
ラムサール条約 基調文書
ラムサール条約が必要とするデータと情報のための枠組み
- 日本語訳編集:
- 『ラムサール条約第10回締約国会議の記録』(環境省 2011年)所載の決議Ⅹ.14の和訳を,決議Ⅹ.1の和訳を用いて編集(本文段落4参照).
PDF (85 ㎅ zip) Word (29 ㎅ zip) - 条約事務局原文:
- この指針を所載する『ラムサール条約湿地の賢明な利用ハンドブック』第4版(2010)第14巻「データと情報の必要」のPDFファイル: 英語 (2.4 ㎆) フランス語 (2.5 ㎆) スペイン語 (2.3 ㎆)
ラムサール条約が必要とするデータと情報のための枠組み
[ 前文( 章1・ 2・ 3・ 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3・ 4・ 5)☟]
1)背景
1.良い実践のための助言を含む、確実な根拠のある関連データ・情報を利用できるようにすることは、湿地の賢明な利用とその生態学的特徴の維持を確保するために締約国がなす良い政策決定や義務の履行を支える鍵である。
2.このような関連データ・情報は、湿地そのもののについてのもののみならず湿地に変化を及ぼす要因についてのものも、条約の実施工程に関わったり影響を及ぼす、さまざまに異なる、 地方から地球規模までの、多くの利害関係者にとって必要である。そのような利害関係者には、条約湿地やその他の湿地の保全管理に責任のあるもの、国の政府やその条約担当機関、 地方から全国レベルのその他の行政機関、国のラムサール/湿地委員会、地球規模では条約の常設委員会と科学技術検討委員会(STRP)、条約事務局も含まれる。
3.この手引きの基礎をなす「ラムサール条約が必要とするデータと情報のための枠組み」は、上記のような必要性を認めて開発されたものであり、STRPとその第1作業グループが、UNEP世界自然保護モニタリングセンター(UNEP-WCMC)からの資料を組み入れ、STRP2006−2008 年作業計画の優先課題52に含まれる点への応答として準備した。
4.条約の戦略計画と優先課題を通じた条約実施を明確に支えるために、下に示す枠組みは条約の2009−2015年戦略計画(決議Ⅹ.1)の最終目標と戦略項目に一致した構成になっている。[『ラムサールハンドブック』第4版の原注.決議Ⅹ.14に採択された原文では「従って、第10回締約国会議で採択された戦略計画の最終的な形と内容にあわせて所要の改訂と更新を施す必要がある。」という一文がここに続くが、『ラムサールハンドブック』への収録に当たってそれらの改訂と更新が角括弧 [ ] 囲みに明示して組入れられている。[編注]この和訳文では戦略項目の記述を,その最終的な形になっている決議Ⅹ.1付属書の和訳に,括弧無しでおきかえている.]
5.締約国等へのこのようなデータと情報の必要性を手引きすることに加えて、この枠組みはまたSTRPが現在あるデータと情報や手引きの不足を特定し、その不足を満たすための優先課題を確立することを助けるものになると予想される。
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2)条約のもとに必要なデータと情報の目的
6.データと情報を効率よく効果的に用いることが効力のある条約実施に全てのレベルで欠かせないわけであるが、ここで重要な鍵は、そのようなデータと情報を集める目的が明確に確立され認識されることである。
7.次の8つの広い範疇の「目的」が、さまざまに異なるレベルにおける条約実施を支え評価するためにどのような点でデータと情報が必要になるかを見極めるものとして定められる。
- 変化や進展を測る基準となる知識として
- 遵守と責任が果たされているかを測るため
- 狙いに対する出来栄えを測るため
- 教訓を得るため
- 新たに興った問題を特定するため
- 利益を広めるため、交流・教育・参加・普及啓発(CEPA)のため
- 特定の問題を解決するため
- 条約に登録する湿地を選定するため
8.これら広範な目的分類が、下の枠組みの表において、2009−2015年戦略計画の戦略項目ごとに特定されるデータ・情報の必要性を検討するにあたって、各戦略項目ではどのようなデータと情報が特定されているかを確認する手段として、適用されている。
9.データ・情報のタイプや類別の各々は複数の目的に重なって収集、提供、広報されることがしばしばある。このことは、情報戦略や情報サービスを策定したり実施したりする際に考えに入れなければならない。
[☝ 前文( 章1・ 2| 3・ 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3・ 4・ 5)☟]
3)データと情報の必要性を評価するための指導原則
