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湿地のミティゲーションから見た4つの決議文 須川 恒,琵琶湖水鳥研究会 2001年6月
・ラムサール登録湿地の境界変更と湿地生息環境の代償(決議VII.23) |
著者注:この文は『自然環境とミティゲーション』(ソフトサイエンス社近刊)中の「鳥類の生息環境におけるミティゲーション」(須川恒担当執筆)の稿をホームページ用に改稿したものである. |
はじめに 湿地は,ここ半世紀ほどの間に人的改変の影響を大きく受け,絶滅に瀕する湿地にかかわる種も急速に増加している.湿地のこれ以上の破壊を避けるためには新しい環境アセスメントの過程で重視されているミティゲーション(緩和と訳される,事業の回避・影響の低減・代償などをあらわす)の考えが無視できない. |
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1)ラムサール登録湿地の境界変更と湿地生息環境の代償(決議VII.23) ラムサール条約の締約国は少なくとも1ヶ所登録湿地を定め,湿地の保全や賢明な利用を国際的にも情報公開しつつ進めることになっている(日本では釧路湿原・琵琶湖をはじめ2000年現在11ヶ所,計83.725km2が登録湿地となっている). |
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多くの国で湿地が喪失または劣化してきており,先進国を中心に,ここ50年間に70%もの面積の湿地が消失している.効果的な湿地の保護のためのミティゲーションとして,まず影響の回避による湿地の保全,影響の低減化,最後の手段としての代償がある. |
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3)湿地保全と賢明な利用のための国の計画の一要素としての湿地の復元(決議VII.17) 湿地の復元や創造は,喪失または劣化した自然の湿地にかわりうるものではないとはいえ,湿地の保護とともに復元計画を行えば人間と野生生物の双方に大きな利益をもたらす.締約国の国別の報告の中で76の締約国が国内で湿地復元活動をしていると報告したが,国家の湿地政策の一環として行われている国はまだごくわずかである. |
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国単位で包括的な湿地の目録が作成されている必要があるが,そういった目録を作成している国はないか,あったとしても極めて少なく,地球全体の湿地資源の現況を把握することが困難な背景となっている.この決議の趣旨は,特にリスクが高く情報が乏しいとされて見過ごされがちなタイプの湿地について優先的に目録作成を行うべきことを推奨している. |
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貴重な生物の生息地があることがわかっていても,その情報が開発計画者や保全部門の行政機関に充分に伝わらず,開発計画が動きだした時には手遅れになってしまうという例が数多くある.貴重な生息地をあらかじめ公に明らかにすることによって,その生息地にかかわる開発計画を抑制し生息地の保護を進めることが可能となる. a.シギ・チドリ類の渡来地湿地目録 藤前干潟の保護に対して環境庁が示した判断を理解するうえでは,新しい環境影響評価法の手続きの中で,環境庁の関わりが大きくなったことに加え,環境庁が1997年に作成したシギ・チドリ類の湿地目録(環境庁(1997)「シギ・チドリ類渡来湿地目録」環境庁自然保護局野生生物課)が,藤前干潟の重要性を示す上で大きな役割を果たした点にも注目すべきである.この目録では,シギ・チドリ類の渡来数から見て国際的および国内的に重要と判断される干潟(または他の湿地)が把握されている.重要性の判断には,前述したラムサール条約の水鳥の個体数による基準が使われているが,春秋の渡り期に中継地として干潟を利用するシギ・チドリ類の場合は,最大確認数の4倍は渡来しているものと推定して,総数5,000羽以上,個体群の0.25%以上の個体数が確認された種が存在する場合は国際的に重要な湿地と判断している. |
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b.雁類の渡来地目録 戦前には全国に渡来していたマガンやヒシクイなどの雁類は,過剰な狩猟や湿地の開発のために九州や四国から,さらに太平洋ベルト地帯から姿を消し,現在では山陰,北陸,東北地方と近畿地方・関東地方の極一部でのみ越冬するようになっている.1971年にマガンとヒシクイは天然記念物として狩猟対象からはずれ,個体数そのものはかなり回復したとはいえ,一端失われた渡来地はほとんど復活していない現状である.
