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ラムサール条約における広報・教育・普及啓発(CEPA)への取り組み
決議 VII.9 条約普及啓発プログラム

香川 裕之,NPO法人 蕪栗ぬまっこくらぶ 2001年6月

C 水辺で月とたわむれるこども → 望ましい未来
E 丸太とはっぱ → 失われたものたちの再生
P 水鳥 → 安心と平和
A 稲穂とめだか → 農業との共生
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もくじ


決議の概要
決議の背景
決議の意義
最近の動向
わが国における取り組み
今後の課題
今後のスケジュール

[コラム] 

湿地に関わる関係者とその役割
蕪栗沼での湿地CEPAの取り組み

決議の概要

 湿地は多くの資源と機能を人類にもたらしていますが,そうした認識は地域の人々に十分に浸透しているとはいえず,時には湿地は無益な場所として開発の対象となり,また有限な資源を無尽蔵に利用することにより,すでに地球上の数多くの湿地が失われてきました.
 湿地の保全とその資源の賢明な利用(ワイズユース)を進めていくためには,利害関係者を含むさまざまな人々に,湿地の価値と機能を広報*・教育・普及啓発していくことが重要です.

 この決議は締約国に対し,各地の湿地での具体的な取り組みのほか,「湿地」「ラムサール条約」といった概念・枠組みに至る幅広いレベルで広報・教育・普及啓発活動を展開すること,その活動を国家政策として実施するため「国内湿地広報教育普及啓発行動計画」の策定を求めています.そして,その活動を支援するために「1999−2002年ラムサール条約普及啓発プログラム」が用意されています.

*原語「Communication」は「広報」または「情報伝達」と訳されていますが,ここでは「広報」を採用しました.


* ラムサール条約決議 VII.9 本文和訳英語原文):条約普及啓発プログラム
* ラムサール条約決議 VII.9 付属書和訳英語原文):1999-2002年ラムサール条約普及啓発プログラム

より詳しく
* ラムサール条約勧告V.8和訳英語原文):「湿地保護区で湿地の価値の普及啓発を促進する方法」
* ラムサール条約決議VI.19和訳英語原文):「教育と普及啓発」
* ラムサール条約1997−2002年戦略計画和訳英語原文)へのリンク
* 1999−2002年ラムサール条約普及啓発プログラム 本文;和訳)へのリンク
* ラムサール条約決議VII.8和訳英語原文):「湿地管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」

決議の背景

 湿地に関する普及啓発の重要性が初めて明確に示されたのは,1993年釧路での第5回締約国会議で,勧告5.8「湿地保護区で湿地の価値の普及啓発を促進する方法」が採択されています.

 1997年オーストラリア ブリスベンでの第6回締約国会議では,この考えがさらに発展し,決議VI.19「教育と普及啓発」が採択されました.決議VI.19は,地方から地球規模まであらゆるレベルでの教育・普及啓発(Education and Public Awareness; EPA)プログラムが実行されることにより,湿地に関わるあらゆる人々に対して湿地の価値と利益について理解を深めること,湿地資源の保全と持続可能な管理に向けた行動を発展させることを求めています.

 また,併せて採択されたラムサール条約1997−2002年戦略計画でも,「教育と普及啓発」は重要なテーマの一つに位置付けられました.総合目標3「世界中のすべてのレベルで,湿地の価値と機能に関する認識を高める」では,具体的な行動目標として次の3つの実施目標が提示されました.すなわち,

  • 各国での取り組みを支援する,国際的なEPAプログラムの整備(実施目標3.1)
  • 各国レベルでの湿地に関するEPAプログラムの開発,実行(実施目標3.2)
  • ラムサール条約自体の普及啓発に向けた「条約広報戦略」の準備(実施目標3.3)

 あらゆるレベルでの湿地に関するEPAプログラムの開発が大きなテーマとなったことを受けて,1998年9月には第7回締約国会議に向けたワークショップが開催され,「ラムサール条約普及啓発プログラム」の策定に向けた具体的な議論が行われました.

 こうした経緯を経て,第7回締約国会議で決議VII.9「条約普及啓発プログラム」が採択されたのです.湿地管理への地域住民や先住民の参加(決議VII.8)など、さまざまなレベル間の参加と広報・情報伝達(Communication)の重要性が認識された結果、この決議ではEPAに代わり,「広報・教育・普及啓発(Communication, Education and Public Awareness; CEPA)」が使われています.

 

湿地に関わる関係者とその役割

 決議VII.9 付属書には,湿地に関わる関係者とそれぞれの役割について,添付文書I 「ラムサール条約の普及啓発プログラムの優先的対象グループ」にまとめられています.
 添付文書Iでは,関係者を5グループに大別し,さらに各グループを構成するさまざまな団体・個人ごとに,湿地のとの関わり方に応じて具体的な行動を求めています.