10.条約が必要とするデータと情報のためのこの枠組みの適用範囲の共通理解が確実になされ、そうしてその実施にあたって確実に共通の取組み方がなされるよう、この枠組みが基づいたデータと情報の必要性評価は以下の指導原則に従って実施された。
- 基礎的なデータと情報として、分析されかつ評価されたデータの形態のものも実施の手引きのような形態のものも含めて、その必要性を評価すること。
- 締約国や条約事務局、STRP、常設委員会、締約国会議を含む全てのレベルで期待されている必要性を漏れなく含めて評価すること。
- 目的や任務に応じて、条約実施過程を導くために必要なデータ・情報に焦点を絞って評価すること。
- 必要性評価において、データ・情報を集めるにあたっては、目的に関連し適するものに焦点を絞ること。役立つかもしれないと類推できる全てのデータ・情報の単なる羅列にならないこと。
- 必要性評価にあたっては、戦略的計画策定や国別報告、効力指標など、条約の全ての活動に対して分野横断的に関わるものとの密接なつながりを認識して扱うこと。
- 必要性評価はデータと情報の既存の生成物や工程を認識して構築されるものであるが、このとき何が必要かという点に根ざし、何が既存であるかという点に引きずられないこと。
11.上記の指導原則ⅵに鑑みると、データ・情報提供の仕組みはすでに存在しているものもある(例えば実施指針)が、開発する必要があるもの或いはさらなる作業を必要とするものもあるであろう。特定された必要性に対する応答の現状を、現時点での不足と今後の優先事項の特定のために見極める必要がある。
[☝ 前文( 章1・ 2・ 3| 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3・ 4・ 5)☟]
4)条約が必要とするデータと情報のための枠組みの策定法
12.条約の任務と決定について(末尾の付表に示すように)いくつかの異なる類別が、1)決議Ⅸ.17への応答として2007年に Dave Pritchard 氏によって条約の常設委員会のためになされた締約国会議の決定の分析や、2)国連環境計画(UNEP)/IUCNの資金による生物多様性関連条約の首尾一貫した実施のための問題別モジュール「tematea」プロジェクト(www.tematea.org)によって特定され用いられたテーマ分け、3)『ラムサールハンドブック』第3版のテーマとトピックを含み、評価検討された結果、締約国等に最も役立つアプローチであると確認できたのは、それによって確認された必要性が直接に条約の2009−2015年戦略計画の戦略項目と主要成果領域に確実に関連させることができるように、同戦略計画に基づいてデータと必要性を評価することであった。
13.このようにして下の枠組みの表は、条約の戦略計画を実施するために必要となるデータと情報のさまざまに異なる類別の全てを認識するための仕組みを提供するものとなった。この枠組みは従って、湿地に関する科学的・技術的な情報とともに、政策や制度的仕組みや採用された手段といった事項に関するデータと情報の必要性も特定するものである。
14.現在のこの枠組みはまた、進行中の作業の第1段階とみなされるべきものであり、STRPがさらに見直す予定のものがいくつもある。また、この枠組みの幾つもの面で同委員会がその2009−2012年の優先作業の一部としてさらに推敲し加える予定であるからである。特に条約湿地の特定と登録のために必要なデータと情報についてはその全般に関してそのような予定になっている。
15.ゆえに下に添付の枠組みに特定され列記されるデータと情報のタイプは包括的というよりも示唆的なものとみなされるべきものである。さらに、締約国をはじめラムサール条約の戦略計画を実施するものは、この枠組みを用いるにあたって、
- 必要に応じて、各条約地域に既存の取組みや掛かり合いの中で、自国の条件や状況に適切に適合させること、ならびに、
- その際には、戦略計画の複数の戦略項目の達成を支えるために必要なデータと情報のタイプが他にもないかどうかを決定し、その結果をSTRPに報告して同委員会がこの枠組みをさらに発展させるにあたってそれを考慮できるようにすること。
16.下の枠組みの表は、戦略計画の戦略項目の各々に対して、国または地方レベルで必要となるデータ・情報と、国際レベルで必要となるものとを分けて示している。
17.下に示される枠組みは、列記されるデータと情報の類別の各々を収集する優先順位を提供しようとするものではない。既存のデータと情報の保持状況の調査に関して、また戦略項目を通じて条約を今後実施するために確立した優先順位に関して検討するのは各締約国の問題である。
18.そのような優先順位を検討する際に条約の2009−2015年戦略計画の戦略項目ごとの主要成果領域について考慮することも考えられる。締約国のこのような考慮を助けるために下の表にはそれら主要成果領域も示してある。
19.表に示された内容の理解を助けるために、つぎに4項目の追加説明を述べる。
