をとれるように締約国を補佐すべく、手引きを提供する。この登録湿地の国内ネットワークは、地球規模のネットワークとして考えれば、登録湿地リストに関するビジョンを実現するものなのである。

29.優先的に登録湿地に指定する湿地を特定するための体系的方法を策定して実施する場合、締約国には、以下の問題を考慮することが要請される。

30.国家目標の検討。将来の登録湿地を特定するための体系的方法を策定する準備として、締約国には、この戦略的枠組みの第項で述べた目標を慎重に検討することが要請される。「国際的に重要な湿地のリスト」に関するビジョンと長期目標との関連性の中で検討した場合、当該目標は、体系的方法策定の面でその後行われるあらゆる検討の基盤となるものである。

31.湿地の定義、タイプ、生物地理区。ラムサール条約における湿地の定義をどのように解釈し、どのような生物地理区を当てはめるかについて国のレベルで了解することは、各締約国にとって重要である。ラムサール条約における「湿地」の定義(添付文書Aを参照)は、この条約の地球的な規模を反映して非常に広く、国のレベル、超国家的な地域のレベル、及び国際的なレベルにおける湿地保全の取組の間に矛盾が生じないように、各締約国に対して広い対象範囲と柔軟性を認めている。重要な点として、ラムサール条約は、自然の湿地または半自然の湿地を登録するようめざしているが、第項に定める基準のうち少なくとも一つを満たすことを条件として、特定目的で作られた人工の湿地についても、登録湿地への指定を認めている。ラムサール条約湿地分類法(添付文書Aを参照)には、代表的、希少または固有な湿地に関するラムサール基準(第項、基準1を参照)に基づいて行われうる登録に関連して、締約国が検討するよう要請されるすべての対象範囲が示されている。

32.基準1の下では、合意された生物地理区の範囲内で国際的に重要な湿地を特定するよう、締約国に期待している。用語集では(添付文書Bを参照)、生物地理区を「気候、土壌の種類、植生被覆等の生物学的なパラメーターや物理的なパラメーターを用いて確定した、科学的に厳密な地域区分」と定義している。多くの締約国にとって生物地理区は、事実上国境にまたがるものであり、代表的湿地、固有な湿地等の湿地タイプを確定するには、複数の国の間での協力が必要となる点に注意すべきである。地域や国によっては「バイオリージョン」という用語を「生物地理区(バイオジオグラフィカルリージョン)」の同義語として使っている。

33.目録とデータ。締約国には、自国の領土内にある湿地に関して収集した情報の範囲と質を確定するとともに、目録を完成していない場合には完成するための措置を講じることが要請される。目録の作成は、ラムサール条約から支持を受けている承認済みのモデルと基準を用いて行う(決議.20を参照)。しかしながら、湿地に関して既に適切な情報を入手できる場合には、目録を作成していない場合でも登録湿地の指定を行うことができる。

34.湿地の現状と分布、湿地に関係のある動植物、及び湿地の機能と価値に関する科学的知見の拡大に合わせて、国内湿地目録または登録湿地候補リストを定期的に見直し、内容を改訂する(ラムサール条約19972002年戦略計画、行動6.1.1)。

35.締約国の領土内にあって国境をまたぐ湿地。湿地目録は、締約国の全領土を確実に考慮したものとする。特に、ラムサール条約第5条及び「ラムサール条約の下での国際協力のためのガイドライン」(決議.19)に従って、国境をまたぐ湿地を特定して登録湿地に指定するよう考慮する。

超国家的な地域レベルの指導。締約国はまた、登録湿地に指定する可能性のある湿地について相対的な重要性を確定する際に、超国家的な地域レベルでのきめの細かい指導を求めることができることを認識しておくこと。これは次のような場合にあてはまる。

.国内では動植物の種がそれほど集中して存在しない場合(北半球高緯度地方の渡り性水鳥等)。

.データの収集がむずかしい場合(特に、面積が広大な国の場合)。

.特に、乾燥地帯や半乾燥地帯を中心として、場所的及び時期的に降雨量の変動が激しいために、水鳥その他の移動性の種が同じ年の間や複数の年にかけて一時的湿地を組み合わせて活発に利用しており、しかもこの活発な利用のパターンについて十分な知見が得られていない場合。

.泥炭地(勧告7.1)、サンゴ礁、カルスト等の地下水文系等、特定のタイプの湿地の場合で、国際的な種類の幅やその重要性に関して、国内では限られた専門知識しかない場合(泥炭地を登録湿地として特定し指定するための追加的な手引きについては、「泥炭地の賢明な利用と管理のための地球的行動計画」への対応として、及び同行動計画と平行して、科学技術検討委員会が策定する予定である。勧告7.1)。

.複数の生物地理区が重なり合うために、その移行地帯に高度な生物多様性が認められる可能性がある場合。

37.すべてのラムサール登録基準及びすべての種に対する考慮。体系的方法を策定する場合、締約国には、すべてのラムサール登録基準を考慮することが要請される。条約第2条2には、湿地の「生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上」の側面に基づいて、湿地を検討すべきことが定められている。ラムサール登録基準の下では(第項を参照)、これについてさらに、湿地タイプと生物多様性の保全という形で明示している。

38.締約国はまた、ラムサール登録基準を適切に利用するようめざす。つまりこれは、水鳥(第項、基準5、6)と魚類(第項、基準7、8)に関しては個別基準が策定されたものの、湿地に関係する分類群の中で水鳥と魚類だけが、登録湿地として登録できる根拠、登録湿地として登録すべき根拠となるわけではない、ということである。単に水鳥と魚類については個別の手引きが策定されている、ということに過ぎない。基準2、3、4は、湿地に生息する他の種のためだけでなく、適当な場合には水鳥と魚類のための湿地も同じく特定できる、対象範囲の広い基準である。また、肉眼で見えにくい種や微生物叢については、考慮の際に見過ごすおそれがあるが、生物多様性のあらゆる構成要素を確実に考慮するように注意する。

39.優先順位付け。登録湿地として指定するにふさわしい湿地のリストを作成する場合、湿地選定基準を体系的に適用したならば、締約国には、優先する候補湿地を特定するよう奨励する。特に、締約国に固有の湿地タイプ、もしくは湿地に生息する生物種で締約国に固有のもの(世界の他の場所では見られないもの)を含む湿地である場合、またはその締約国が、湿地タイプの地球合計もしくは湿地に生息する生物種の地球全体の個体数のうち、相当な割合を保有しているような湿地である場合には、当該湿地を登録湿地として指定することに特に重点を置く。

40.規模の小さな湿地を見過ごさないこと。登録湿地を指定する体系的方法を策定する場合、登録湿地候補が必ずしもその領土内で最大の湿地とは限らないことを認識するよう、締約国に推奨する。湿地タイプによっては、もともと大きな湿地系として存在しないものもあり、あるいは昔は大きな湿地系であっても、今ではそうでないものもあるので、こうした湿地タイプを見過ごしてはならない。このような湿地は、生息地を維持する上で、または生態学的群集レベルの生物多様性を維持する上で、特に重要な場合がある。

41.法的な保護区という地位。締約国は、登録湿地への指定が、その湿地に対して、既になにがしかの種類の保護区という地位を付与されていることを要求したり、登録湿地への指定後に必ず保護区という地位を付与することを要求したりするものではないことを認識する。これと同じく、指定を検討中の湿地は、人間活動の影響をまったく受けていないような手つかずの地域である必要はない。登録湿地への指定は、国際的に重要と認められた湿地という地位に引き上げる効果があるために、当該地域を特別な形で認識することに利用できるのである。つまり、登録湿地への指定は、指定を受けた湿地がラムサール条約に基づく湿地選定基準に合致する場合に限って、その湿地の再生と機能回復の過程の出発点となりうるのである。

42.登録の優先順位を決定する場合に、既存の保護区であるという湿地の地位をその決定要因とすべきではないが、締約国に対しては、国際的な条約、国家政策または法律文書に基づいて公式に湿地を指定する場合に、一貫した方法をとる必要性があることに注意するよう要請する。もしも、湿地に依拠する固有種に対して重要な生息地を提供しているために、その湿地が国の保護区という地位を得ているなら、選定基準に照らしてみれば、その湿地には登録湿地の資格があることになる。したがって締約国には、一貫性を保つために、現在の保護区、計画中の保護区、及び将来の保護区のすべてについて見直しを行うことが要請される。

43.代表種及び中枢種。指標種、代表種、中枢種という概念もまた、締約国が考慮すべき重要な事項である。「指標」種の存在は、良質の湿地を判断する有用な尺度となりうる。「代表」種の存在は、湿地の保全と賢明な利用にとって象徴的で大きな普及啓発効果を発揮しうる。また「中枢」種は、不可欠な生態学的役割を果たしている。相当の個体数の指標種、代表種または中枢種を有する湿地は、国際的に重要な湿地として特に考慮に値する可能性がある。

44.種の存在に対する正しい認識。登録湿地の指定にあたって、個体数をもとにして相対的な重要性を判定しようとする場合、締約国は、状況を適切に考慮して判定するように注意する。生物多様性の保全に対する相対的重要性という観点から見れば、湿地の登録とそれに続く管理行動の対象として、ごく一般的な種が多数存在する湿地よりも、希少種に生息地を提供する湿地のほうが優先順位は高くなりうる。

45.外来種。外来種の導入と広がりについては、生物多様性及び湿地生態系の自然の機能に大きく影響しうることから、大きく懸念されている(侵入種と湿地に関する決議.14を参照)。したがって、湿地を国際的に重要な湿地として登録する場合に、移入種つまり外来種の存在を登録の支持理由として用いてはならない。在来種であっても、生態系を攪乱してアンバランスを引き起こす可能性がある場合には、湿地にとって侵入的なものとみなすことがある。また、他に移入された在来種が、もともと自生していた生息地において希少種や絶滅のおそれのある種になっていることもありうる。締約国は、このような状況を慎重に評価しなければならない。

46.湿地の境界の決定。登録湿地を指定する場合の境界については、湿地の生態学的特徴を維持するのに適した規模で湿地を管理できるような境界であることを認識し、管理面を重視して決定するよう、締約国に奨励する。ラムサール条約第2条1では、登録湿地の中に、水辺及び沿岸の地帯であって湿地に隣接するもの並びに島または低潮時における水深が六メートルを超える海域であって湿地に囲まれているものを含めることができると定めている。非常に小さい故に潜在的に脆弱な湿地については、湿地の周囲の緩衝域を含めて境界を設定するよう、締約国に推奨する。これは、地下系湿地や比較的大きな湿地の場合にも有用な管理手段となりうる。

47.動物種の生息地として特定された湿地について境界を決定する場合には、当該個体群のあらゆる生態学的要求と保全の要求を適切に提供するように、境界を設定する。特に、大型の動物、食物連鎖の頂点にいる種、広大な範囲を住みかとする動物種、採食地域と休息地域が大きく分かれている種の場合には、生存しうる個体群を支えるためにかなりの面積を必要とするのがふつうである。利用範囲全域、または生存しうる(自活できる)個体群を受け入れている範囲全域にわたって登録湿地を指定することが不可能な場合には、その周囲の地域(つまり緩衝域)において、当該種と生息地の両方に関連する追加措置を講じる。こうした措置をとれば、登録湿地内にある中心的な生息地の保護を補完することになる。

48.登録湿地に指定することを検討中の湿地は、湿地生態系全体のかなりの要素を含む景観規模で選定される場合もあれば、それよりも小さな範囲で選定される場合もある。狭い湿地を選定して境界を確定する場合には、以下の手引きが範囲確定の助けとなる。

.湿地には、重要な植生群落をたった一つ含むだけでなく、できるだけ複合的な植生群落や寄せ集まりの植生群落を含める。もともと養分に乏しい(貧栄養)状態の湿地は、種及び生息地の多様性も乏しいのがふつうである。こうした湿地に高い多様性が見られるときには、保全の質の低さが関係している場合がある(これは、著しく条件が変更されていることからわかる)。したがって多様性を考える場合には、必ず湿地タイプごとの平均に照らしてみなければならない。

.帯状に分布する群集については、できるだけ完全に一通りを湿地に含める。湿潤地帯から乾燥地帯へ、塩水から汽水へ、汽水から淡水へ、貧栄養から富栄養へ、河川からそれに続く土手、砂州、堆積系へといった自然の勾配(変わり目)を示す群集は重要である。

