100年振りに厚生省は伝染法を改正しました。又予防接種は集団接種から個別接種に変りつつあります。それらを学びます。
まず、100年前の1897年に制定された伝染病予防法の初の抜本的な改正作業を進めている厚生省が100年ぶりに変えた新しい伝染病について学びましょう。隔離を必要とする伝染病から、地球上に姿を消した天然痘や過って隔離政策がとられていたライ病(ハンセン氏病)を外し、新たに新興伝染病を追加しました。
強制隔離 | ペスト、ラッサ熱、*エボラ出血熱、*マールブルグ病、*クリミヤ・コンゴ出血熱、*Bウイルス病 |
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隔離を含む行動制限 | 赤痢(細菌性・アメーバ含む)、腸チフス、パラチフス、コレラ、ジフテリア、ポリオ(急性灰白髄炎)、結核、狂犬病 |
就業制限 | 腸管出血性大腸菌(O-157 を含む) |
法的制限なし(主な疾病) | 麻疹(はしか)、風疹、水痘(水ほうそう)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、百日ぜき、破傷風、インフルエンザ、髄膜炎菌性髄膜炎、湟紅熱(A群溶連菌咽頭炎)、エイズ、**性感染症、A型・B型・C型肝炎 |
次に学校伝染病を見ましょう。
第1類 | コレラ、赤痢(疫痢をふくむ)、腸チフス、パラチフス、<痘瘡>、発疹チフス、湟紅熱、ジフテリヤ、流行性脳脊髄膜炎、ペスト、日本脳炎 |
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第2類 | <インフルエンザ>、百日咳、麻疹、急性灰白髄炎、ウイルス性肝炎、流行性耳下腺炎、風疹、水痘、咽頭結膜炎 |
第3類 | 結核、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎、その他の伝染病 |
出席停止の期間の基準
1)第1類の伝染病に罹った者:伝染病予防法に基づいて措置される期間。
2)第2類の伝染病に罹った者:学校保健法施行規則第20条に定めらている期間。
病名 | 出席停止の期間 |
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(インフルエンザ)
百日咳 麻疹(はしか) 急性灰白髄膜炎 ウイルス性肝炎 流行性耳下腺炎 風疹 水痘(みずぼうそう) 咽頭結膜炎 | 解熱した後2日を経過するまで
特有の咳が消失するまで 解熱した後3日を経過するまで 急性期の主要症状が消退するまで 主要症状が消退するまで 耳下腺の腫脹が消退するまで 発疹が消失するまで すべての発疹が痂皮化するまで 主要症状が消退した2日を経過するまで |
感染症の予防に関して、予防接種が現在までに果たしてきた役割は極めて大きいと言えます。ジェンナーによって始められた種痘は地球上から痘瘡を根絶させ、ポリオ生ワクチンは日本全国から小児麻痺を一掃しました。
「小児麻痺」と呼ばれ、わが国でも30年前までは流行を繰り返していましたが、予防接種の効果で現在は国内でも自然感染は報告されていません。
ポリオウイルスはヒトからヒトへと感染します。感染した人の便中に排泄されたウイルスが口から入り、咽頭又は腸に感染します。感染したウイルスは3〜35日(平均7〜14日)腸の中で増えます。しかしほとんどの例は不顕性感染で終生免疫を獲得します。
不顕性感染 | ウイルスや細菌が感染して身体の中で増えますが、病気としての症状が出ず、知らない間にに免疫だけができるような感染の仕方をいいます。病気になりませんから都合の良い状態ですが、本人にもかかったのか、かからなかったのかわかりません。 |
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ジフテリア菌の飛沫感染でおこります。
飛沫感染 | ウイルスや細菌がせきやくしゃみなどで細かい唾液とともに空気中に飛び出し、空中を飛んで行ってヒトに感染する方式をいいます。 |
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百日せき菌の飛沫感染で起こります。
1956年から百日せきワクチンの接種が始まって以来、患者数は減少してきています、当時は菌体の入ったワクチンでしたが、現在では副作用の少ない新型の精製ワクチンを使っています。