- 手引きにかかる情報が示されているところでは、関連する既存の手引き(『ラムサールハンドブック』[第4版])の参照情報が添えられている。ここで『×』と示されているものは、そのような手引きを今後開発する必要があることを表す。
- 『国レベル』と表に分けているデータと情報の必要性は、個々の湿地レベルから全国レベルまでに適用され、条約担当政府機関やその他の政府部門、国内の科学的・技術的専門家、(条約湿地やその他の湿地の)湿地管理者等にとっての必要性も含まれる。
- 『国際レベル』欄のデータと情報の必要性は、地球規模で条約の機関(常設委員会、STRP、CEPA監督委員会、締約国会議等)と条約事務局、ならびに超国家的規模から条約の地域区分の規模、また国境をまたぐ湿地系にとっての必要性をカバーする。
- データと情報のタイプは、それらが開発された空間規模あるいは提供される空間規模にあわせてどちらかのレベル(国レベルか国際レベル)の欄に挙げられている。
20.また、さらなる検討が加えられて、STRPがこの枠組みの推敲を続けることが予定されている。そのようなものとして、表に含められるデータと情報のタイプのさらなる開発(例えば条約湿地に必要とされるデータと情報の追加を通じたもの)や、国または地方規模と国際規模とのあいだのデータ・情報の流れを進めるための手引きの提供、現状で利用可能なデータ・情報についての情報を示す列を表に追加することなどが期待されている。
21.国または地方規模と国際規模における条約にかかる行動をとるもののあいだのデータ・情報の流れに関してSTRPがすでに開発した手引きの一例が、湿地の生態学的特徴の変化を検出し、報告し、対応する手順のための決議Ⅹ.16 [『ラムサールハンドブック』第4版19巻所収] の中に含まれている。この例は、条約の2009−2015年戦略計画では、その戦略2.4「条約湿地の生態学的特徴」と2.6「条約湿地の現状」に対応する。
[☝ 前文( 章1・ 2・ 3・ 4)| 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3・ 4・ 5)☟]
ラムサール条約が必要とするデータと情報のための枠組み。ラムサール条約 2009−2015年 戦略計画に基づくデータと情報のタイプの示唆的リスト。
- 指針等が必要なデータに挙げられている場合、『ラムサールハンドブック』[第4版(2010年)] の関連する巻号を『HBx』として示し、「ラムサール条約技術報告書 Ramsar Technical Report (RTR)」の関連して役立つ巻号を『RTRx』として示す。必要があると示された指針に対して『(×)』が添えられたものは、ラムサール条約が関連の手引きをまだ採択していないということを示す。
- 『メタデータ』とは一般に『データに関するデータ』と説明される。個別のデータセットの、なかんずく、蓄積年数や、正確さ、内容、規模、信頼度、系譜、著者、管理者などを記述する情報を含め、多くの要素をもつものである。
最終目標1.湿地の賢明な利用.
湿地の保全と賢明な利用が貧困撲滅、気候変動の影響緩和と適応、病気や自然災害の防止に寄与することを確実にしつつ、地方に暮らす先住ならびに非先住の人々の参加を得、伝統的な知識を活用し、全ての締約国が必要かつ適切な手段と措置を策定し採択し用いることによって、全ての湿地の賢明な利用の達成に向けて行動する。
2009−2015年 戦略計画 | 収集され提供される必要のある情報/データ/メタデータの示唆的リスト | ||
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戦略項目 | 2015年までの成果領域 | 国レベル | 国際レベル |
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[提案される地球規模湿地観測システム(Global Wetland Observing System (G-WOS))の展開に従ってSTRPが開発すること] | [提案される地球規模湿地観測システム(G-WOS)の展開に従ってSTRPが開発すること] |
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[開発すること] | [開発すること] |
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[開発すること] | [開発すること] |
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現在の水資源の/にかかる
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[要検討] |
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最終目標2.国際的に重要な湿地.