この目録を見ると,ガン類が,国内に残された質の高い湿地を探りあてて,渡りの際の中継地や越冬地として利用している状況が理解できる.同時に,ガン類の渡来地となっている湿地が,実に様々な保護上の問題を抱えていることがわかる. 雁を保護する会は,この渡来地目録を各渡来地に関わる諸機関や諸団体に配布し,渡来地保護についての理解を求めた.その結果,それまで多かった雁類の渡来地となっている湖沼を助成金を獲得して開発するなどの計画がかなり抑制され,また小規模な改変が行われる場合も,事前に保護策を積極的に検討する例が増加した. つまり渡来地目録はさまざまな立場の機関や団体が渡来地の保護に向けて「触媒的な役割」を果たす情報集と言える.また単なる開発抑制だけではなく,このような資料を踏まえて,各地の情報交換も熱心に行われ,エコツーリズムや地域振興の核としてそれらの湿地の価値を地域的に活用する方向へと向かっている例も出ている(注2). 1999年5月より東アジアのラムサール条約締約国が中心となって,東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワークのプログラムが始まり,国内でも多くの雁類の渡来地を含む14ヶ所の生息地が加入した.これらの生息地では,地域レベルの活動を世界レベルへつなげる枠組みの中で活動が進んでいる(参照:同重要生息地ネットワークのホームページ). なお第1版の雁類渡来地目録から5年以上がたち,各地の渡来地の状況や保護活動の進展に関する情報が増加したため,インターネットによる公開を前提とした第2版作成作業が雁を保護する会によって進行中である. c.ツバメの集団塒地の目録 人家の軒先で営巣していることで人々に親しまれているツバメは,営巣終了後秋の渡りを開始するまでの間,夕方になると半径10〜20kmもの範囲から特定の場所に集まり,集団で夜を過ごす集団塒(ねぐら)の習性を持っている.その塒地(じち)としては,平地内で最も規模の大きいヨシ原が選択されることが多い.ツバメの集団塒地に利用されるヨシ原は多くの種類の鳥類が繁殖地や越冬地,渡り期の中継地として利用し,また湿地性の希少植物の生育地であることが確認される場合が多い.つまりツバメの集団塒地を通して,地域の人々は身近にある貴重な湿地の存在を知ることができる.
このような目録を作成して検討することによって,ヨシ原を創生したり面積を拡大する必要性がある地域が判明してくる.半径10〜20kmもの広い範囲の中に塒地が形成できるヨシ原をただ1ヶ所確保することは,それほど社会的にも困難とは考えられない. 近畿地方に関するツバメの集団塒地の詳細は,以下を参照されたい,須川恒(1999)ツバメの集団塒地となるヨシ原の重要性,関西自然保護機構会報,No.21:187-200. 近畿地方では,長年かかってやっとツバメの塒地の分布が把握できた.他の地方では,多くの塒地となっているヨシ原がその価値を知られないまま消滅していると思われる.集団塒地塒地の分布は,単年度の全国的なアンケート調査では把握することは困難で,地方単位に継続的に情報を集める人々が出現し,全国的にその情報や経験を交流する機会ができることを望んでいる. d.琵琶湖のヨシ群落と営巣種 琵琶湖湖岸は過去の様々な開発の結果,孤島状にヨシ群落が残っており,これらの群落は滋賀県のヨシ群落保全条例によって保全される対象になっており厳重に保護すべき区域の設定や植栽による復元などが進められている.このヨシ群落の規模が大きいと営巣する水鳥等の種類も増加する.規模の比較的小さい群落でもカイツブリとオオヨシキリが営巣しており,中規模(概ね1ha以上)になるとオオバンやカルガモが,さらに大規模(概ね8ha以上)になるとカンムリカイツブリやサンカノゴイが営巣している. |
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