.湿地では、植生群落の自然の遷移が急速に進むことが多い。自然の遷移が見られる場合にはできる限り最大限に、あらゆる遷移段階を登録湿地に含める(例えば、開放的な浅瀬から抽水植物群集やヨシ湿原、または沼沢地ないし泥炭地、または湿性森林へと続く場合等)。動的な変化が起きている場合には、先駆群集が登録湿地の域内で遷移を展開し続けられるように、十分広い登録湿地を指定することが重要である。

.湿地が保全価値の高い陸上生息地へと続いている場合には、湿地そのものの保全価値も高まることになる。

49.狭い湿地ほど、外部の影響を受けやすくなる可能性が大きい。登録湿地の境界を定める場合には、できることなら常に、湿地の境界が、湿地を害する可能性のある活動、特に、水文学的な攪乱を引き起こすおそれのある活動から湿地を守るのに役立つように、注意を払う。理想的には、湿地の国際的重要性とその完全な姿を保全するのに必要な水文学的機能を提供しかつ維持するのに必要な陸地部分を、境界域に含める。さもなければ、計画策定過程を進めることにより、隣接する土地や流域内における土地利用方法から生じうるマイナスの影響を適切に規制し及び監視し、確実に登録湿地の生態学的特徴が損なわれないようにすることが重要である。

50.湿地群。湿地群または大きな湿地に付随する「衛星」のような個々の小湿地については、以下のいずれかに当てはまる場合には登録を検討すること。

.水文学的に結ばれている系(例えば、複合的な渓谷湿地、湧水に沿って地下水から水供給を受けている湿地系、またはカルストと地下湿地系等)の構成要素である場合。

.利用という面で、ごくふつうの動物の個体群と関係している場合(例えば、水鳥の一個体群が、ねぐらや採食地の代替地として利用するひとまとまりの場所等である場合)。

.人間活動によって分断される前は地理的につながっていた場合。

.その他のかたちで生態学的に相互依存している場合(例えば、共通の発達史を持つ明らかに大きな一つの湿地帯や景観の一部をなす湿地群であるとか、別個の種の個体群を支える湿地群である場合)。

.点在する湿地(非永続的な性質の場合もあり)の集合が乾燥地帯や半乾燥地帯にあり、個別にもまとまりとしても、生物多様性と人類の双方にとってきわめて大きな重要性をもちうるような場合(例えば、完全には解明されていない連鎖環において不可欠な関係を持っている場合等)。

51.湿地群を登録湿地に指定する場合には、構成要素をまとめて一つの登録湿地として取り扱う根拠を「ラムサール登録湿地情報票」に明記する。

52.国際的枠組みによる補完。登録湿地への指定を検討する場合、締約国には、目標4.2(第20節)に記載した通り、当該指定を行うことが、関連する国際的及び地域的な環境条約及び計画の下で既に確立されているイニシアチブや策定中のイニシアチブに対して寄与する機会を与える可能性があるかどうかを検討することが要請される。これに該当するものは、特に、生物多様性条約、移動性野生動物種の保全に関する条約及びそれに基づくアフリカ・ヨーロッパ渡り性水鳥協定等である。地域的に該当するものは、北米水鳥管理計画、西半球シギ・チドリ類保護区ネットワーク、19962000年アジア太平洋地域水鳥保全戦略、地中海湿地フォーラム、南太平洋地域環境プログラム、南アフリカ開発共同体(SADC)、東南アジア諸国連合(アセアン)、欧州連合のナチュラ2000ネットワーク、ヨーロッパの野生生物及び自然生息地に関する条約(ベルン条約)のエメラルドネットワーク、汎欧州生物及び景観多様性戦略、アンデス高地湿地計画、アマゾン協力条約、環境と開発に関する中米委員会(CCAD)等である。


Ⅳ.1.カルスト等の地下水文系を国際的に重要な湿地として選定し及び指定するためのガイドライン

53.カルスト湿地の価値は数々ある。ラムサール条約第2条2は湿地は、その生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上の国際的重要性に従って、登録簿に掲げるために選定されるべきであると定めている。この視点から見れば、カルスト等の地下水文系湿地には、主に次のような保全価値がある。

a.カルストという現象や作用及びその機能の特異性、
b.カルスト系とその水文学上及び水文地質学上の特性の相互依存性ともろさ、
c.カルスト等地下水文系の生態系の固有性とそこに生息する種の固有性、
d.特定の分類群に属する動植物を保全することの重要性。

54.カルスト系には自然という面で数々の価値があるが、そのほか社会経済的にも重要な価値がある。これには、飲み水の供給、放牧されている家畜や農業への水の供給、観光、レクリエーション等がある。カルスト湿地系は、おおむね地表が乾燥している景観の中で人間社会に適当な水を確実に供給してくれる点で、特に重要な役割を果たす場合がある。

55.カルスト地域内または地域外で発生しうる脅威。大まかに言えば、地上系、地下系を問わず、多くの「活動している」カルスト地域は湿地である。大体において、地下カルスト系は今のところまだ保存状態が良いが、開発圧力が高まっているために、絶滅の危機に瀕しつつある。開発圧力は直接的なものもあれば(観光客や研究者が洞窟を訪れる場合)、間接的なものもある。間接的な圧力には、あらゆる種類の汚染(特に水質汚染、固形廃棄物の投棄、汚水の排水、インフラの整備等)、地下水の汲み上げ、貯水池その他に利用するための貯留等がある。

56.用語の混乱を避けるために、「カルスト等地下水文系」及び「地下湿地」という用語を使用する。また起源に関係なく、水を伴うあらゆる地下の空洞と空隙(氷洞を含む)を含むものとしてこの二つの用語を使う。こうした湿地については、湿地選定基準を満たす場合には常に、登録湿地に指定することができる。ラムサール条約においては、「湿地」の定義を幅広くすることによって各締約国に大きな柔軟性を与えており、こうした姿勢に従い、この二つの用語には、沿岸、内水面、及び人工の地下湿地を明確に含める。

57.カルスト等地下の現象を説明するには専門技術用語が使われるため、専門家でない者にとっては用語集が必要となる。詳細な参考資料としてはユネスコの「多国語によるカルスト用語集 Glossary and Multilingual Equivalents of Karst Terms」(ユネスコ、1972年)を使用できるが、ラムサール条約の適用上、簡単な用語集を提案し、「カルスト」という表題の用語集(付属書B)を収載した。

58.地下湿地の登録湿地への指定及び管理を目的として提出する情報は、以下による。

a.入手できる情報(多くの場合、限られた情報しかない可能性があり、将来の研究によることになる)。

b.検討中の規模に適した情報。地方自治体の管理当局や国の管理当局は、入手できるあらゆる範囲の詳細な情報を得られるべきだが、「登録湿地情報票」に記入する場合等、国際的な目的の場合には、一般に要点だけで十分である。

59.登録湿地への指定については、様々な国内及び国際的な措置を集合的にとらえ、その一環として当該指定を検討する。つまり、大きなカルスト等地下系に含まれる最も代表的な部分をラムサール条約に基づいて登録湿地に指定し、全体的な系とその集水域部分の「賢明な利用」を達成するために、土地利用計画規制等の策を講じることができる。

60.現地調査や地図作成は特に難題となる可能性があり、これらについては実行可能性に応じて実施する。例えば、地下の地形を二次元の平面図で示し、それに地上の地形を投影させた地図があれば、登録湿地図としては十分である。多くの締約国が地下湿地の三次元図を作成するための財的・人的な資源を持ち合わせていないことは認識されており、そのことが登録湿地を指定することの妨げとなってはならない。

61.カルスト等地下登録湿地の境界は、集水域全域を対象範囲に含むのが最適だが、多くの場合これは非現実的である。但し、湿地の境界には、対象となる地形に直接的または間接的に最も重要な影響を及ぼす地域を含めるべきである。

62.国際的に重要な湿地選定のためのラムサール基準を適用する場合には、水文学上、水文地質学上、生物学上、及び景観上の固有及び代表的な価値に特に注意を払う。この点で、間欠的な温水カルスト湧水は特に興味深い。

63.ラムサール条約では柔軟な対応を認めているために、締約国は、国内の状況や個々の湿地の状況に応じて最も適した境界を選定することができる。特に、一つの洞窟だけを登録湿地として指定するか、あるいは当該洞窟と複合的な系を合わせて(例えば、地上と地下の湿地を合わせて)登録湿地として指定するかを考えることができる。

64.ラムサール条約では、地上系と地下系の両方を含む湿地について、明文の規定をもって言及しているわけではないが、この条約における湿地の定義(第1条1)には、これらの湿地が含まれるものと解釈し理解する。

65.カルスト等の地下水文系の文化的及び社会経済的な価値、並びに国、地方自治体の両レベルでその「賢明な利用」を実施しなければならないという事実については、特に検討する。当該湿地の登録湿地への指定、管理、モニタリングについては、明確に区別することが必要である。


.国際的に重要な湿地を指定するための基準及び長期目標、並びにその適用のためのガイドライン

66.湿地リストを拡充するための戦略的枠組みの本セクションでは、湿地を選定するための基準とそれに対して条約が掲げている長期目標を紹介する。締約国が、優先的に指定する湿地を体系的な方法を用いて選べるように、各基準ごとにガイドラインも提供する。第項に掲げた全般的なガイドラインと合わせて、本項で提示するガイドラインを検討すること。また、添付文書Bには、以下に掲げる基準、長期目標、及びガイドラインで使われているものを対象に、用語集を掲載してある。

湿地グループA 代表的、希少または固有な湿地タイプを含む湿地

基準1:適当な生物地理区内に、自然のまたは自然度が高い湿地タイプの代表的、希少または固有な例を含む湿地がある場合には、当該湿地を国際的に重要とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

67.ラムサール条約湿地分類法(第項)に従い、各生物地理区内に見いだされる湿地タイプごとに、少なくとも代表となる適当な湿地一つを登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

68.この基準を体系的に応用する場合、締約国には以下を奨励する。

.領土内または超国家的な地域レベルで、生物地理区を決定すること。

.各生物地理区内に存在する湿地タイプの範囲を決定し(ラムサール条約湿地分類法を用いる、添付文書Aを参照)、その際には特に、希少なまたは固有な湿地タイプに注意する。

.各生物地理区内の各湿地タイプごとに、最も典型的な例(添付文書Bの用語集を参照)となる湿地を、ラムサール条約に基づく登録湿地に指定すべく、特定する。

69.目標1には、特にその中でも目標1.2(前述第10節)には、この基準に基づく別の検討事項として、主要河川流域または沿岸系の自然の機能の中で、生態学的または水文学的に重要な役割を果たしている湿地を優先することを掲げている。水文学的機能については、この基準の下で締約国が優先的に登録する湿地の決定について検討しやすくするために、以下の手引きを提示する。生物学的役割及び生態学的な役割に関する手引きについては、基準2を参照されたい。

70.水文学的重要性。ラムサール条約第2条に定める通り、湿地は、水文学上の重要性にしたがって選定されるべきであり、これには特に以下の属性が含まれる。

.洪水に対する自然による調節、改善、または予防に大きな役割を果たすこと、

.湿地その他下流にある保全上重要な地域の季節的な保水にとって重要であること、

.帯水層の水の涵養にとって重要であること、

.カルスト、または主要な地上の湿地に対する供給源となっている地下の水文学系もしくは湧水系の一部分を構成していること、

.主要な自然の氾濫原系であること、

.少なくとも地域的な気候の調節や安定の面で大きな水文学的影響力を持つこと(例えば、ある地域の雲霧林や熱帯雨林、半乾燥地域、乾燥地域または砂漠地域、ツンドラにおける湿地や湿地複合、炭素の吸収源として機能する泥炭地系等)、

.高い水質基準の維持に主要な役割を果たしていること。

湿地グループB 地球規模の生物多様性の保全に重要な湿地

種及び生態学的群集に基づく基準

基準2:危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種、または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

71.危急種、絶滅危惧種、近絶滅種または絶滅のおそれのある生態学的群集の生存にとって重要だと考えられる湿地を、登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

72.登録湿地は、地球規模で絶滅のおそれのある種や生態学的群集の保全にとって、重要な役割を担っている。関係している個体数が少ないにもかかわらず、また、入手できる定量的なデータや情報の質が低いことが多いにもかかわらず、生活環のいずれの段階であれ地球規模で絶滅のおそれのある種を支えている湿地を、基準2または3を用いて登録するよう、特に検討する。

73.この戦略的枠組みの総合目標2.2では、絶滅のおそれのある生態学的群集を含む湿地、または、絶滅のおそれのある種に関する国内法もしくは国家計画、またはIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の付属書、及び移動性野生動植物種に関する条約(ボン条約)等の国際的な枠組みにより、危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種の生存にとって重要な湿地を登録湿地に加えるよう、締約国に要請している。

