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かわら版

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かわら版
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かわら版 2003.Nov

 自分だけは大丈夫?

 クライミングも長くやっていると、いろんなことに出会う。それは、とても愉快で楽しいことの方が多いのだけど、時として不幸で痛ましい事故にも出会ったりする。

 それでも、自分達はクライミングをやってるんだからある程度のリスクは受け止めねば、と言い聞かす。そしてネタ話しや笑い話にして不安をごまかす。

 でもそれだけでは、事は治まっていないのが現実のようだ。

あるエリアでの消防署員達の遭難救助訓練の様子

 秋空が広がるある晴れた平日の事だった。私たちは気心の知れたメンバーとクライミングに出向いた。平日ということもあってエリアにはだれもいないはず。貸し切り状態の中、思う存分クライミングを楽しめると意気揚々の私たちだった。

 アプローチも終わり岩場につくと、そこにはいないはずの先客が二人いた。格好から地元の消防署員だとすぐに判った。「訓練ですか?」と挨拶がてら言葉を交す。訓練だとロープを張り巡らされて少々厄介だな、とちょっと気分が曇った。でも、その返答は「いや、岩場周辺の調査です。」とおっしゃる。「調査?」と思いつつ、登っても支障がないとの事だったので、我々はクライミングの準備をしアップをはじめた。するとまもなくエリアのあちこちから(まさに上下左右より)幾人もの消防署員が、薮と汗にまみれて集まってくるではないか。なんとなく変な雰囲気が漂った頃、リーダーとおぼしき署員の方が、私に話し掛けてきた。「ここで宙吊りになることはありますか?」

 はじめ質問の意味が読み取れなかった私だが、話すうちそれも理解し彼等に説明も加えることができた。
 それは、先日このエリアで事故があったこと。その内容は、グランドフォールして足を骨折、当初搬出を試みるが、結局ヘリを呼んで搬送したという。幸い大事には至らず、これはこれで解決しているという。
 しかし、その後このことが署内の会議で取り上げられ、もしクライマーが負傷し宙吊りになったりしたら、我々は消防としてそれを救助できるのか?ということが問題になり、そうしたことを含めて周囲の地形やアプローチ、岩場上部に支点の設置が可能か、などの調査を行うために今回来ているのだという説明を受けた。

 私は、ここはフリークライミングのエリアとして存在し、アルパインのように宙吊り状態で行動不能になるようなことは、ほとんど考えられないと説明。クライミングについて簡単な解説を行い、我々は日常的に墜落しており、重大事故の大部分は岩等の自然崩落によるものか、クライマー自信のシステムミスによるものだということも付け加えた。
 それを聞いて消防の方々は私の話しに理解を示してくださり、それでは万一の場合に備えての搬出を想定して調査と訓練を行う、と言われしばらくしてこの場を去られた。(上記写真)

クライミング帰りに遭った車上狙いでの、警察による捜査の様子

 このことがあった少し前にも私はクライミングに出かけた時、不運にも車上狙いに遭い、車のガラスを割られた。仲間の車は、金品も取られ被害届を警察に出した。(上記写真)

 この一ヶ月の間に警察と消防の双方と関わりをもち、またお世話にもなった。私は今までクライミングを自分の責任で楽しんでいる、と信じ生意気にも自負してきた。でも、こうしたことに触れたり関わりを持った事で、気持ちの中にこれまでとは違う変化を感じた。
 我々は所詮小さな個人であり、直接的であり間接的であり、いずれにせよこうした公共の官庁や多くの方々のお世話になりながら生活しているんだと言うこと。さらに、我々はクライミングと言うきわめてリスクの高い活動を、何の後ろ楯もなくやっているんだと言う自覚。そこにはおのずと、必要最低限守らなければならない責任とモラルが有るんだと言う認識。

 当たり前と言えばそうだが、狭いクライミング界にばかりいると、そうしたことも見えなくなっていたのも事実。

 普段交通取締なんかで逆恨みしている警察も、こちらが被害者になればこれほど頼りになる力強い味方はいないし、瀕死の重症を負った自分を想像した時、無料でヘリを飛ばしてまで助けようとしてくれるのは、やっぱり消防の救助の方々に違いない。

 後に聞いた話しであるが、例のグランドフォールの事故原因は、ロープの結び忘れによる終了点からの墜落だったようだ。
 みなさん笑う事なかれ、あのリン・ヒルもやったし何を隠そう、私も結び忘れて墜落した恐ろしい経験が過去にある。

 自分は絶対そんな事はしない、なんて事は絶対思わない事だ。

 不馴れな岩場で、薮と汗まみれになって対応しようとしてくれているあの日の消防の方々に報いるためにも、私たちは今一度自分のクライミングを再チェックする必要があるようだ。