他の国際的な枠組みとの関係
1993年の決議5.1「釧路声明」において,ラムサール条約が生物多様性条約と密接に連携してゆくことが採択され,1996年に両条約事務局の協力に関する覚書が締結されました.これがラムサール条約と他の環境条約との連携の端緒でしょう.
生物多様性条約とのあいだには,この協力覚書に基づいて,1998-1999年の共同作業計画,つづく2000-2001年共同作業計画が策定され現在に至っています.
生物多様性条約では生物多様性を脅かす侵入種に対する措置が,第8条(h)で締約国の義務となっており,これを促進することが条約の大きな課題のひとつとなっています.このことから,ふたつの条約の共同作業計画においても:
- 1998-1999年:ふたつの条約事務局が共同して,IUCNやSCOPEとそのとりくみについて連絡を取り合うこと(、4.c).
- 2000-2001年:ラムサール条約科学技術検討委員会の作業部会がIUCNのガイドライン草案や生物多様性条約が策定する「外来種の予防,移入,および害の軽減のための指導原理」指導原理を検討すること;この作業を生物多様性条約の関係組織が考慮してこの分野の一般的用語集の開発に組み込むこと;ラムサール条約の作業部会が,海洋性ならびに沿岸性の外来の種や種のタイプに関する情報を生物多様性条約事務局に提供すること(実施活動
4.1, 4.2, 4.3).
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決議の背景
ラムサール条約では第7回締約国会議までにも湿地環境を保全してゆくための指針や手引きなどをさまざま開発してきました.その過程で侵入種が湿地環境に及ぼす脅威が認識され,1993年釧路での第5回締約国会議において採択された決議5.6「賢明な利用の概念実施のための追加手引き」ならびに決議5.7「ラムサール登録湿地及びその他の湿地の管理計画策定に関するガイドライン」のなかで侵入種についても次のように言及されました.
決議5.6では,締約国各国が湿地政策を確立して湿地のワイズユースを履行するために一般的法制度を開発するにあたっては,外来種の移入の禁止などの予防手段をとる義務やその根絶のための努力をする義務,市民が侵入種による損害を訴える機会を提供する義務を考慮することが求められています(手引き
I.2.2).
決議5.7では,各々の湿地の管理計画をたてる際に,外来種の蔓延状況を見極めたうえでその管理計画の長期的目標を策定するように要請されています(ガイドライン
2.3.2).
釧路会議以降にはじまったラムサール条約と生物多様性条約との連携が進む過程で,ラムサール条約における侵入種に関する取り組みの必要性が高まり,またIUCNや環境問題科学委員会(SCOPE)など世界的にさまざまな取り組みが進められている状況から,締約国がその湿地保全にかかる活動において取り組みを進めることができるように侵入種を対象とした決議VII.14が今回の第7回締約国会議において採択にかけられたものと考えることができます.
決議の意義
この決議のために「湿地と侵入種についての特別対策書」が準備されました.ここでは
- 侵入種とは何か?
- 侵入種が湿地に及ぼす影響
- 湿地における侵入種となりうる生物のリスト
- 防除手段の概略
- 解決策の要素と関係する各種団体組織の役割
が概説されています.
科学技術検討委員会 1999-2002年 作業計画
(1999年12月の常設委員会 決定24.6 にて採択)
《抜粋》訳:宮林 泰彦
5. 侵入種作業部会 委託事項
決議VII.14によって科学技術検討委員会にあたえられた仕事:
- 科学技術検討委員会に対し、以下を指示する。
- 生物多様性条約の科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTTA)、環境問題科学委員会(SCOPE)の世界侵入種計画(GISP)、その他国際条約のもとに設立された諸計画と協力して、またIUCNの「生物侵入による生物多様性の喪失防止のためのガイドライン草案」を考慮に入れて、湿地と湿地に生息する種を脅かす可能性のある外来種を特定し、行動の優先順位を定め、管理するための湿地別のガイドラインを作成する。
- 環境上危険な新しい外来種の管轄区域への移入と、管轄区域内のそのような種の移動や取引を最小限に抑えることを目的として、「リスク評価」を組み込んだ、立法化等の最良の実践例による管理方法の手引きを、締約国の利益を図り作成するため、関連する各国・諸機関等と協議する。
活動:
- 本会合の結論までに,IUCNの「生物侵入による生物多様性の喪失防止のためのガイドライン草案」を検討し意見を述べる.
- 本会合の結論までに,生物多様性条約の科学上及び技術上の助言に関する補助機関の文書「外来種:その予防,移入,および害の軽減のための指導原理」を検討し意見を述べる.
- 次回会合時までに,IUCNと生物多様性条約のふたつの文書が「外来種を特定し、行動の優先順位を定め、管理するための湿地別のガイドライン」を準備するという科学技術検討委員会の仕事を満たすか否かを見きわめて,適切な勧告を科学技術検討委員会に提出する.
- 「湿地リスク評価」(決議VII.10)のケーススタディーの準備に関連したリスク評価の手引きの準備に対して,情報を提供する.