74.締約国がこの基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、希少種、危急種、絶滅危惧種、または近絶滅種の種に対して生息地を提供する湿地のネットワークを登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。理想的には、このネットワークに含まれる湿地が以下のいずれかまたはすべての特性を備えていることが望ましい。

.生活環の様々な段階において、対象となる種の移動性の個体群を支えている。

.渡り経路沿い、つまりフライウェイ沿いに種の個体群を支えている。但し、種が異なれば渡りの方法も異なるものとなり、中継点の間に必要な最大距離も異なる点に留意すること。

.悪条件のときに個体群に避難場所を提供する等、他の面で生態学的に関係している。

.登録湿地に指定されている他の湿地に隣接しているか、またはその近隣にあり、当該湿地を保全すれば保護される生息地の面積が拡大し、絶滅のおそれのある種の個体群の生存可能性を高めることになる。

.狭い生息地のタイプを占有ながら分散して生活する定着種の個体群の相当な割合を収容している。

75.絶滅のおそれのある生態学的群集を特定する場合、次のいずれかもしくはすべての特性を有する湿地を登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。

.特定の群集の質が高い場合、または当該群集が生物地理区に特に典型的なものである場合に、その特定の群集を擁するかなりの面積を含む。

.希少な群集を収容する湿地である。

.移行帯、遷移過程の途中の段階、及び群集等、個々の過程の典型例となるものが含まれている。

.現在の状況下ではもはや発達できない群集を収容している(例えば、気候変動または人為的干渉により)。

.長い発達の歴史の末に現在の段階に至った群集を収容しており、保存状態のよい古環境を支えている。

.他の(おそらく希少度の高い)群集または特定の種の生存にとって、機能面で重要な群集を収容している湿地である。

.生息範囲または発生数がかなり減少した群集を収容していること。

76.上述第4649節「湿地の境界の決定」で述べた生息地の多様性と遷移に関する問題についても留意すること。

基準3:特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

77.各生物地理区の生物多様性を維持するのに重要と考えられる湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

78.締約国がこの基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、以下のいずれかまたはすべての特性を備えている一連の湿地を選定すれば、最大の保全価値を達成することができる。

.生物多様性の「ホットスポット」であり、存在する種数が正確に知られていないとしても、明らかに種の豊富な湿地である。

.固有性の中心であるか、またはかなりの数の固有種を収容している。

.地域内で発生する一連の生物多様性(生息地のタイプの多様性も含む)を収容している。

.特殊な環境条件(半乾燥地域または乾燥地域の一時的な湿地等)に適応した種の相当な割合を収容している。

.生物地理区の希少または特徴的な生物多様性の要素を支えている。

基準4:生活環の重要な段階において動植物種を支えている場合、または悪条件の期間中に動植物種に避難場所を提供している場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

79.生活環の重要な段階において、または悪条件が支配的な状況において、動植物種に生息地を提供する上で最も重要な湿地を、登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

80.移動性の種または渡り性の種にとって重要な湿地は、生活環の特定の段階において比較的狭い地域に集まる個体群のうちの、きわめて大きな割合を収容するものである。これは、一年のうちの特定の時期の場合もあれば、半乾燥地域や乾燥地域においては、特定の降雨パターンを示す年の場合もある。例えば多くの水鳥は、繁殖地域と非繁殖地域の間にある長い渡りの道程の途中で、比較的狭い地域を主な中継地(採食及び休息用の場所)に利用する。ガン・カモ科の種にとっては、換羽の場所も同じく重要である。半乾燥地域または乾燥地域にある湿地には、水鳥その他湿地に生息する移動性の種がきわめて高い集中度で収容され、個体群の生存にとって重大な鍵を握っていることがある。しかしながら、降雨パターンが年によってかなり変わることから、見た目に明らかな重要性は年毎に大きく変動する可能性がある。

81.湿地に生息する非渡り性の種は、気候等の条件が好ましくない場合でも生息地を変えることはできず、一部の湿地だけが、中長期的に種の個体群を維持するための生態学的な特性を備えることになる。こうして一部のワニや魚類は、乾期になって適当な水生の生息地の範囲が狭まるにつれて、湿地複合の中にある水深の深い所や池へと避難していく。そうした湿地では、雨期が再びめぐってきて湿地内の生息範囲が再び広がるまで、この狭い地域が動物の生存にとって重大な鍵を握る。非渡り性の種に対してこのような機能を果たす湿地(生態学的、地形学的、及び物理的に複雑な構造の場合が多い)は、個体群の存続にとって特に重要であり、優先的に登録湿地候補として考慮する。

水鳥に基づく特定基準

基準5:定期的に2万羽以上の水鳥を支える場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

82.定期的に2万羽以上の水鳥を支えるすべての湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

83.締約国が、この基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、世界的に絶滅のおそれのある種や亜種を含む水鳥の集合に対して生息地を提供する湿地のネットワークを登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。現在のところ、こうした湿地はあまり登録されていない(Green 1996)。上述第44節の「種の存在に対する正しい認識」も同じく参照のこと。

84.外来種の水鳥については、特定湿地の総個体数に含めてはならない(上述第45節「外来種」も参照のこと)。

85.この基準は、各締約国の様々な大きさの湿地に等しく適用される。この数の水鳥が存在する面積を正確に示すことは不可能だが、基準5に基づいて国際的に重要と特定される湿地は生態学的な単位を構成しているはずであり、したがって1か所の大きな地域を構成しているか、または小規模な湿地の集合である。上述第50節、51節の「湿地群」も同じく参照のこと。データが得られる場合には、累計を把握できるように、渡りの期間中における水鳥の入れ換わり数も考慮すること。

86.上述第52節「国際的枠組みによる補完」も参照のこと。

基準6:水鳥の一の種または亜種の個体群において、個体数の1%を定期的に支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

87.生物地理区内における水鳥の種または水鳥の亜種の個体数の1%以上を定期的に支えるすべての湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

88.締約国が、この基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、世界的に絶滅のおそれのある種や亜種の個体群を収容する一連の湿地を登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。上述第44節「種の存在に対する正しい認識」、第52節「国際的枠組みによる補完」も同じく参照のこと。データが得られる場合には、累計を把握できるように、渡りの期間中における水鳥の入れ換わり数も考慮すること。

89.締約国は、国際的に矛盾のないようにするため、可能な場合には、この基準に基づく登録湿地の評価基準として、国際湿地保全連合が発表して3年ごとに内容を更新している国際的な推定個体数と1%基準を用いる。決議.4が要請しているように、締約国は、この基準のより良い適用を図るために、将来における国際的な水鳥推定個体数の更新と改訂に向けてデータを提供するだけでなく、当該推定数データの大多数の出所である国際湿地保全連合の国際水鳥調査に関し、自国内での実施と発展を支援する。

魚類に基づく特定基準

基準7:固有な魚類の亜種、種、または科、生活史の一段階、種間相互作用、湿地の利益もしくは価値を代表する個体群の相当な割合を維持しており、それによって世界の生物多様性に貢献している場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

90.固有な魚類の亜種、種または科の相当な割合を支える湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

91.魚類は、湿地と結びついている脊椎動物の中で、最も数が多い。世界全体でみると、一生を通じて、あるいは生活環の一部分だけを湿地で過ごす魚類は、1万8000種以上にのぼる。

92.基準7は、魚類及び甲殻類の高い多様性があれば、その湿地を国際的に重要な湿地に指定できることを示している。この基準は、多様性というものが、分類群の数、様々な生活史の段階、種間相互作用、及び分類群と外部環境との相互作用の複雑さ等、様々な形をとりうることを強調している。したがって、種の数だけで個々の湿地の重要性を評価するのは不十分である。さらに、種がその生活環の様々な段階で果たす様々な生態学的役割についても考慮する必要がある。

93.この生物多様性の解釈には、高水準の固有性と生物非単一性が重要だということが暗黙のうちに含まれている。多くの湿地では、高い固有性を持つ魚類相がその特徴となっている。

94.国際的に重要な湿地の特定には、固有性の度合いを測る何らかの尺度を用いる。少なくとも魚類の10%が、一つの湿地または自然にまとまっている湿地群に固有のものならば、その湿地を国際的に重要とみなす。しかし固有の魚類がいなくとも、他に相応の特徴があれば、重要な湿地に指定される資格がないわけではない。湖のなかには、アフリカのグレートレイクスと呼ばれる湖群(ビクトリア湖等を含む)、ロシアのバイカル湖、ボリビアとペルーにまたがるチチカカ湖、乾燥地域にあるシンクホール湖や洞窟湖、島にある湖等のように、固有性のレベルが90100%という、きわめて高い数字に達するものもあるが、世界全体に適用するには10%という数字が現実的である。固有の魚類種が生息していない地域では、地理的な亜種のように、種以下の区分での遺伝的に異なる固有性を尺度に用いる。

95.世界中で魚類の734種が絶滅の危機に瀕しており、少なくとも92種がこの400年間に絶滅したことが知られている(Baillie & Grombridge 1996)。希少種または絶滅のおそれのある種の存在については、基準2で取り扱う。

96.生物多様性の重要な構成要素は、生物非単一性、すなわち群集内における形態または生殖形態の幅である。湿地群集の生物非単一性は、生息地の時間的、空間的多様性と予測可能性によって決定される。すなわち、生息地がより異なって予測できないものになれば、魚類相の生物非単一性はそれだけ大きくなる。例えば、マラウィ湖は安定した古代からの湖であり、そこには600以上の魚種が生息しているが、そのうち92%は口の中で稚魚を育てるカワスズメ科の魚類であって、科の数にすれば23科の魚類しか生息していない。これとは対照的に、ボツワナのオカバンゴ湿地という雨期と乾期の間で変動する沼地の氾濫原では、生息する魚種は60種に過ぎないが形態や生殖形態が非常に多様であり、生息する魚類の科の数は多く、つまり生物多様性はマラウィ湖よりも豊富である(Bruton & Merron 1990)。湿地の国際的な重要性を評価するには、生物多様性と生物非単一性の両方を尺度として利用すべきである。

基準8:魚類の重要な食物源であり、産卵場、稚魚の成育場であり、または湿地内もしくは湿地外の漁業資源が依存する回遊経路となっている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

97.魚類の重要な食物源を提供する湿地、または産卵場、稚魚の成育場である湿地、または魚類の回遊経路上にある湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

98.多くの魚類(甲殻類を含む)は、その産卵場、稚魚の成育場、採食場が広く分散しており、かつそれらの場所の間を長距離にわたって移動する等、複雑な生活史を有している。もし魚類の種や系統を維持しようとするなら、魚類の生活環を完結させるのに不可欠な場所をすべて保全することが重要である。沿岸の湿地(沿岸の潟湖や河口、塩生湿地、海岸の岩礁や砂丘を含む)は、水深が浅くて生産性の高い生息地を提供しており、成魚の段階を開放水域で過ごす魚類は、採食場や産卵場、稚魚の成育場として沿岸の湿地を広範に利用している。したがってこうした湿地は、大きな成魚の個体群の生息地になっていないとしても、漁業資源にとって不可欠な生態学的過程を支えているのである。

99.さらに、河川や沼地、湖に生息する多くの魚類は、当該生態系の一部分で産卵したとしても、他の内水面や海洋で成熟期を過ごす。湖に生息する魚類は、産卵のために河川を遡上するのがふつうであるし、河川に生息する魚類は、産卵のために河川を下って湖や河口、あるいは河口の先にある海へと移動するのがふつうである。沼地に生息する多くの魚類は、より永続的で深い水域から、浅いところや、一時的に冠水している場所へと産卵に向かう。したがって、水系の一部をなす湿地は、一見したところ重要ではないように見える場合であっても、当該湿地の上流、下流にわたる広い河川流域の適切な機能を維持するのに不可欠な場合がある。

100.本ガイドラインはあくまでも手引きを目的とするものであり、個々の湿地その他において漁業を規制する締約国の権利を妨げるものではない。


添付文書A

ラムサール条約における「湿地」の定義、湿地分類法

定義

ラムサール条約(1971年にイランのラムサールにて採択)の下では、第1条1及び第2条1により、「湿地」は以下のように定義される。

第1条1

この条約の適用上、湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地または水域をいい、低潮時における水深が六メートルを超えない海域を含む。

第2条1

(湿地は)水辺及び沿岸の地帯であって湿地に隣接するもの並びに島または低潮時における水深が六メートルを超える海域であって湿地に囲まれているものを含めることができる。

