魏忠賢は東廠を牛耳り、批判者を証拠なく犯罪者に仕立て上げて粛清していた。
__このままではまともな廷臣がいなくなってしまう…。
楊漣は彼の横暴を憎み、批判が頂点に高まった段階で彼を24の大罪で告発した。
高皇帝(太祖朱元璋)は宦官が政治に介入する事を決して許さないと仰った。ただ身の回りの世話をするのみ、と。
にも関わらず陛下を憚る事なく欲しいままにし、朝廷を乱す者あり。
それは東廠太監魏忠賢である。あえてその罪状を述べたいと思う。
忠賢は元々やくざの類であり、困窮しすがる様にして宦官となった。
初めは忠臣を装い、やがて特別の待遇を受けるとその本性を現し、国政を乱し始めた。
偽りの詔で大臣を責め、勝手に決済を行って権力を欲しいままにしている。第一の大罪である。
陛下が任命なされた大臣を嫌って解任しようとした。第二の大罪である。
先帝(泰昌帝)は天を敬い、恨みを表に出さなかった。
先帝に代わって孫慎行らが義憤したが、それが都合の悪い魏忠賢はそれらをことごとく追放した。
陛下の周りから忠臣を退け、奸臣を近づける。第三の大罪である。
王紀は警察長官として断固として臨み、鐘羽正は裁判官として公平な裁きを行った。
にも関わらず、忠賢の一派は彼等清流の士を追放してしまった。
きっと建国の忠臣がいればこの様なことを受け入れまい。第四の大罪である。
忠賢が一手に握るのを孫慎行を中心に彼の横暴を阻もうとした。彼は他者を装い慎行を牢に繋いだ。
彼が欲しいのは意のままになる宰相か?第五の大罪である。
廷推は大切な権利である。皆が重ねて推薦した人物を一時もその地位に留めようとしない。
人事を勝手に弄び、勝手に異動させる。第六の大罪である。
聖政初維、朝廷を立派な廷臣が固めたがやがて魏忠賢にたてつく様になると、官位を落とし退けられた。
陛下から恩典が与えられても、忠賢がそれを阻んだ。
市井では陛下の怒りを解くのは簡単だが、忠賢の怒りをおさめるのは難しいといわれている。第七の大罪である。
宮中のある女性の話を伝え聞いた。彼女は淑やかで賢い女性であり、陛下の寵愛を受けていた。
忠賢は彼女から陛下に己の傲慢ぶりが漏れる事を恐れて、急病にかこつけて死地に追いやった。
陛下は女性に貴幸を与えることもできない。第八の大罪である。
陛下は封じる事も出来ない。裕妃をより上位に封じようとし内外はそれを祝った。
が、忠賢は彼女を嫌っており、偽りの勅命をもって自殺させた。陛下は妃を保つ事も出来ない。第九の大罪である。
中宮に男児生まれるの慶祝あり。しかし生まれて間もなく亡くなってしまった。
伝え聞くところによると忠賢と奉聖夫人(客氏)が謀殺したといわれている。
陛下はお子を保つことも出来ない第十の大罪である。
先帝が皇太子となって四十年。先帝を一人で常に守っていたのが王安である。
王安は報われる事がなかったかもしれないが、それを恨むことはなかった。
そんな人物を忠賢は個人的感情で恨み、南苑にて殺してしまった。
王安ですら殺せるのだから、ましてその下の宦官など容易に殺せたであろう。
その数千百とも知れず。第十一の大罪である。
今日は賞を与えよ、明日は祠を建てよ。「あれくれ」、「これくれ」と天子の詔はしばしば下卑で品がない。
そういう(偽りの)詔が出るたびに家が壊され牌坊が建てられ、身分を考えない御陵を真似た墓が作られるのである。
第十ニの大罪である。
今日は中書に任ず、明日は親衛隊に任ず。気がつけば周りは乳臭いガキばかりだ。(偽りの)詔は常識に欠ける。
身内の魏良弼、魏良材、魏良卿、魏希孔および甥の傳應星らに度を越した恩典を与えている。第十三の大罪である。
よりもよって皇帝の外戚にまで首枷を与えることを命じ、皇后陛下を萎縮させようと、お父上まで欺き貶めようとする。
第十四の大罪である。
章士塊が忠賢の謀略を批判した際、鉱山の開発にかこつけて殺してしまった。
仮に御陵の土を盗んだとして、それはそれはどこか?