部会委員
Max Finlayson (リーダー), Angel Alcala, Aboubacar Awaiss, Harry
Chabwela, Geoff Cowan, Peter Maitland, Jan Pokorny, Toomas Saat,
WWF
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決議では,この対策書に基づいて締約国が湿地における侵入種に対する次のような取り組みを進めるように求めています(決議の第18段落):
- 外来種の目録づくり(リスク評価と優先順位付けを含む)
- 優先順位の高いものから対策を確立する
- 外来種の移動と輸送が及ぼす影響の評価
- 侵入種に対応できるように法的・制度的措置の見直し
- 侵入種に関する認識と管理能力の向上,情報と経験の交換などの国際協力
そして,条約事務局はそのような締約国の活動を支援するために,生物多様性条約や他の国際的なプログラムとの協力のもとに,侵入種に関する情報を収集してデータベースシステムを構築したりケーススタディを作成して締約国に提供し,また湿地における侵入種を管理するための手引きを作成することとしています.このために条約の科学技術検討委員会(STRP)に侵入種に関する作業部会が設置されて活動を開始しました(参照:1999年12月の常設委員会にて採択された「科学技術検討委員会1999-2002年作業計画」第5章).
以上のようにこの決議では,ラムサール条約の枠組みの中で,湿地生態系への侵入種に対してどのように対処してゆくことが必要なのか大きな道筋が示されたところと言えるのではないかと思います.この大きな道筋に沿って個々の締約国の活動を進めるとともに,条約全体としてより適切で具体的な対策の指針をこれからつくりあげてゆくことになるでしょう.
わが国における取り組みと課題
環境庁(現環境省)では2000-2001年度の2年間「我が国の移入種問題の全体像を把握し、特に早急に対応する必要がある分野につき、対応の方針を明らかにするとともに、移入種取扱者等一般向けのガイドラインを策定する」ことを目的に,(通称「移入種検討会」;座長:小野勇一九州大学名誉教授)を設置しています.検討会では,次のような作業がすすめられています.
- 移入種の概念を整理。移入種問題に関する国民の意識調査。
- 海外における移入種問題の内容と対策の事例収集。
- 我が国の移入種のリスト、移入種の生息状況、影響の態様等を把握。
- 移入種問題への対応のプライオリティ付け。
- 対策の項目(水際防護、地域限定持込規制、駆除等)、内容、効果、実施の難易等を具体的に検討。
- 移入種問題への、(主に環境庁としての)対応の基本的な方針を検討。
- 一般向け移入種取扱ガイドラインを策定。
一方,国土交通省においても,外来種影響・対策研究会(座長:鷲谷いづみ東大大学院教授)が設置され,(1)河川における外来種の抑制と駆除,(2)河川周辺の緑化工事で外来植物ではなく在来種の活用を骨子とする対策案を同研究会がとりまとめたと報道されました(2001年3月5日付け各紙;京都新聞掲載記事へリンク).
わが国で侵入種の問題を提起されている湿地に生息する生物には次のようなものがあります.それぞれの生物群で取組みが行なわれていますので,それらに関する代表的な資料を示し,活動に関するホームページが見あたるものはそこへのリンクを張りました.また,下記の「移入種問題メーリングリスト」のHPにもリンク集があります.ご参照ください.なお,各生物群に取組んでおられる方にその生物群に関する侵入種問題の概要を寄稿いただくお願いもしていますので,それらが届きましたらこのページからリンクして掲載したいと思います:
- 植物(例:ニセアカシア(ハリエンジュ),ホテイアオイ,オオカナダモ,コカナダモ,オオフサモ,フサジュンサイ)
- 帰化植物による在来の自然への影響−帰化水草を中心に−.角野康郎.1996.関西自然保護機構会報18(2): 115-120.
- 概説依頼中です.
- 軟体動物(例:スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ),カワヒバリガイ)
- 日本における淡水貝類の外来種−問題点と現状把握の必要性−.中井克樹・松田征也.2000.月刊海洋 号外No.20:
57-65.
- 甲殻類(例:ウチダザリガニ)
- 昆虫(例:湿地性のものはとくにない?)
- 魚類(例:オオクチバス,コクチバス,ブルーギル,カダヤシ,タイリクバラタナゴ)
- 現状・問題提起
- 「バス釣りブーム」がもたらすわが国の淡水生態系の危機.中井克樹.1999.In: 森誠一編.淡水生物の保全生態学−復元生態学に向けて−:
154-168.信山社サイテック,東京.
- @nifty 釣りフォーラムのブラックバス問題資料室
- 2001年1月:パネルディスカッション「北海道の淡水魚を守る―外来種が在来種および自然生態系に及ぼす影響」北海道の淡水魚を守る 淡水魚ネット
- 対策・取組みの例
- 爬虫類(例:カミツキガメ,スッポン,セマルハコガメ,ミナミイシガメ,ミシシッピアカミミガメ,グリーンアノール,タイワンスジオ,サキシマハブ,タイワンハブ)
- 両生類(例:ニホンヒキガエル,ミヤコヒキガエル,オオヒキガエル,ウシガエル,シロアゴガエル)
- 鳥類(例:コブハクチョウ,カナダガンの大型亜種)
- 哺乳類(例:ヌートリア,チョウセンイタチ,ニホンイタチ)
またこの問題に関するメーリングリストも開設されているものがあります.参加方法やその内容について詳しくは,案内HPやメーリングリスト主催者へお問合せください.
- 移入種問題メーリングリスト(管理者:草刈秀紀さん)→案内HP
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