ラムサール条約湿地分類法

このコードは、勧告4.7によって承認され、第6回締約国会議決議第.5によって修正されたラムサール条約湿地分類法に基づいている。ここに掲げる分類は、各登録湿地が表す主要な湿地生息地を速やかに特定できるように、大まかな枠組みだけを提示するものである。

海洋沿岸域湿地

A -- 低潮時に6メートルより浅い永久的な浅海域。湾や海峡を含む。

B -- 海洋の潮下帯域。海藻や海草の藻場、熱帯性海洋草原(tropical marine meadow)を含む。

C -- サンゴ礁

D -- 海域の岩礁。沖合の岩礁性島、海崖を含む。

E -- 砂、礫、中礫海岸。砂州、砂嘴、砂礫性島、砂丘系を含む。

F -- 河口域。河口の永久的な水域とデルタの河口域。

G -- 潮間帯の泥質、砂質、塩性干潟

H -- 潮間帯湿地。塩生湿地、塩水草原、saltings(塩生湿地)、塩生高層湿原、潮汐汽水沼沢地、干潮淡水沼沢地を含む。

I -- 潮間帯森林湿地。マングローブ林、ニッパヤシ湿地林、潮汐淡水湿地林を含む。

J -- 沿岸域汽水/塩水礁湖。淡水デルタ礁湖を含む。

K -- 沿岸域淡水潟。三角州の淡水潟を含む。

Zk(a) - 海洋沿岸域地下カルスト及び洞窟性水系

内陸湿地

L -- 永久的内陸デルタ

M -- 永久的河川、渓流、小河川。滝を含む。

N -- 季節的、断続的、不定期な河川、渓流小河川

O -- 永久的な淡水湖沼(8より大きい)。大きな三日月湖を含む。

P -- 季節的、断続的淡水湖沼(8より大きい)。氾濫原の湖沼を含む。

Q -- 永久的塩水、汽水、アルカリ性湖沼

R -- 季節的、断続的、塩水、汽水、アルカリ性湖沼と平底

Sp -- 永久的塩水、汽水、アルカリ性沼沢地、水たまり

Ss -- 季節的、断続的塩水、汽水、アルカリ性湿原、水たまり

Tp -- 永久的淡水沼沢地・水たまり。沼(8未満)、少なくとも成長期のほとんどの間水に浸かった抽水植生のある無機質土壌上の沼沢地や湿地林。

Ts -- 季節的、断続的淡水沼沢地、水たまり。無機質土壌上にある沼地、ポットホール、季節的 に冠水する草原、ヨシ沼沢地。

U -- 樹林のない泥炭地。潅木のある、または開けた高層湿原、湿地林、低層湿原。

Va -- 高山湿地。高山草原、雪解け水による一時的な水域を含む。

Vt -- ツンドラ湿地。ツンドラ水たまり、雪解け水による一時的な水域を含む。

W -- 潅木の優占する湿原。無機質土壌上の、低木湿地林、淡水沼沢地林、低木の優占する淡水 沼沢地、低木 carr、ハンノキ群落。

Xf -- 淡水樹木優占湿原。無機質土壌上の、淡水沼沢地、季節的に冠水する森林、森林性沼沢地を含む。

Xp -- 森林性泥炭地。泥炭沼沢地林。

Y -- 淡水泉。オアシス

Zg -- 地熱性湿地

Zk(b) - 内陸の地下カルストと洞窟性水系

注意:「氾濫原」とは、一以上の湿地タイプを表すのに用いられる意味の広い用語であり、R、Ss、Ts、W、Xf、Xp等のタイプの湿地を含む。氾濫原湿地の例としては、季節的に冠水する草原(水分を含んだ天然の牧草地を含む)、低木地、森林地帯、森林等がある。本ガイドラインでは、氾濫原湿地を一つの湿地タイプとしては扱ってはいない。

人工湿地

1 -- 水産養殖池(例.魚類、エビ)。

2 -- 湖沼。一般的に8以下の農地用ため池、牧畜用ため池、小規模な貯水池。

3 -- 潅漑地。潅漑用水路、水田を含む。

4 -- 季節的に冠水する農地(集約的に管理もしくは放牧されている牧草地もしくは牧場で、水を引いてあるもの)。

5 -- 製塩場。塩田、塩分を含む泉等。

6 -- 貯水場。貯水池、堰、ダム、人工湖(ふつうは8ヘクタールを超えるもの)。

7 -- 採掘現場。砂利採掘抗、レンガ用の土採掘抗、粘土採掘抗。土取場の採掘抗、採鉱場の水たまり。

8 -- 廃水処理区域。下水利用農場、沈殿池、酸化池等。

9 -- 運河、排水路、水路

Zk(c) - 人工のカルスト及び洞窟の水系


添付文書B

戦略的枠組み用語集

悪条件(基準4)  長期化した干ばつ、洪水、寒さ等の厳しい気象条件が続く期間中に起こるような、動植物種の生存にとってきわめて不利な生態学的条件をいう。

適当な(基準1)  基準1のように「生物地理区」という用語に対して「適当な」という言葉が用いられる場合には、締約国が、その時点でとることのできる科学的に最も厳格な方法を実施するために決定した、地域区分をいう。

生物非単一性(基準7、8のガイドライン)  群集内における形態または生殖形態の幅をいう。湿地群集の生物非単一性は、生息地の時間的、空間的多様性と予測可能性によって決定される。

生物地理区の個体群  「個体群」にはいくつかの種類がある。

.単型種の個体群全体

.認識されている亜種の個体群全体

.一つの種または亜種の個体群であって、渡りを行う集団に分散したもの、つまり、同一の種または亜種の集団であって、他の集団とほとんど混じることのないもの

.一方の半球から移動して、もう一方の半球や地域にある比較的独立した部分で非繁殖期を過ごす鳥の「個体群」。多くの場合、こうした「個体群」は、繁殖地で他の個体群と広範囲に混じりあったり、渡りの季節中や非繁殖地で、同一の種の定着個体群と混ざりあったりする。

.定着性、遊走性、または分散性の鳥類の地域的な集団であって、明らかにかなり連続的に分布しており、通常の遊走的な渡り期間や繁殖後の分散期間に、他の個体と交流がないほどの大きな格差が、繁殖単位間にないように見えるもの。

生物地理区の水鳥の個体群に関する手引き(及び、データがある場合には、各個体群に対して提案される1%基準)は国際湿地保全連合が提供しており、最新の手引きは Rose & Scott (1997) が作成したものである。アフリカと西ユーラシアにおけるガン・カモ科(Anatidae)の個体群については、Scott & Rose (1996) による文献中に詳しく説明されている。

生物地理区(基準1、3)  気候、土壌の種類、植生被覆等の生物学的なパラメーターや物理的なパラメーターを用いて確定した、科学的に厳密な地域区分をいう。島国でない締約国にとって、生物地理区は、事実上国境にまたがることが多く、代表的湿地、固有な湿地等の湿地タイプを確定するには、複数の国の間での協力が必要となる。「バイオリージョン」という用語が生物地理区と同じ意味で使われる場合もある。この区域分けの性質は、自然の変異を測定するパラメーターの性質に応じて、湿地タイプごとに異なる可能性がある。

生物多様性(基準3、7)  すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息または生育の場のいかんを問わない)の間の変異性をいい、種内の多様性(遺伝的多様性)、種間の多様性(種の多様性)、生態系の多様性、生態学的過程の多様性を含む。(この定義の大部分は、生物多様性条約第2条に定める定義に基づいている。)

近絶滅種(基準2)  IUCN(国際自然保護連合)の種の保存委員会が用いている定義による。動物の場合には、IUCN刊行の1996年版「絶滅のおそれのある動物のレッドリスト」(Baillie & Broombridge 1996)の付属書3に記載されたAEの評価基準(動物用)のいずれかによって、また植物の場合には、IUCN刊行の1997年版「絶滅のおそれのある植物のレッドリスト」(Walter & Gillett 1998)の添付文書1に記載されたAEの評価基準(植物用)のいずれかによって、ある分類群がごく近い将来高い確率で野生では絶滅に至る危機にある場合、その分類群を近絶滅種という。後述「地球規模で絶滅のおそれのある種」も参照のこと。

重要な段階(基準4)  湿地に依存する種の生活環の重大な段階をいう。重要な段階とは、妨げられたり阻止された場合に、種の長期的な保全を脅かしかねない活動(繁殖、渡りの途中の中継地での休息等)をいう。種によっては(ガン・カモ科等)、換羽の場所もきわめて重要である。

生態学的群集(基準2)  共有する環境に生息し、食物の関係を中心として互いに交流しあい、他の集団から比較的独立している種の集団であって、自然に成り立っているものをいう。生態学的群集の大きさは様々であり、小さな生態学的群集が大きな生態学的群集に含まれていることもある。

絶滅危惧種(基準2)  IUCN(国際自然保護連合)の種の保存委員会が用いている定義による。動物の場合には、IUCN刊行の1996年版「絶滅のおそれのある動物のレッドリスト」(Baillie & Broombridge 1996)の付属書3に記載されたAEの評価基準(動物用)のいずれかによって、また植物の場合には、IUCN刊行の1997年版「絶滅のおそれのある植物のレッドリスト」(Walter & Gillett 1998)の添付文書1に記載されたAEの評価基準(植物用)のいずれかによって、ある分類群が、近絶滅種には相当しないまでも、それに次いで近い将来高い確率で野生では絶滅に至る危機にある場合、その分類群を絶滅危惧種という。後述「地球規模で絶滅のおそれのある種」も参照のこと。

固有種(基準7のガイドライン)  ある特定の生物地理区にのみ見られる種、つまり世界の他の場所には見られない種をいう。ある一群の魚類がある亜大陸の在来種である場合、そのうちの一部分の種は、当該亜大陸に含まれる一地域の固有種であることがありうる。

(基準7)  共通の系統学的起源をもつ属と種のまとまりをいう。例えば、ピルチャード類、イワシ類、ニシン類は、ニシン科という科に属する。

魚類(基準7)(fish)  ひれのあるすべての魚をいい、これには無顎口魚類(メクラウナギ類とヤツメウナギ類)、軟骨魚類(サメ類、エイ類、ガンギエイ科の魚類、軟骨魚綱)、硬骨魚類(硬骨魚綱)、特定の甲殻類、その他の水生無脊椎動物が含まれる(下記参照)。

魚類(基準8)(fishes)  複数の魚種が関わっている場合には、「魚類」という用語を用いる 訳注

訳注 日本語の場合には、魚種の数に関係な
く、「魚類」という用語を用いている。

(ラムサール条約で定義された)湿地に一般的に生息する魚類の目であって、湿地の利益、価値、生産性または多様性を表すものには、以下が含まれる。

無顎口魚類---無顎綱

  • メクラウナギ類(メクラウナギ目)
  • ヤツメウナギ類(ヤツメウナギ目)

軟骨魚類---軟骨魚綱

  • ホシザメ類やツノザメ類、サメ類(ツノザメ目)
  • ガンギエイ科の魚類(エイ目)
  • アカエイ科の魚類(トビエイ目)

硬骨魚類---硬骨魚綱

  • オーストラリアハイギョ(ケラトドゥス目)
  • 南アメリカハイギョ、アフリカハイギョ(レピドシレン目)
  • ビチャー(ポリプテルス目)
  • チョウザメ類(チョウザメ目)
  • ガーバイク類(レピゾステウス目)
  • アミア類(アミア目)
  • アロワナ類、テングザメ類(オステオゴロッシュム目)
  • ターポン類、、ソトイワシ類(カライワシ目)
  • ウナギ類(ウナギ目)
  • ピルチャード類、イワシ類、ニシン類
  • サバヒー類(ネズミギス目)
  • コイ類、ミノー類(コイ目)
  • カラシン類(カラシン目)
  • ナマズ類、ゴンズイ類(ナマズ目)
  • カワカマス類、キュウリウオ類、サケ類(サケ目)
  • ボラ類(ボラ亜目)
  • トウゴロウイワシ類(トウゴロウイワシ目)
  • サヨリ類(ダツ目)
  • メダカ・カダヤシ類(メダカ目)
  • トビウオ類(トビウオ目)
  • ヨウジウオ類(ヨウジウオ目)
  • シクリッド類、スズキ類(スズキ目)
  • カレイ・ヒラメ類(カレイ目)

いくつかの甲殻類

  • コエビ類、ロブスター類、淡水産ザリガニ類、クルマエビ類やテナガエビ類、カニ類(甲殻綱)
  • イガイ類、カキ類、pencil baits、マテガイ類、カサガイ類、タマキビカイ類、エゾバイ類、ホタテガイ類、ザルガイ類、アサリ類、
  • アワビ類、タコ類、イカ類、コウイカ類(軟体動物門)