趙高(秦で専横を働いた宦官)は鹿を馬となしたが、忠賢は墨を鉱山となす。第十五の大罪である。
王思敬を捕らえ、穴の中に閉じ込め、ほしいままに鞭打った。第十六の大罪である。
給事中周士樸が糾弾したせいで忠賢は昇進出来なかった。
ゆえに吏部には人物を調べて除く事をさせず、言官に批判させない様にした。第十七の大罪である。
北鎮撫劉僑は人殺しや他者に媚びる者を許さない人物であった。忠賢は彼を無理やり罪に落とし追放した。
明の法律は守らなくても良いが、忠賢の法律は従わねばならない。第十八の大罪である。
給事中魏大中がその任に従うと、たちまちそれを責める旨が下った。大中は真意を伺うべく上奏し、
内閣は議論し、そして再び品のない詔が下る。意見を弄び、詔は朝と夕で違うことを言いかき乱す。第十九の大罪である。
本来、東廠は奸人を捕らえるために作られた。魏忠賢はこれを受けてから自らのために用い、
他者を貶めるために利用している。傳應星、陳居恭ら穴を掘ってそこへ投げ入れている。第ニ十の大罪である。
辺境の厳戒は未だ解かれず、内外が警戒を強めているのに東廠は何をしているのか?
韓宗功なる間者が潜入したが彼は魏忠賢の邸宅にいた。それが露見すると去った。
仮に天が災いを悔いることなく、宗功の目論見が成功していれば、九廟の生霊はどこに安置すれば良いのだろう?
第ニ十一の大罪である。
祖制では内廷は兵を蓄えてはならない事になっている。忠賢は内兵を初めて創る。よこしまな人間を匿い、
それに紛れて敵国の間者が内情を伺うべくその中に潜入している。第ニ十ニの大罪である。
忠賢がタク州に出かけた際、先払いが人を静め、道を清めた。まるで行幸の様である。帰りはさらに豪華な車に改め、
車中では謀略を張り巡らす。彼はこの時、自分をどのような者と見ていたのか?第ニ十三の大罪である。
寵愛を受け驕りは極まった。恩は怨となる。この春、忠賢はあろう事か御前を馬で走った。
陛下はその馬を射殺し、それによって忠賢が死罪になるのを大目にみた。
忠賢自ら罪に伏することなし。進んでは傲慢が表に出て、退いては怨み言をいう。
乱臣賊子の類が寄って来て、わがままは収拾がつかなくなった。いかにして虎と野牛を共に養えようか!
忠賢をずたずたに切り、はりつけにしても足りない。第ニ十四の大罪である。
人の道に背いているのは誰の目にも明らかである。しかし内廷は災いを恐れ、敢えて言おうとしない。
外廷は黙ってしまい、敢えて奏上する者はいない。ひそかに悪行が漏れたとしても、奉聖夫人が取り繕ってしまう。
恥知らずの連中、枝葉の如く付き従い、その門戸を頼り、互いに示し合わせて表裏を変える。
脅して威を積むこと、奥御殿で忠賢は知っていても、陛下が知らない事がある。
都城内で忠賢が知っていても、陛下が知らない事がある。
前日、忠賢がタク州に赴くと一切の政務が停滞し、彼が帰ってようやく詔が発せられる。
陛下のご尊顔を拝しようともなかなか適わずここに至る。
陛下の神威に忠賢を尊ぶことを加えるのか、そうでないのか?
陛下はもうしっかりした年頃で、加えて生殺与奪の権利を持っている。どうして自ら親政することができないだろうか?
そうすれば内外、大小問わず人々が恐れびくびくすることは無いのではないか?
伏して乞う。大権を振るわれん事を。
文武の功臣を集め、刑部に厳しく追及する事を命じ、以って国法を正される事を。
および、奉聖夫人を追放する事で憂いが消える。
臣はこれで死んだとしても、決して永遠に朽ちる事は無い。
(その3へ続く)