全ての締約国が条約の「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」を適切に実施することによって、ならびに同戦略的枠組み或いは同等のプロセスの国内での適用を通じて国際的に重要であると認められてはいるがまだ公式に条約湿地に指定されていない湿地の適切な管理と賢明な利用によって、水鳥のフライウェイ[渡りの経路や範囲]や魚類個体群を含む地球規模の生物多様性保全のために重要であり、また人々の暮らしを支えるために重要である湿地の国際的なネットワークを発展させ維持する。
2009−2015年 戦略計画 | 収集され提供される必要のある情報/データ/メタデータの示唆的リスト | ||
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戦略項目 | 2015年までの成果領域 | 国レベル | 国際レベル |
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[開発すること] | [開発すること] |
[☝ 前文( 章1・ 2・ 3・ 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2| 3・ 4・ 5)☟]
最終目標3.最終目標3.国際協力.
特に「ラムサール条約の下での国際協力のためのガイドライン」の積極的な適用を通じ、効果的な国際協力によって湿地の保全と賢明な利用を高める。
2009−2015年 戦略計画 | 収集され提供される必要のある情報/データ/メタデータの示唆的リスト | ||
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戦略項目 | 2015年までの成果領域 | 国レベル | 国際レベル |
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[☝ 前文( 章1・ 2・ 3・ 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3| 4・ 5)☟]
最終目標4.制度的能力・効果.
条約が、必要な実施機構や資金、能力を確保することによって、その使命を果たすよう前進する。
2009−2015年 戦略計画 | 収集され提供される必要のある情報/データ/メタデータの示唆的リスト | ||
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戦略項目 | 2015年までの成果領域 | 国レベル | 国際レベル |
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[☝ 前文( 章1・ 2・ 3・ 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3・ 4| 5)☟]
最終目標5.加盟国.
条約への加盟を世界の全ての国に広めること。
2009−2015年 戦略計画 | 収集され提供される必要のある情報/データ/メタデータの示唆的リスト | ||
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戦略項目 | 2015年までの成果領域 | 国レベル | 国際レベル |
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[☝ 前文( 章1・ 2・ 3・ 4)・ 枠組表(戦略計画の最終目標1・ 2・ 3・ 4・ 5) ]
付表
条約の任務の類別のしかた
[編注]☝ この付表の経緯は,この付属書の前文段落12に説明されている.
任務の類別 | |||
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決議Ⅸ.17「締約国会議の決定の再検討」での類別 | 『ラムサールハンドブック』第3版での類別 | 国連環境計画(UNEP)・IUCN問題別モジュール「tematea」での類別 | ラムサール条約 2009−2015年 戦略計画での類別 |
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- [英語原文:
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ラムサール条約事務局,2010.「A Framework for Ramsar data and information needs」In: Ramsar handbooks for the wise use of wetlands, 4th edition, vol. 14. Ramsar Convention Secretariat, Gland, Switzerland. [on-line] http://www.ramsar.org/pdf/lib/hbk4-14.pdf (2.4 mb). pp. 7-30.
[決議Ⅹ.14(2008年)でその付属書に採択され,同決議本文段落7の指示のもとに所要の改訂が施されて『ラムサール条約湿地の賢明な利用ハンドブック』第4版(2010年)第14巻に収録されたもの]] - [和訳・編集:
- 『ラムサール条約第10回締約国会議の記録』(環境省 2011)所載の決議Ⅹ.14付属書の和訳に,決議Ⅹ.1付属書の和訳をもって戦略項目をおきかえて編集,琵琶湖ラムサール研究会,2012年.]
- [レイアウト:
- 条約事務局ウェブサイト所載の標準的な英語ページにおおむね従う.]
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