  • 一般大衆
    • 地主
    • 先住民,地域社会
    • 地域NGO
    • 著名人,指導者など
  • すべてのレベルの政府
    • 地方自治体の環境担当者
    • ラムサール条約担当省庁
    • 議員など
  • 国際的組織および地域的組織
    • 世界銀行,国連開発計画
    • 欧州委員会
    • IUCN,WWF
    • 環境関連条約の事務局など
  • 民間企業(一次産業関係者を含む)
    • 後援者,支援者
    • 農林水産業,観光,潅漑
    • 職業団体など
  • 教育部門および教育機関
    • 教育大臣,大学
    • 教師
    • 動物園,水族館
    • 図書館など

 自分がどの団体・個人に分類され,湿地保全や持続可能な利用,およびその普及啓発に関してどのような取り組みができるかを理解しておくことも,大切なことだと思います.

決議の意義

 この決議にあたって,「1999−2002年ラムサール条約普及啓発プログラム」が準備されました.ここでは,以下の3項目が解説されています.すなわち;

  • 普及啓発プログラムの目標と根拠
  • 関係者(湿地CEPAの展開に関し責任を負うべき人々や組織)
  • 行動のための手段と枠組み

 決議は,このプログラムを採択するとともに,その実行にあたり次のことを求めています;

  • 各国ごとに湿地CEPAの窓口を決める
  • 専門家ネットワークの構築
  • 国内向け「湿地CEPA行動計画」の立案及び見直し(2000年末までに)
  • インターネットを活用した湿地CEPA情報センターの設置
  • 世界湿地の日や世界湿地週間のさらなる活用
  • 各国の湿地CEPA行動計画策定に向けた国際協力
  • 湿地CEPA実施のための資金確保

 湿地に関わる人々は多分野にわたるので,かれらの意志をとりまとめ,意識啓発していくには大変な時間と資金,労力を要します.その活動を支えるために,国家政策の一環として湿地CEPAを実施する体制作りが不可欠です.
 この決議に基づき各締約国は,国際的な支援の下で湿地CEPAの具体的な行動計画を策定します.それが国家政策の一環として戦略的に(かつ予算的裏付けをもって)実施されれば,幅広い層に「湿地の価値と機能」をアピールすることが可能となります.
 加えて,地域レベルでの地道な湿地CEPA活動が行われることにより,各湿地に関わるあらゆる人々に対し,ラムサール条約の基本理念に基づく湿地の保全と賢明な利用を促すことができると期待されます.



蕪栗沼での湿地CEPAの取り組み

 宮城県北部の田尻町にある蕪栗沼では,NPO法人 蕪栗ぬまっこくらぶ が中心となり,町,地域住民,地元の小中高等学校,宮城教育大学,民間企業,日本雁を保護する会などが連携して学際的なネットワークを構築して,地域住民への広報・環境教育・普及啓発の取り組みが行われています.

 蕪栗沼は広大な水田地帯の中に位置し,約150haの原生的な低地性湿地景観を残しています.冬になると最大数万羽の水鳥が渡来し,夏にはさまざまな湿生植物が繁茂します.
 一方,蕪栗沼は遊水池のためしばしば洪水が発生,水鳥による農作物への食害などもあり,住民の沼に対する意識は決して良いものではありませんでした.

 沼の本当の価値をみんなが理解し,それを将来にわたって伝え残していきたい.蕪栗ぬまっこくらぶは,それを実現するために地道な広報・環境教育・普及啓発の取り組みを始めました.

広報(情報交流・情報伝達)

 ホームページによる情報発信が最も効果を発揮しています.蕪栗沼ホームページは蕪栗ぬまっこくらぶが開設・運営しているもので,蕪栗沼の生物調査の結果やその写真,自然環境,社会環境に関する考察,保全活動の経緯と経過報告など多彩な情報を発信し,内外から高い評価を得るとともに,環境教育の現場でも活用されています.
 また,田尻町が窓口となって「東アジアガンカモ類重要生息地ネットワーク」に参加したことにより,同ネットワークを通じて各生息地間の情報交流が活発化することが期待されています.

環境教育

 地元の大貫小学校・西郷小学校による総合学習授業やPTA学年行事における「蕪栗沼探検」自然体験学習が実施されており,蕪栗ぬまっこくらぶや田尻町の支援のもと,生徒に蕪栗沼の生きものに関する理解を深め,身近な環境と人間の生活との関わりについて考察する機会を与えています.こどもたちへの環境教育による啓発は,その家族にまで浸透し,大きな効果を上げています.
 また,宮城教育大学環境教育実践研究センターが行っているフレンドシップ事業は,同じく蕪栗ぬまっこくらぶや田尻町と連携し,宮城教育大学の学生が環境教育講座のカリキュラムの中で直接こどもたちを指導する授業を実施しています.
 1999年には建設省(当時)の「水辺の楽校」に登録されました.その推進協議会で関係者の共通の理解のもとに実施方針を定めることにより,蕪栗沼を環境教育・普及啓発活動の場として使いやすい体制を整えています.