その他特定の無脊椎動物

  • カイメン類(海綿動物門)
  • サンゴ類(刺胞動物門)
  • タマシキゴカイ類、ゴカイ類(環形動物門)
  • ウニ類、ナマコ類(刺皮動物門)
  • ホヤ類(ホヤ綱)

漁業資源(基準8)  魚類の個体群のうちで潜在的に利用可能な部分をいう。

渡りルート(基準2のガイドライン)  渡りルートとは、渡り性水鳥が世界で利用する地域を表すために作られた概念であり、繁殖地と越冬地との間を移動する水鳥の個体群が利用する、渡り経路と場所をいう。個々の種及びそれぞれの個体群は異なる経路を通って移動し、繁殖地、中継地、越冬地として利用する場所の組み合わせも、それぞれ異なっている。したがって一本の渡りルートには、水鳥の個々の個体群や種の移動系統が多数交わっており、そのそれぞれに生息地の好みや渡りの戦略がある。こうした各種移動系統に関する知見をもとにすれば、水鳥が利用する渡り経路を大まかな渡りルートに大別できる。各渡りルートは、毎年の移動の間に多くの種によって利用され、同じ様な方法で利用されることも多い。多数のシギ・チドリ類の種の移動に関する最近の研究では、例えばシギ・チドリ種の移動が次の8つの渡りルートに大別できると指摘している。すなわち、東大西洋ルート、地中海・黒海ルート、西アジア・アフリカルート、中央アジア・インド亜大陸ルート、東アジア・オーストラレーシアルートのほか、アメリカ大陸と新熱帯区にある三つの渡りルートである。

渡りルートは明確に分かれているものではなく、生物学的に重要な意味を持たせるためにこうした分類を用いようとしているのではない。渡りルートという考え方は、種や個体群の移動を多少なりとも簡単にグループ分けできる大まかな地理的単位で、他の移動種と同じように水鳥の生態と保全について考察できるようにするための貴重な概念なのである。

地球規模で絶滅のおそれのある種(基準2、5、6)  IUCNの種の保存委員会の専門家グループまたはレッドデータブックにより、近絶滅種、絶滅危惧種、危急種のいずれかに分類されている種もしくは亜種をいう。多くの分類群の場合、地球全体の現況に対する知見は乏しく、それを反映して特に無脊椎動物については、IUCNのレッドデータリストの内容は不完全なだけでなく激しく変動することに注意されたい。つまり、「危急」「絶滅危惧」「近絶滅」という用語については、対象となる分類群の現況に関してその時点で得られる最善の科学的知見に照らして、各国のレベルで解釈すべきである。

重要(基準2の長期目標)  その湿地を保護すれば、種または生態学的群集の長期的な生存可能性を、その地方ひいては地球全体で高めることになる湿地のことをいう。

固有な種(基準7)  特定の国を原産として、その国に自然に存在する種をいう。

移入種(外来種)  その国を原産とせず、その国に自然には存在しない種をいう。

カルスト(セクション.1)  可溶性岩石上に作り出された景観であって、効果的な地下排水のあるものをいう。カルストは、洞窟、ドリーネ、地表排水の欠如を特徴とし、必ずとはいえないまでも主として石灰岩上に形成される。カルストという名称は、スロベニアの古典的カルストである「クラス」という地方名に由来する。この最初に研究された温帯地域のカルストではドリーネ地形が優勢だが、それとは対照的な地形として、熱帯地域の針峰カルスト、円錐カルスト、塔カルストのほか、フルビオカルスト、寒冷地域の氷河カルストがある。「クラス」という言葉は、もともと、むきだしで岩だらけの土地を表すスロベニア語である。

以下のサブセクションではカルストに関する用語を扱う。

外来性排水: 隣接する不透水岩地域からの流出に由来するカルスト排水をいう。異地性排水とも呼ばれる。

難透水層: 帯水層に対して境界の役目をする比較的不透水な地層をいう。

帯水層: 十分な透水性を備えて地下水を運び、井戸や泉に水を供給する含水層準をいう。

半透水層: 帯水層への水の出入りを全面的には遮断しないものの遅らせる岩石層をいう。

被圧地下水流: 被圧帯水層という帯水層全体が飽和状態にある帯水層を通り、静水圧下にある流れをいう。

自生排水: カルスト岩石表面に吸収された降水に全面的に由来するカルスト排水をいう。原地性排水ともよばれる。

逆流洪水: 主要な地下河道内の狭窄部の後ろ側に余剰水量が詰まったために起こる洪水をいう。

層理面: 堆積岩中の堆積面をいう。

層理面洞窟: 層理面に沿った洞窟通路をいう。

盲谷: 水流が地下へ消失する地点、またはかつて消失していた地点で終わる谷をいう。

崩落: 洞窟崩壊と同義。アメリカの用法では、崩壊によって発生した岩砕とも同義。

炭酸カルシウム: 天然に産する化学式CaCO3の化合物であり、石灰岩、大理石などの炭酸塩岩の主成分である。

炭酸岩塩: 単一または複数種の炭酸塩鉱物から構成される岩石をいう。

洞窟: 地中に自然にできた穴で、人間が十分に入れるほどの大きさをもつものをいう。これには水文学上きわめて重要な地下河道や裂罅を含まない。洞窟は中に入ることのできる単一の短い通路のこともあれば、フリント・マンモスケイブシステムのように、何百キロメートルにもわたって広範で複雑なトンネルが網の目状に連なっている場合もある。ほとんどの洞窟は石灰岩の溶解によって形成されるが、砂岩洞窟、溶岩洞窟、氷河洞窟、テクトニック洞窟もある。洞窟というものを、ポットホールやヤマのように縦の開口部、あるいは自然にできた縦のシャフトではなく、水平の開口部とみなしている国もある。

洞窟湖: 堆積物の堤防やグーアの壁の後ろに水がたまってできた湖であって、通気帯洞内にあるすべての地下の湖をいい、これが水没部の入り口になっていることもある。

チェンバー: 洞窟の通路や洞窟系の中にある広い空間をいう。現在知られている最大のチェンバーはサラワク州にあるサラワクチェンバーであり、長さ700メートル以上、最大幅400メートル、最大高さ70メートルである。

古典的カルスト: スロベニアあるクラスと呼ばれる地方をいい、これがカルスト景観の語源となった。

地下河道: 拡大した裂罅や管状の空間など、溶解による空隙をいう。水で満たされた空隙に限ってこの用語が使われることもある。

地下河道流: 地下河道内の地下水流をいう。

溶食: 岩石の侵食であって、溶解を引き起こす化学作用によるものをいう。

ドリーネ: 円形の閉じた凹地で、受け皿型、円錐型、場合によっては円柱型のこともある。ドリーネは、溶解、陥没、または両者の組み合わせによって形成される。ドリーネは石灰岩カルストに一般的に見られる特徴だが、可溶性岩石の中や上にも形成されるものである。また、沈降ドリーネは、不溶性堆積物が下位に分布する洞窟が、形成された石灰岩中へ流出したり陥没することによって形成される。例えば、スロベニア最大のドリーネであるスムレコバ・ドラガは、長さ1キロメートル以上、深さ100メートル以上もある最大のドリーネである。

乾谷: 恒常的には地表水が流れていない谷をいう。地下排水が形成されたり、再活動したときに水がなくなる。

掘削: 自由に流れる水の流れによって谷を形成する侵食をいう。

吸い込み吐出穴: 地下水位に応じて、シンクホールか湧水かのいずれかの役割を果たす開口部をいう。

地下水面帯: 地下水面の水位が変動するゾーンをいい、上部飽和帯ともいう。

淡水レンズ: 透水性石灰岩の島や半島状の土地の下にある淡水の地下水をいう。塩分躍層に沿った淡水と塩水の地下水に挟まれた混合域が、淡水レンズの上下の境界となっている。

グーア: 方解石の沈積によって形成されるプールをいう。グーアは、何メートルもの高さと幅をもつ大きなダムになることもある。トラバーチンは野外で形成されたグーアである。

地下水: 飽和帯中の地下水面より下にある地下の水をいう。

セッコウ: 硫酸カルシウム二水和物を成分とする鉱物または岩石をいい、化学式はCaSO4·2H20である。

セッコウ洞窟: セッコウは非常に溶解性が高く、通気帯洞や飽和帯洞がこの中にできることがある。最大の洞窟はウクライナのポドリー地方にあるオプティミスティチェスカヤ洞であり、ここの通路だけで約180キロメートルの長さがある。

塩分躍層: 淡水地下水と塩水地下水との境界面をいう。

動水勾配: 帯水層内における地下水面の傾斜をいう。

氷洞: 岩石中に形成された洞窟で、洞内に年間を通じて氷が存在するものをいう。

流入点: 地下排水流路または帯水層の開始点をいう。

石灰岩: 炭酸カルシウムが少なくとも重量で50%を占める堆積岩をいう。

降水: その形態を問わず、大気中から降下した水をいう。

ムーンミルク: 方解石やアラゴナイトの細粒鉱物が堆積したものであり、ほとんどがバクテリアの堆積作用によるものである。

流出点: 地下排水流路または帯水層から水が流れ出る点をいう。

通路: 洞窟系のうち、人間が通過でき、垂直やほぼ垂直な部分でない水平な部分をいう。洞窟の通路はサイズも形も様々であり、知られている最大のものはサラワク州ムル国立公園にあるディア・ケイブで、幅は最高170メートル、高さは最大で120メートルある。

浸透水: 石灰岩の網目状につながった裂罅を通ってゆっくりと移動する水をいう。浸透水は、表土から石灰岩に浸入するのがふつうである。石灰岩帯水層に貯えられている水のほとんどは、浸透水によるものである。浸透水は、吸い込みから流入する水と比べて、洪水に対する反応が遅い。

透水性: 水を通過させる岩石の能力をいう。透水性は、初生的には連結した岩石中の間隙や開口した構造的な割れ目の作用であり、また二次的には、裂罅が溶解により拡大して地下河道の透水性が高まることがある。

飽和帯: 地下水面より下にある地下水で飽和した岩石の部分をいい、この中ではすべての地下河道が水で満たされている。

飽和帯洞: 地下水面よりも下に形成された洞窟をいい、飽和帯内にあるすべての空隙は水で満たされている。飽和帯洞は地下水面下深くにある湾曲部を含むことがあり、カルストの十分な発達に伴って、地下水面のすぐ下に浅い飽和帯洞が形成されることもある。

静水面: 観測井戸(静水管)で水柱が上昇する水位をいう。

ピット(竪穴): 地表または洞窟内部から延びるシャフト(竪坑)またはポットホールをいい、ギャラリー(大きな通路)の垂直部分である。

袋小路谷: 水源が無く突然始まっている谷をいい、カルスト湧水のある場所から、またはその下に形成されるものをいう。

ポリエ: 大きな平坦地をもつ閉じたカルストの凹地をいい、一般的には沖積低地を伴う。地表流や湧水はポリエに流れ込み、ポノール(吸い込み穴)を通って地下に流入する。一般にポノールは、洪水のような大量の水を通すことはできないので、多くのポリエは雨期には湖になる。ポリエの形状は地質構造による場合もあるが、純粋に横方向の溶解と平坦化作用による場合もある。

ポノール: シンクホールまたは吸い込み穴ともいう。

ポットホール: 単一のシャフト(竪坑)、またはほぼ垂直な洞窟系全体をいう。

偽カルスト: カルストに似た特徴の景観を呈すが、基盤岩の溶解によって形成されたものではないものをいう。

残存洞窟: 水の流れが他へ逸れた後に残された、活動洞窟でない洞窟部分をいう。

岩塩カルスト: 岩塩または岩塩に富む岩石に発達したカルスト地形をいう。

シャフト(竪坑): 洞窟の通路のうちで、自然の垂直または急峻な傾斜を呈すものをいう。知られているシャフトで最も深いものは、スロベニアのカニン高原にある入口のシャフトである。これはまったく岩棚がなく、深さ643メートルに及ぶ。

吸い込み: 水の流れや河川が狭窄部を通って地下へと姿を消す地点、または水流や河川が開口した横穴洞窟や垂直のシャフトへと流れこむ地点をいう。吸い込みから流入する水の特徴は、開口した洞窟にすぐ直接に流れこむことであり、浸透水とは区別される。吸い込みから流入する水は、地中流出とも呼ばれる。