百日せきは普通のかぜのような症状で始まります。続いてせきがひどくなり、顔を真っ赤にして連続性にせき込むようになります。熱は出ません。乳幼児ではせきで呼吸ができず、チアノーゼやけいれんが起きることがあります。肺炎や脳症などの重い合併症をおこします。乳児では命を落とすこともあります。
1970年代後半に予防接種率が低下した際、百日せき患者が多数出て、113人の死者を出しました。このようなことを繰り返さないためにも、ぜひ予防接種を受けましょう。
破傷風菌はヒトからヒトへ感染するのでなく、土の中にひそんでいます。ヒトへの感染経路は傷口です。傷口から菌が入り身体の中で増えますと、菌の出す毒素のために。口が開かなくなったり、けいれんを起こしたり、死亡することもあります。患者の半数は自分では気が付かない程度の軽い傷が原因です。この病気は人にうつるのではなく土の中にいる菌が原因ですが、日本中どこでも菌はいますので、感染する機会はあります。またお母さんが免疫を持っていれば、新生児の破傷風も防げますので、ぜひ予防接種を受けておきましょう。
麻疹ウイルスは飛沫感染によって起こる病気です。伝染力が強く、一生の内に一度は必ずかかる重い病気です。発熱、せき、鼻汁、めやに、発疹を主症状とします。最初3〜4日間は38℃前後の熱で、一時治まり掛けたと思うとまた39〜40℃の高熱と発疹が出てきます。高熱は3〜4日で解熱し、次第に発疹も消失します。しばらく色素沈着が残ります。
主な合併症としては、気管支炎、肺炎、中耳炎、脳炎があります。患者100人中、中耳炎は7〜9人、肺炎は1〜6人に合併します。脳炎は2000〜3000人に1人の割合で発生がみられます。また、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という慢性に経過する脳炎は約10万例に1例発生します。また麻疹にかかった人10000人に1人の割合で死亡します。わが国では現在でも年間約50名の子が麻疹で命を落としています。予防接種では、これらの重い合併症はほとんど見られません。ぜひ予防接種を受けましょう。
風疹ウイルスの飛沫感染によって起こる病気です。潜伏期間は2〜3週間です。
潜伏期間 | ウイルスが身体に感染した後は、体内で少しずつ増殖し、ある日突然症状を出します。感染してから症状が出るまでの期間をいいます。 |
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日本脳炎ウイルスの感染でおこります。ヒトから直接ではなくブタの中で増えたウイルスが蚊(か)によって媒介されます。7〜10日の潜伏期間の後、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどの症状を示す急性脳炎になります。
流行は西日本地域が中心になりますが、ウイルスは北海道など一部を除く日本全体に分布しています。この地域で飼育されているブタでの流行は毎月6月から始まり10月まで続きますが、この間に80%以上のブタが感染しています。好発年齢は60歳を中心とした成人と5歳未満の幼児です。以前には小児、学童に好発していましたが、予防接種の普及で減っているものと思われます。
感染者の内1000〜5000人に1人が脳炎を発症します。脳炎のほか無菌性髄膜炎や夏かぜ様の症状で終わる人もあります。脳炎にかかった時の死亡率は15%ですが、神経の後遺症を残す人が約50%あります、ぜひ予防接種を受けておきましょう。
わが国の結核はかなり減少しましたが、まだ4万人を超える患者が毎年発生しており、大人から子供へ感染することも少なくありません。また結核に対する抵抗力はお母さんからもらうことができませんので、生まれたばかりの赤ちゃんもかかる心配があります。乳幼児は結核に対する抵抗力が弱いので、全身性の結核症にかかったり、結核性髄膜炎になることもあり、重い後遺症を残すことになります。
過去に結核にかかったかどうかは、ツベルクリン皮内反応で検査をし、陰性の時はBCG接種を受けましょう。これで結核性髄膜炎などは80%、肺結核も50%呼ぼうできるのです。
予防接種で使うワクチンには、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドの3種類があります。
免疫のない人に病原性を弱めた病原体を生きたまま接種して軽い感染を起こさせるものです。免疫の強さは強固で自然感染と同様に長続きして終生免疫が期待できます。十分な抗体が獲得されるのに約1カ月必要です。定期接種のワクチンでは、ポリオ、麻疹、風疹、BCGがこれに当たります。