普及啓発

 2001年で第6回になる「蕪栗沼探検隊の集い」が開催され,蕪栗沼の自然的価値を認識し,広く喧伝する場として定着しています.また同時に行われる「蕪栗シンポジウム」では,関係者の自由な参加と議論により,蕪栗沼の将来像について幅広い意見交換が行われています.
 また,田尻町グリーンツーリズム委員会と共催して「2万羽の雁を見る会」を開催しているほか,リーフレットやガイドブックの作成,マスコミ取材の支援などを行っています.

最近の動向

 「1999−2002年ラムサール条約普及啓発プログラム」に基づいて, さまざまな取り組みが始まっています.
 各締約国では, 国内湿地CEPA活動計画の策定作業が進められていますが,各国の進捗状況にばらつきが大きいのが現状です.そのため,ラムサール条約事務局は2001年3月に「湿地CEPA活動計画策定およびその見直しのための追加ガイダンス」を各国窓口に配布し,国内湿地CEPA活動計画の作成を支援しています.また,活動計画作成にあたって,各地域レベルでのワークショップも開催しています.
 さらに条約事務局は,2001年にラムサールCEPAのホームページを開設しました.このホームページには,湿地CEPA活動を支援するためのツールが盛り込まれています.たとえば,各国窓口のリストや国内湿地CEPA活動計画の手引書,湿地教育の関係機関などにリンクが張られているほか,湿地教育に使える教材なども用意されています.
 これに併せて条約事務局は,ラムサールCEPA専用のメーリングリスト(ML)を開設し,情報共有の体制を整えました.このMLに参加を希望される場合,下記e-mailアドレスへメールを送って下さい.ただし,件名や本文は必要ありません.

ラムサールCEPA専用ML;ramsar-cepa-eng-join@indaba.iucn.org

 

わが国における取り組み

 わが国では,環境省と国際湿地保全連合日本委員会が湿地CEPAの窓口となり,国内湿地CEPA活動計画の策定作業が進められています.これは,アジア・太平洋地域の湿地普及啓発事業の一環として行われているものです.この策定作業に先立ち,国際ワークショップが2000年10月に開催されました.
 宮城県田尻町で開催されたこのワークショップには,オーストラリア,香港,イタリア,ドイツそして日本から湿地環境教育の専門家が集まり,湿地CEPAの取り組み方針が話し合われました.その結果,湿地CEPAを展開する上で,各地の湿地に直接関わっている第一次産業(農業や漁業)従事者や地域住民への地道な声掛けが大変重要で,かつ有効的であることが確認されました.また,各湿地への理解を助ける教材の重要性も指摘されました.
 各湿地では,これまでもCEPAに関するさまざまな取り組みが行われてきましたが,時としてそれは観光資源としての利用,すなわち地域外の来訪客を主な対象としていたように思われます.しかし,各湿地を支えているのは地域住民であり,彼らの理解と支援なしに湿地の保全と賢明な利用を促すことは困難です.このワークショップを契機として,地域住民を対象とした湿地CEPA活動が活発になることが期待されます.
 ところで,ワークショップが開催された田尻町には,東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワークに登録されている蕪栗沼があります.ここでは,学際的なネットワークを基として,主に地域住民を対象とした湿地CEPA活動が展開されており,国際的にも注目されています(コラム参照).

 なお,わたしたち琵琶湖ラムサール研究会の活動は,わが国でのラムサール条約自体の普及啓発活動を目的としたもので,「ラムサール条約1997−2002年戦略計画(実施目標3.3)」を具体的に行っていると考えることができます.

 

今後の課題

 わが国で行われる湿地CEPA活動の最も重要な対象は,第一次産業従事者と考えられます.直接的・間接的に湿地資源を利用している人々,逆に湿地の存在によって何らかの損害を被っている人々,あらゆる利害関係者に対し,湿地保全と賢明な利用を促すための地道なCEPA活動が望まれます.
 また,将来の担い手であるこどもたちへの湿地環境教育もますます重要性を増すことでしょう.この取り組みには,地域住民や教育関係者の理解と協力が不可欠ですが,実際の活動のベースとなる教育プログラムや教材の開発も大きな課題となっています.
 さらに,これらの活動を互いに支援するネットワークの構築も重要な課題です.省庁・自治体・教育機関・地域住民といった各レベルごとの縦の連携,そして各レベル間の横の連携が有機的なネットワークを持つことにより,CEPA活動を展開しやすくなります.その際,利害関係のない地域NPOがコーディネーターとなれば,ネットワークを構築しやすくなると思われます.

 一方,各国で行われている国内湿地CEPA活動計画の策定作業は,国ごとにその進捗状況に大きな違いがあります.2002年に開催される第8回締約国会議では,各国ごとに湿地CEPA活動について報告することになっており,策定作業が先行している国の,遅れている国に対する積極的な支援が望まれます.


今後のスケジュール
国内 ラムサール条約
  • 2001年 CEPA国内湿地活動計画を条約事務局に提出(予定)
  • 2001年 ラムサール条約推進国内連絡会議(予定)
  • 2001年 CEPAレポートワークショップ(予定)
  • 2002年 第8回締約国会議(スペイン)


ラムサール条約決議 VII.9 条約普及啓発プログラム
本文(和訳)付属書(和訳)

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