洞窟学: 洞窟に関する学術的研究をいい、これには、地形学、地質学、水文学、化学、生物学等の科学的な側面のほか、数々の洞窟探検技術が含まれる。

鍾乳石: すべての洞窟鉱物堆積物を表す一般的用語であり、すべてのつらら石、流れ石、石華等を含む。

湧水: 地下水が地表に湧出する地点をいう。石灰岩に限らないが、一般に洞窟が発達する岩石に大きな湧水ができる。世界最大の泉は、トルコにあるデュマンリの泉で、平均流量は毎秒50以上である。

地表下風化帯: 土壌の下にある一般にきわめて風化の進んだ部分をいい、この下にはカルスト帯水層の比較的風化していない主岩盤がある。

サンプ(水没部): サイフォンともいい、水没した通路部分をいう。

トラバーチン: 流水によって堆積した石灰質鉱物であり、流水から植物や藻類が二酸化炭素を抽出することによって沈殿を引き起こし、トラバーチンの多孔質の構造ができあがる。毛管の力、水頭損失、空気混和もトラバーチンの堆積に影響する。

真洞窟性動物: 洞窟の外光が到達する部分より奥の地下に恒常的に生息する生物をいう。多くの真洞窟性の種は、何らかの形で暗黒の環境中で生息できるように順応している。

好洞窟性動物: 洞窟の外光が到達する部分より奥に意図的に侵入し、習慣的かつ一般的に一生の内の一部分を地下の環境で過ごす動物をいう。

外来性洞窟動物: ときどき洞窟に入るが、一時的にも恒常的にも洞窟を生息地として利用しない動物をいう。

通気帯洞: 大部分が地下水面より上の通気帯中に形成された洞窟をいい、水は重力によって自由に流れる。通気帯に存在する水が重力の作用を受けているということは、すべての通気帯洞窟通路は水を下方に排水するということであり、通気帯洞窟はカルスト帯水層の上部をなし、水は最終的に飽和帯または地表に排水される。

通気帯: 地下水面よりも上にある岩石帯であって、水が自由に下方に向かって流れ、部分的にしか水で満たされない層をいう。不飽和帯とも呼ばれ、土壌、地表下風化帯またはエピカルスト帯、それに自由排出浸透帯から成る。

ボークリューズ型湧出: 湧水または湧泉の一種であり、被圧された飽和帯からの直接排水が、水中洞窟内を流れて地表に流出するものをいう。このような湧出は、南フランスにあるボークリューズの泉にちなんで名付けられたものである。ボークリューズの泉の平均流量は毎秒26であり、垂直で深さは243メートルである。水量は季節によって変動する。

地下水面: 岩盤内の間隙を満たしている地下水体の上表面をいう。地下水面の上には自由排水される通気帯があり、地下水面の下側には常に飽和状態にある飽和帯がある。個々の地下河道は、地下水面の上にあるか下にあるか、つまり通気帯にあるか飽和帯にあるかのいずれかであり、地下水面とは結びついていないのがふつうである。石灰岩中では、透水性が高いために地下水面の傾斜(動水勾配)は低く、水位は出口の湧水や地域的な地質によって制御される。流量が多いと動水勾配も急になり、湧水とは関係なく水位が上昇することになる。フランスのグロット・ドゥ・ラ・リュイール(リュイール洞窟)では、洞窟の水位、したがってその地域の地下水面が、450メートルも変動する。

地下水追跡: 入口側の水にラベリングし、それを下流側の地点で識別することにより、未探検の洞窟を通ってつながっている地下の流路を確認すること。一般的なラベリング技術では、蛍光色素(ウラニン、フルオレセイン、ローダミン、白色素胞、ピラニンなど)、ヒゲノカズラの胞子、またはふつうの塩のような化学薬品を使用する。これまでに成功した最長の地下水追跡例はトルコで行ったものであり、全長130キロメートルに及んだ。

生活史の段階(基準7)  魚または甲殻類の発育上の一段階をいう。例えば、卵、胚、幼生、レプトセファルス、ゾエア、動物プランクトン段階、幼若体、成体、後成体など。

回遊経路(基準8)  サケやウナギなどの魚類が、産卵場や採食場、稚魚の成育場との間を移動する際に遊泳する経路をいう。回遊経路は、しばしば国境や、各国の国内にある管理区域の境界をまたぐ。

自然度が高い(基準1)  基準1で使われている「自然度が高い」とは、ほぼ自然とみなされる態様で機能しつづける湿地という意味である。基準にこの語を盛り込むことで、自然のままではない湿地であっても価値のあるものを、国際的に重要な湿地として登録できるように図るためである。

稚魚の成育場(基準8)  発育早期にある幼魚に対して隠れ家、酸素、食物を提供する目的で、魚類により利用される湿地の部分をいう。親が巣を守るティラピアのように、親が稚魚の成育場に残ってそれを守る魚類もあれば、親が巣を守らないナマズのように、稚魚が親によってではなく、卵を産みつけた生息地の提供する隠れ家によってのみ守られる魚類もある。稚魚の成育場の役割を果たす湿地の能力は、冠水、潮の交換、水温の変動、栄養分の変化など、湿地の自然の周期がどの程度保たれるかにかかっている。ウェルカム(1979)によれば、湿地で行われた漁業の場合、漁獲量の変動のうち92%は、その湿地の直近の洪水の履歴によって説明できることが示されている。

植物(基準3、4)  維管束植物、コケ植物、藻類、菌類(地衣類を含む)をいう。

個体群(基準6)  この場合には、関係する生物地理区の個体群をいう。

個体群(基準7)  この場合には同一の種で構成された魚類群をいう。

個体群(基準3)  この場合には、特定の生物地理区内における一つの種の個体群をいう。

避難場所(基準4)  「重要な段階」も関係しているので、その定義も参照のこと。重要な段階とは、妨げられたり阻止された場合に、種の長期的な保全を脅かしかねない活動(繁殖、渡りの途中の中継地での休息等)をいう。避難場所とは、干ばつ等の悪条件の期間中に、こうした重要な段階をある程度保護するような場所を表すものと解釈する。

定期的に(基準5、6)(「定期的に支える」)  以下の場合、湿地はある大きさの個体群を定期的に支えているという。

)3分の2の季節において必要数の鳥類が存在していることがわかっており、それに関して適切なデータが入手でき、しかも季節の合計数が3以上の場合。

)最低5年間かけて調査した結果、その湿地が国際的に重要である季節の最大平均値が、必要水準に達している場合(34年の調査の平均は、暫定的な評価にのみ使用できる)。

鳥類がある湿地を長期的に「利用」していることを確定するには、特に、存在する個体数の生態学的必要性と関連づけて、個体数水準の自然の変動を考察する。つまり、(半乾燥または乾燥地域において、干ばつ時もしくは寒冷時の避難場所もしくは一時的な湿地として重要な湿地であって、その程度が年毎に大きく変動する場合など)、状況によっては、湿地を利用している鳥類の数を年数で単純に算術平均しただけでは、その湿地の真の生態学的重要性が反映されないことがある。このような場合、湿地が特定の時期(生態学的ボトルネック)において決定的に重要であっても、他の時期にはそれより少ない数しか収容していないことがありうる。こうした状況においては、湿地の重要性を万全を期して正確に評価するために、適切な期間を対象としたデータについて解釈する必要性がある。

しかしながら、たいへんな奥地に生息する種や特に希少な種の場合、または国の調査実施能力が特に限られている場合など、状況によっては、少ない回数の計測をもとにしてその地域を適当とみなすことができる。情報がほとんどない国または湿地については、一回だけの計測でも、一つの種に対する当該湿地の相対的重要性を確定する一助となりうる。

国際湿地保全連合が編集している国際水鳥調査は、主要な参考情報源である。

代表的湿地(基準1)  ある地域で見いだされる湿地タイプの典型例である湿地についていう。各湿地タイプについては添付文書Aで定める。

相当な割合(基準7)(魚類の基準について)  極地の生物地理区において「相当な割合」とは、38の亜種、種、科、生活史の段階または種間相互作用をいい、温帯域においては1520の亜種、種、科などをいい、熱帯域では40以上の亜種、種、科などをいう場合があるが、これらの数字は地域により異なる。種の「相当な割合」にはすべての種が含まれ、経済的に価値のある種に限らない。種の「相当な割合」を擁する湿地の中には、魚類にとって限界ぎりぎりの生息地であるものもあり、熱帯域であっても、わずか数種の魚類しか生息していないこともありうる。例えば、マングローブ湿地の淀み、洞窟湖、死海周辺のきわめて塩分濃度の高い水たまりなどである。たとえ劣化した湿地であっても、それを復元した場合に種の「相当な割合」を支える可能性については、同じく考慮する必要がある。高緯度地方、最近氷結した地域、魚類にとって限界ぎりぎりの生息地などのように、もともと魚類の多様性に乏しい地域では、遺伝的に分けることのできる種以下の魚類分類も数に含めることができる。

産卵場(基準8)  求愛、交配、配偶子(精子、卵など)の放出、配偶子の受精、受精卵の放出のために、ニシン、コハダ、ヒラメ、ザルガイなど、淡水湿地に生息する多くの魚類が利用する湿地の部分をいう。産卵場は、河川域、河床、湖沼の沿岸または深水域、氾濫原、マングローブ、塩生湿地、ヨシ原、河口、浅海域の一部分等の場合がありうる。河川から流入する淡水が、隣接する海岸に格好の産卵条件を作りだすこともある。

(基準2、4)  野生状態で交配しまたは交配することのできる、自然に存在する個体群をいう。基準2、4及びその他の基準においては、亜種もこれに含まれる。

種間相互作用(基準7)  種間における、特定の利益や重要性をもつ情報やエネルギーの交換をいい、例えば、共生、片利共生、相互資源防衛、共同抱卵、托卵行動、親から子どもへの高度な保護、社会的狩猟、捕食者と被捕食者の例外的な関係、寄生、高次寄生などがある。種間相互作用はあらゆる生態系内で起こるが、サンゴ礁、古い湖沼など、種が豊富な極相群落であって、そうした作用が生物多様性の重要な構成要素となっている群落においては、特に発達している。

支える(基準4、5、6、7)  生息地を提供すること。ある期間にわたり、ある種または種の集合にとって重要であることを示すことのできる地域は、その種を支えているという。地域に対する占有は連続的である必要はなく、洪水や(地域的な)干ばつ条件といった自然現象に左右されうる。

生存(基準2の長期目標)  種または生態学的群集の地域的な生存及び全体的な生存に対して非常に寄与する湿地については、長期的にその地理的範囲を維持するようにできる。種が長期的に存続する可能性が最も高いのは以下の場合である。

)対象となる種の個体数動態データにより、現在、その種が自然の生息地の生存可能な構成要素として、長期的に自己を維持していることが示されており、

)予知できる未来において、当該種の自然の範囲が狭まらず、また狭まる可能性もなく

)現在だけでなくおそらく将来においても、長期的にその個体群を維持するのに十分な大きさの生息地が持続的に存在する場合。

絶滅のおそれのある生態学的群集  生態学的群集の大きさ、生存または進化を脅かす状況と要因が作用し続けるならば、事実上絶滅する可能性のある生態学的群集をいう。

絶滅のおそれのある生態学的群集の目安となるのは、その群集が、以下の現象のうちの一以上によって実証されるような絶滅につながるおそれのある脅威に、現時点でも継続的にもさらされているということである。

)地理的分布の著しい減少。分布の著しい減少は測定可能な変化とみなされており、これによって生態学的群集の分布が前回の幅の10%未満か、もしくは生態学的群集の全面積が前回の面積の10%未満になり、あるいはパッチ状になった生態学的群集のうちで、25年以上生存し続けられるのに十分な大きさの面積のあるものが10%未満しかない場合である。(10%という数字は参考値であり、もともとかなり広範な面積を占めていた群集などについては、違う数字をあてはめるほうが適切な場合もありうる。)

)群集構造の著しい変化。群集構造には、構成要素となって生態学的群集を形成している種の名称、数、こうした種の相対的及び絶対的量、当該群集内で働いている生物作用及び非生物作用の数、種類及び強度などが含まれる。群集構造の著しい変化は測定可能な変化であり、この変化によって、25年以内には当該生物学的群集の機能回復が実現しそうにない程度まで、当該群集の構成要素である種の量、非生物的相互作用または生物的相互作用が変化する場合をいう。

)生物学的群集において主要な役割を果たしていると考えられる在来種の消失または減少。このガイドラインは、群集の構造上重要な構成要素となっている種、例えば海草、シロアリの巣、藻類、優占木本種等、群集を存続させる過程または群集内で重要な役割を果たす過程で重要な種について言及するものである。