大量に培養された病原体(細菌やウイルスなど)を集めて精製した後、加熱、紫外線照射あるいはホルマリンなどの薬剤で処理して病原体の生活力を失わせしめて不活性化したものです。また、細菌やウイルスの感染に対して感染予防に働く抗原を菌体やウイルス粒子から取り出してラクチンにします。こうすると副作用を軽減できます。しかし、この場合病原体は身体の中で増殖しませんので、何回か接種し、身体に記憶させて免疫を作ります。一定の間隔で数回接種し初回免疫を付けた後、約1年後に追加接種して基礎免疫ができあがります。定期接種のワクチンでは百日せき、日本脳炎がこれに当たります。
→コンポーネント(サブユニット)ワクチン:精製百日せきワクチンやインフルエンザHAワクチン
体内に侵入した菌が増える過程で作られれた毒素による中毒症状を予防するものM毒素産生の強い菌を培養死、菌体を除いて蛋白の一種である毒素(トキシン)を集めて精製し、ホルマリンを加えてワクチンにしたもの、免疫効果を高めるためにアルミニウム塩に吸着させた沈降型トキソイドもあります。基本的には不活化ワクチンと同様ですから、何回かの接種で免疫をつけます。
一般に生ワクチンに比べて不活性化ワクチンやトキソイド型ワクチンは一定期間経つと免疫は低下します。長期間に免疫を保つ場合には、それぞれの性質に合わせて一定の間隔で追加免疫が必要です。
予防接種を受ければ100%その病気にかからないことを原則としていますが、受ける人の体質、その時の体調などによってつかないこともあります。普通健康な人が生ワクチンを受けた場合、96〜98%の方は抗体を獲得できます。
又不活化ワクチンやトキソイドでは基礎免疫を完了すれば98〜99%の方が抗体を獲得します。抗体ができてそのままでは少しずつ減っていきますので、追加免疫を受ける必要があります。これを正しく実行すれば一生涯免疫が続きます。病気でルール通り接種ができなかった時は、免疫のできにくい時もありますから、かかりつけ医や接種する先生に相談してみましょう。
ポリオ(2回) | 3カ月〜1歳半(〜4歳) |
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DPT | 基礎免疫:3カ月〜4歳(〜6歳)・追加免疫11歳〜13歳 |
麻疹 | (1歳〜)1歳半〜3歳(〜6歳) |
風疹 | (12歳〜)14歳〜15歳(〜16歳) |
日本脳炎 | 3カ月〜基礎免疫3回・3歳〜4歳半〜追加免疫・9歳〜10歳〜追加免疫・14歳〜16歳 |
BCG | 3カ月1歳(〜4歳)、6歳半〜8歳半、12歳半〜13歳半 |
母子免疫と接種時期
母子免疫:母親が予防接種かり患した病時によって得た免疫抗体の一部が胎盤を通して子供に移行する(移行抗体)。新生児は移行抗体がある間は病気から守られるが、この移行抗体はだんだん少なくなって、生後6〜10月をすぎる頃になると防御機能がなくなります。また各種の伝染病がなくなった最近では母親が免疫を持たない場合がふえています。その子供は当然免疫は持ちません。結核は母親の免疫が子供に移行しませんので、乳児期からBCGをする必要があります。
生ワクチン接種後1月はワクチンウイルスが身体の中で増殖して軽い病気のような状態になっているので、このような時期は他のワクチンの接種を避けます。また、生ワクチンを1〜2週間隔で続けて接種するとワクチンウイルスが互いに干渉して免疫がつきにくい事があるので1箇月以上あけて接種します。 不活性化ワクチンの副作用は直接作用だから1週間以上経てばその反応はなくなるので、接種後1週間以上経てば他のワクチンの接種ができます。
生ワクチン:ポリオ、麻疹、風疹、BCG
不活化ワクチン:DTP(三種混合・ジフテリヤ、百日せき、破傷風)、日本脳炎
生ワクチン→4週間空ける→生ワクチン
生ワクチン→4週間空ける→不活化ワクチン
不活化ワクチン→1週間空ける→生ワクチン
不活化ワクチン→1週間空ける→不活化ワクチン
予防接種は健康な時に接種を受け、その病原体の感染を予防するものですから、体調の良い時に受けるのが原則です。日頃から保護者の方はお子様の体質、体調など健康状態によく気を配って下さい。そして何か気にかかることがあれば、あらかじめかかりつけの先生や、保健所、市町村担当課にご相談下さい。以下の注意を守って、安全に予防接種が受けられるよう、ご協力下さい。
これに担当すると思われる人は、主治医の医師がある場合には必ず前もって診ていただき、その医師の所で接種してもらうか、あるいは診断書または意見書をもらってから接種に行きましょう。