)脅威的作用によって生態学的群集が急速に消失しうるような、地理的に限られた分布(国別に判定)。

)群集構造が著しく変化するような程度まで、群集の過程が変化していること。群集の過程は、火災、洪水、水文学的変化、塩分や栄養分の変化等、非生物的なものの場合もあれば、受粉媒介者、種子散布者、植物の発芽に影響するような脊椎動物による攪乱等、生物的なものの場合もある。このガイドラインでは、生態学的な過程(火災の形態、洪水、サイクロンによる被害等)が、生態学的群集を維持する上で重要な力を持っていること、また、こうした過程が破壊されれば、生態学的群集が減少しうることを認識している。

入れ換わり数(基準5、6)  渡りの期間中に一つの湿地を利用する水鳥の累積合計数をいい、この入れ換わり数は、どの時点におけるピーク時水鳥数よりも多い数になる。

固有な(基準1)  そのタイプのうちで、その生物地理区内にのみ見られるタイプをいう。湿地タイプの定義については付属書Aに記載する。

絶滅危惧(基準2)  IUCNの種の保存委員会が用いている定義による。動物の場合には、IUCN刊行の1996年版「絶滅のおそれのある動物のレッドリスト」(Baillie & Broombridge 1996)の付属書3に記載されたADの評価基準(動物用)のいずれかによって、また植物の場合には、IUCN刊行の1997年版「絶滅のおそれのある植物のレッドリスト」(Walter & Gillett 1998)の添付文書1に記載されたAEの評価基準(植物用)のいずれかによって、ある分類群が、絶滅危惧A類(Critically Endangered)や絶滅危惧B類(Endangered)には相当しないまでも、中期的な将来において高い確率で野生では絶滅に至る危機にある場合、その分類群を絶滅危惧類という。既述「地球規模で絶滅のおそれのある種」も参照のこと 訳注

訳注 本訳は、環境庁による日本版レッド
データブックによる分類を根拠とした。

水鳥(基準5、6)  ラムサール条約は、水鳥を「生態学的に湿地に依存している鳥類」(条約第1条2)と実施のために定義している(条約中で使われているwaterfowlという用語は本基準及び本ガイドラインの適用上、waterbirdと同義とみなされる)。したがってこの定義には、湿地に生息するあらゆる鳥類種が含まれる。また、目という広義のレベルの分類群では、特に以下がこれに含まれる。

  • ペンギン:ペンギン目
  • アビ類:アビ目
  • カイツブリ:カイツブリ目
  • 湿地に関係のあるペリカン、ウ、ヘビウ類:ペリカン目
  • サギ、サンカノゴイ、コウノトリ、トキ、ヘラサギ:コウノトリ目
  • フラミンゴ:フラミンゴ目
  • サケビドリ、ハクチョウ、ガン、カモ(野禽):カモ目
  • 湿地に関係のある猛禽類:ワシタカ目
  • 湿地に関係のあるツル、クイナ等:ツル目
  • ツバメケイ:ツバメケイ目
  • 湿地に関係のあるレンカク、シギ・チドリ類、カモメ、ハサミアジサシ、アジサシ:チドリ目
  • バンケン:カッコウ目
  • 湿地に関係のあるフクロウ:フクロウ目

湿地の利益(基準7)  湿地が人に提供する便益をいう。例えば、洪水調節、表流水の浄化、飲料水や魚類、植物、建築材料、家畜用水の提供、アウトドアレクリエーション、教育など。決議.1も参照のこと。

湿地タイプ(基準1)  ラムサール条約湿地分類法の定義による。添付文書Aを参照のこと。

湿地の価値(基準7)  湿地が自然生態系の機能の中で果たす役割をいう。例えば、洪水の軽減と調節、地下水と表流水の維持、堆積物の捕捉、侵食の調節、汚染の軽減、生息地の提供など。


添付文書C

ラムサール登録湿地情報票

締約国会議の勧告第4.7によって承認された分類。

注意:本票に記入する前に、必ず、本書付随の「注釈及びガイドライン」を読むこと。

1.本票記入日、更新日

2.国名

3.湿地名称

4.経度緯度

5.海抜:(平均海抜、最高海抜、最低海抜)

6.面積:(単位:ヘクタール)

7.概要:(湿地の主な特徴を23行でまとめること)

8.湿地のタイプ:(「注釈及びガイドライン」の添付文書に記載されている湿地タイプのうち、該当するコードを○で囲むこと)

海洋沿岸域湿地:A · B · C · D · E · F · G · H · I · J · K · Zk(a)

内陸湿地:L · M · N · O · P · Q · R · Sp · Ss · Tp · Ts · U · Va · Vt · W · Xf · Xp · Y · Zg · Zk(b)

人工湿地:1 · 2 · 3 · 4 · 5 · 6 · 7 · 8 · 9 · Zk(c)

上記の湿地タイプを、優占度の高さに応じてランク付けすること:

9.ラムサール登録基準:(該当する基準に○をすること。次ページ12番を参照のこと)

1 · 2 · 3 · 4 · 5 · 6 · 7 · 8

この湿地にあてはまる最も重要な基準を記入すること:

10.湿地の地図を添付しましたか。どちらかに印をつけてください。(□はい  □いいえ)

(記入すべき地図上の特質に関する情報は、「注釈及びガイドライン」文書を参照のこと)

11.本票記入者の氏名、住所

以下の各項目については、ページを補充して追加情報を提出すること(追加ページ数は10ページまで):

12.前ページ第9番で選定した基準の根拠(「注釈及びガイドライン」文書の付属書を参照のこと)

13.一般的所在地:(最も近い都市とその行政地域を併記すること)

14.物理的特徴:(例えば、地質、地形、天然または人工等の起源、水文学的特徴、土壌の種類、水質、水深、水の永続性、水位の変動、潮汐の変化、流域面積、下流面積、気候等)

15.水文学上の価値:(地下水涵養、洪水調節、堆積物捕捉、安定した海岸線の保持等)

16.生態学的特徴:(主な生息地と植生の種類)

17.特記すべき植物:(固有種、固有な群集、希少種、希少な群集、絶滅危惧種、絶滅が危惧される群集、または生物地理的に重要な種もしくは群集等を記入)

18.特記すべき動物:(固有種、希少種、絶滅危惧種、個体数の多い種、または生物地理的に重要な種等を記入。個体数データも含む)

19.社会的、文化的価値:(例えば漁業生産、林業、宗教上の重要性、考古学的湿地等)

20.土地保有権、所有権湿地 周辺地域

21.現在の土地利用湿地 周辺地域、集水域

22.湿地の生態学的特徴に悪影響を及ぼす要因(過去、現在、将来)。例えば、土地利用の変更、開発プロジェクト等。湿地 周辺地域

23.実施された保全策:(実施された境界線変更を含めて、国レベルでの保護区の種類と法律的地位。管理方法。公的に承認された管理計画の有無とその実施の有無)

24.実施に移されていない保全策案:(策定中の管理計画、保護区とする正式提案の提示等)

25.科学的研究及び施設の現状:(現行プロジェクトの詳細、現地事務所の有無等)

26.現在の保全教育:(ビジターセンター、鳥の観察用目隠し、情報冊子、学校見学用施設等)

27.レクリエーション、観光の現状:(湿地がレクリエーションや観光用に使われているかどうか、使われている場合にはその種類、頻度や利用度等)

28.管轄:(州、地域等の領土上の管轄及び農水省、環境省等の機能上の管轄等)

29.管理当局:(湿地の管理を直接に所管する地方自治体の名称、住所)

30.参考文献:(科学、技術分野のみ)

本票は、以下のラムサール条約事務局宛にご返送ください。
送付先住所:Ramsar Convention Bureau, Rue Mauverney 28, CH-1196 GLAND, Switzerland
電話番号:+41 22 999 0170 ・ ファクス番号:+41 22 999 0169 ・ 電子メール: ramsar@ramsar.org


ラムサール登録湿地情報票注釈及びガイドライン

第4回締約国会議勧告4.7では、ラムサールデータベースに情報を提供する場合、締約国及びラムサール条約事務局は、ラムサール湿地の記載のために作成されたデータ票を使うよう定めている。同勧告では、「データ票」に記載する情報の種類を掲げている。さらに決議5.3では、湿地登録に際して、記入済みの「ラムサールデータ票」と湿地の地図を提出することを再確認している。またこのことは、その後の決議第.13と第.16でも再び繰り返されている。正式には「ラムサール登録湿地情報票」と題するこのデータ票は、ラムサール登録湿地データを記録するための標準様式を提供するものである。決議5.3は、保全策、湿地の機能、湿地の価値(水文学、生物物理学、植物、動物、社会、文化の各面での価値)及び選定基準(すなわち、ラムサール登録基準等)が特に重要であることを強調している。この決議では、データ票を記入する際にラムサール条約湿地分類法を利用することの価値を、改めて繰り返している。

十分に研究され記録されている湿地の場合、または特に現地調査の対象となっている湿地の場合には、(最高10ページまでの追加添付票を含めて)情報票に収まるよりもはるかに多くの情報を入手できるはずである。可能ならば常に、湿地に関する発行済み論文や報告書コピーも添付すべきである。同じく、湿地のスライドや写真も、きわめて貴重である。こうした追加情報については、必ずその出所を注記すること。

非常に大きく複雑な湿地系の場合には、二つのレベルで対応することが望ましい。つまり湿地系全体に対する大まかな報告と、その湿地系の中にある主要な部分に対する詳細な報告である。したがって特に大きな湿地複合については、湿地全体に対する情報票に加えて、そこに含まれる主要地域に対する一連の情報票を作成することが適切と考えられる。

決議.1では、湿地の生態学的特徴を維持するために、湿地のモニタリングが重要であることを強調している。この決議の付属書では、登録湿地の生態学的特徴の説明・評価用に集められた情報の価値を高める必要があること、及び以下に重点を置く必要があることを定めている。

・国際的に重要な湿地に利益や価値を与える湿地の機能・生産物・属性を記載し、ベースラインを確定すること。(現在のラムサール登録基準では、湿地での変化に伴って起こりうる影響を評価する際に、考慮すべきすべての湿地の利益や価値を網羅しているわけではないので、このことが必要となる)。後掲第12、14、15、16、17、18の各項がこれに該当する。

・国際的に重要な利益や価値にすでに影響を及ぼした、あるいは重大な影響を及ぼしうる人為的要因に関する情報を提供すること。後掲第22項がこれに該当する。

・登録湿地ですでに行われている(あるいは計画中の)モニタリングや調査の方法に関する情報を提供すること。後掲第23項、24項がこれに該当する。

・湿地の生態学的特徴にすでに影響を及ぼした、あるいは及ぼしうる、季節的もしくは長期的な「自然の」変化(植生遷移、ハリケーンのような偶発的・破壊的な生態学上の出来事など)、またはその両方について、自然の変異やその大きさに関する情報を提供する。後掲第16項、22項がこれに該当する。


以下の注釈は、ラムサール登録湿地情報票の各項に関するものである。

1.日付:情報票に記入した日(または情報票を更新した日)を記入する。

2.国名:国名を記入する。

3.湿地名称:条約の使用言語である英語、フランス語、スペイン語のいずれかにより、登録湿地に指定された湿地の名称を記入する(別の名称は括弧内に記入すること)。

4.経度緯度:湿地のほぼ中心の地理的座標(緯度、経度)を度、分で表す。対象湿地が別個の複数の構成単位から成る場合には、構成単位ごとの中心地の座標を記入する。

5.海抜:湿地の平均海抜、または最高海抜及び最低海抜を平均海面上のメートル数で記入する。

6.面積:指定した湿地の面積をヘクタールで記入する。

7.概要:湿地の簡単な概要を23行でまとめ、主要な物理的、生態学的な特徴、最も重要な価値、利益を記入する。

8.湿地タイプ:まず最初に、登録湿地が、海洋沿岸域湿地内陸湿地かを特定する。同じく、その湿地に人工湿地が含まれているか、または人工湿地であるか否かを特定する。湿地内にあるすべての生息地のタイプを示すコードを○で囲む。添付文書Aのラムサール「湿地タイプ」の分類を参照のこと。次に、選定した湿地タイプを、優占度の高さに応じてランク付けする。様々な生息地が含まれている大型湿地の場合、このランク付けはむずかしいこともありうる。このことについては認識されているが、湿地タイプの優占度を全体的に表すことは、湿地の情報を適切に管理する上で重要である。

9.選定の根拠:締約国会議が採択した国際的に重要な湿地選定のためのラムサール基準のうち、対象湿地に当てはまるものを○で囲む。当該選定基準に関する付属書と、その利用に関する関連ガイドラインを参照のこと。対象湿地の国際的な重要性を最も顕著に特徴づける基準を記入する(後掲第12項も参照のこと)。

10.湿地の概略図:湿地に関して、最も詳細で最新の地図が入手できる場合には、それを情報票に添付すること。添付地図の有無については、該当欄に印をつけること。

「理想的な」ラムサール登録湿地地図とは、登録湿地の境界、縮尺、緯度、経度、方位、行政上の境界(県、地区等)をはっきりと示し、基本的な地形情報、主要な湿地生息地のタイプ、注目すべき水文学的特徴を示すものである。また同じく、主な目印となるようなもの(町、道路等)も示すものである。さらに、土地を利用している活動についての記載があれば、なお有用である。

経験からして、ごくふつうに書いたとしても、湿地境界線を手書きで描いたり、(区域を示すために)網掛け模様を使ったりすると、地図の他の内容がわかりにくくなってしまうことが多い。また、地図に色つきで注記すると、背景部分の地形と区別しやすくなるように思えるが、白黒のコピーで複写すれば、ほとんどの色は見分けがつかなくなる。この点を覚えておくことは大切である。役にたつはずの注記から、こうした欠点が生じることのないようにすべきである。

地図の縮尺としてどのくらいが最適かは、実際に描く湿地の面積による。一般に1万ヘクタールまでの面積については2万5000分の1か5万分の1の縮尺、1万ヘクタールよりも大きく10万ヘクタールまでの面積については、10万分の1の縮尺、10万ヘクタールよりも大きい面積については25万分の1の縮尺とすべきである。中程度よりも大きな湿地の場合、A4または 8.5インチ × 11インチの大きさに望ましい縮尺で詳細を示すことはむずかしい場合が多いので、一般にこれよりも大きな用紙のほうが適している。絶対に原版の地図でなければならないというわけではないが、非常に明瞭な地図であることがきわめて望ましい。スキャナーで読み込んでコンピュータに入れるという夢が実現可能なら、以上の特徴を備えている地図があれば簡単にそれを実現できるのである。

11.情報票記入者の氏名、住所:情報票に記入した人の氏名、住所、組織名(機関名)、電話番号、ファクス番号、テレックス番号、電子メールアドレスを記載する。

以下のページに掲げる種類の情報については、ページを補充して追加する(追加ページ数は10ページまでとする)。

12.選定基準の根拠:基準コード(上記第9項)を示しただけでは、対象湿地に対してなぜその基準を当てはめたのか、正確な情報を伝えることはできない。したがって、基準コードを○で囲むだけでなく、なぜそれに○を付けたかを詳しく文章で説明することが絶対に必要である。

13.一般的所在地:湿地の一般的所在地を説明する。これには、「県」「地区」等、重要な行政上の中心となる都市、町、市で最も近くにある所から湿地までの直線距離と方位を含める。記載した行政上の中心地とその行政地区の人口も記載する。

14.物理的特徴:該当する場合には次の事項を含めて、湿地の主な物理的特徴を簡単に説明する。

  • 地質、地形
  • 天然または人工等の起源
  • 水文学的特徴(季節的な水収支、流入量、流出量)
  • 土壌の種類、土壌の化学特性
  • 水質(物理化学的特徴)
  • 水深、水の変動、水の永続性
  • 潮汐の変化
  • 集水域面積
  • 下流面積(特に、洪水調節にとって重要な湿地の場合)
  • 気候(最も重要な気候の特徴のみを記入。例えば、年間降雨量、平均気温変動幅、はっきりしている季節、その他湿地に影響する主な要因等)

15.水文学上の価値:湿地の主な水文学上の価値について説明する。例えば、湿地が、地下水の涵養と排水、洪水調節、堆積物捕捉、沿岸侵食の防止、水質の維持に果たす役割等。

16.生態学的特徴:優占的な植物群集と種を挙げ、帯状分布や季節的変化、長期的な変化等を描写しながら、主な生息地と植生の種類について説明する。偶然か意図的かを問わず、移入された植物種や侵入種を記入する。近接地域内の自然の植物群集で在来のものがあればそれについて簡単に記入するほか、現在の植物群集が在来の植生と異なる場合には、当該植物群集(栽培を含む)について簡単に記入する。食物連鎖に関する情報もこの項に記入する。

17.特記すべき植物:湿地が特に重要であるとされる理由に関係する植物の種または群集に関する情報を記入する(固有種、絶滅のおそれのある種または在来植物群集の特に好例となるようなもの等)。記入したそれぞれの種がなぜ特記すべきか、理由を述べるようにすること。

18.特記すべき動物:その湿地で特記すべき動物について総合的に説明し、可能な場合には常に、個体群の大きさについて詳細を記す。特に、固有種、絶滅の危機に瀕している種、経済的に重要な種、国際的に重要な数で生息する種に重点を置く。記入したそれぞれの種がなぜ特記すべきか、理由を述べるようにする。この情報票に、種のリストや個体数調査データを全部記載すべきではないが、もし入手できる場合には、本票に添付する。

19.社会的、文化的価値:主な社会的価値(観光、アウトドアレクリエーション、教育、科学的研究、農業生産、放牧、水の供給、漁業生産等)、主な文化的価値(歴史との関係、宗教上の重要性等)を記入する(詳しい説明は、以下の第2527項に記載する)。可能な場合には必ず、記入した価値のうち、自然の湿地の過程と生態学的特徴の維持と両立するものはどれか、持続不能な利用に由来するものはどれか、また、有害な生態学的変化に至るものはどれか、を示す。

20.土地保有権、所有権:湿地の所有権、周辺地域の所有権(国有地、県有地、私有地等)について詳述する。国または関係地域において特別な意味をもつ用語については、その意味を説明する。

21.現在の土地利用:登録湿地、周辺地域及び集水域、における主な人間の活動を記入する。湿地における主な人間の活動と主要な土地利用の形態(家庭用水、工業用水の供給、潅漑、農業、家畜の放牧、林業、漁業、養殖、狩猟)の説明に加えて、その地域の人口も記入する。可能な場合には必ず、各土地利用形態の相対的重要性を示す。では、湿地に直接関係のある土地利用と、湿地の影響を受ける可能性のある下流地域の土地利用についてまとめる。

22.湿地の生態学的特徴に悪影響を及ぼす要因:これには、湿地の自然の生態学的特徴に対して、過去、現在において影響を与えたり将来において影響を与えたりする可能性のある、湿地、集水域等の場所における活動の変更、土地利用、大型開発プロジェクトが含まれる(例えば水の供給の分岐、土砂の堆積、排水、埋め立て、汚染、過放牧、過度の人的攪乱、過剰な狩猟や漁業等)。汚染について記入する場合には、有害化学汚染物質とその汚染源を記載すること。これには、工業用及び農業用の化学排水等の排出が含まれる。湿地の生態学的特徴に対して、過去、現在において影響を与えたり将来において影響を与えたりする可能性のある、植生の連続等の自然現象がある場合には、円滑にモニタリングできるように詳述する。現存する有害要因と見込まれる有害要因とを区別し、できれば、湿地で生じる有害要因と、外部で生じた有害要因で湿地に影響を与えるもの(または与える可能性のあるもの)とを区別する。移入された外来種を挙げ、なぜ、どのようにして移入されたかについての情報を記載する。こうした情報を記入する際には、いずれの場合においても、より正確な生態学的特設のモニタリングを可能とするように数量的な情報を示すこと。

23.実施された保全策:湿地または湿地周辺が保護区に設定されている場合には、その詳細を記入し、開発規制、野生生物のためになるような管理方法、禁猟等、湿地で実施されているその他の保全策がある場合には、その詳細を記入する。現在、湿地でモニタリングや調査が実施されている場合には、その方法や方式に関する情報を記入する。ラムサール条約の賢明な利用に関するガイドライン(勧告4.2)及び賢明な利用のための追加手引き(決議5.6)が湿地で適用されている場合には、それについて説明する。保護区が設置されている場合には、設置日と保護区の大きさを記載する。管理計画の有無、その計画の公認非公認の別、実施の有無を記載する(締約国会議は、すべてのラムサール登録湿地に対して管理計画を策定するよう求めている)。「集水域」統合型湿地管理、あるいは、沿岸の湿地の場合の統合型沿岸域管理が適用されている場合には、その旨を記載すること。湿地の一部分だけが保護区に入る場合には、保護対象となっている湿地生息地の面積を記載する。いずれの保護区においても規制・実施とその効果について可能な場合は評価が行われるべきである。地域社会及び先住民族が登録湿地の管理に参加している場合はその旨も記入する。モントルーレコード記載の及びラムサール管理ガイダンス手順下の視察のあるときはその詳細を記入する。

24.提案されただけで実施に移されていない保全策:立法、保護及び管理に関する提案等、その湿地に対して提案された保全策があれば、それについて詳述する。長い間懸案となったままで実施されていない提案があればその経緯をまとめる。また、適切な政府当局に対して既に正式に提出した提案と、正式な政府の承認を得ていない提案とをはっきり区別する(例えば発表した報告書の中での提言、専門家会議の決議等)。実際に存在する(または策定中の)管理計画で実施されていないものがあれば、それについても記載する。

25.科学的研究及び施設の現状:現在行われている科学的研究の詳細、研究用特別施設に関する情報を記載する。

26.現在の保全教育:保全に関する教育や研修のための計画や施設がある場合にはその詳細を記載し、湿地を教育に生かす可能性について意見を記入する。

27.レクリエーション、観光の現状:レクリエーションと観光に関する湿地の現在の利用について詳述し、既存または計画中の施設があればその詳細も記載する。年間観光客数も記載する。観光が季節的なものかどうか、どのような種類の観光かを記載する。

28.管轄:a)湿地の領土上の管轄権を有する政府当局の名称(国、地域、市等)、b)保全を目的とする「機能上の管轄権」を有する当局の名称(環境省、漁業省等)を記載する。

29.管理当局:湿地の現地での保全と管理を直接に所管する自治体の名称、住所を記載する。

30.参考文献:湿地に関係する主要参考文献をリストアップする。これには、管理計画、主要な科学論文、文献が含まれる。湿地で多数の刊行資料が入手できる場合には、記載すべき最重要文献のみをここに記載し、その際には、文献の広範な目録が掲載されている最近の文献を優先する。可能ならば常に、最重要文献またはそのコピーを添付する。


ラムサール登録湿地情報票の付属書A

ラムサール条約湿地タイプ


添付文書D

参考文献

Baillie, J. & Groombridge, B. (eds.) 1996. 1996 IUCN Red List of Threatened Animals. IUCN, Gland. 378 pp.

Bruton, M.N. & Merron, G.S. 1990. The proportion of different eco-ethological sections of reproductive guilds of fishes in some African inland waters. Env. Biol. Fish 28: 179-187.

Green, A.J. 1996. Analysis of globally threatened Anatidae in relation to threats, distribution, migration patterns, and habitat use. Conservation Biology 10: 1435-1445.

Rose, P.M. & Scott, D.A. 1997. Waterfowl population estimates. Second edition. Wetlands International Publication 44, Wageningen, The Netherlands.

Scott, D.A. & Rose, P.M. 1996. Atlas of Anatidae populations in Africa and Western Eurasia. Wetlands International Publication 41, Wageningen, The Netherlands.

Walter, K.S. & Gillett, H.J. (eds.) 1998. 1997 IUCN Red List of Threatened Plants. IUCN, Gland. 862 pp.

Welcomme, R.L. 1979. Fisheries ecology of floodplain rivers. Longman, London. 317 pp.


「記録」表紙

[英語原文:ラムサール条約事務局,1999.Ramsar Resolution VII.11 Annex "Strategic Framework and guidelines for the future development of the List of Wetlands of International Importance of the Convention on Wetlands (Ramsar, Iran, 1971)", May 1999, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/res/key_res_vii.11e.pdf; [formerly onl-line] http://ramsar.org/key_guide_list_e.htm.]
[和訳:「ラムサール条約第7回締約国会議の記録」(環境庁 2000)より了解を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2001年6月.後継の2002年版,及びそののちの2006年版へのリンクを付した,2006年9月.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイトにかつて掲載されていた当該英語ページにおおむね従う.]


Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第7回締約国会議
Valid HTML 4.01 Transitional Valid CSS 2.1

URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop7/key_guide_list_j.htm
Last update: 2007/08/02, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).