budapest



古都ブダペストへは、ウィーンから列車で約3時間。早朝に特急「レハール号」でウィーン南駅
を出発し、午前中にはブダペストのデリ駅に到着。周囲に英語の看板はほとんどなく、どちら
かと言えばキリル文字の案内のほうが目立っていて、さすがについ数年前までは共産圏の
東欧だったんだという事を、まざまざと実感。駅前の雰囲気も行き交う人々の表情も、どこか
埃っぽくてあか抜けてなくて、今まで訪問した西欧諸国の都市とは、完全に違う!単に非都会
的であるというのとも、全く違う。事実、ブダペストは東欧諸国の中ではもっとも美しい都会で
あると言われている。なにが違うかと言うと、人々の表情が笑っていないのである。ヨーロッパ
最古と言われる地下鉄に乗っても、市電に乗っても、単に黙っている、と言うだけじゃなくて、
どこか表情に抑圧されたような暗さが感じられるのである。無表情でしゃべらないと言うだけ
なら、ウィーンでも他の都市でも、充分それには慣れているのだから。かと言って当地の人々
がみな無愛想だとか、そういう事を言ってるのではなくて、知り合うきっかけがあればきっと
フレンドリーさが判るとは思うのだが、何というか、不必要にヘラヘラとしていない、という感じ。
それに加えてこのキリル文字(現地語は別として)の氾濫、加えて英語が全く通じないと来る
から、この「どうしたらいいのっ!」って刺激感は、久々に味わう実に爽快なものであった。
せめて晴れいてお日様が照っていてくれれば、少なくとも東西南北くらいはわかって、手元の
地図とつき合わせる事くらいは出来たんだけれど、あいにくとお天気はうす曇り。ようやく1台
のタクシーを捕まえてブダ地区の王宮の丘のマーチャーシー教会に到着。市街を展望できる
漁夫の砦からの景色をみたり、王宮のあたりまで散歩したりで、この美しいエリアを楽しむ。

お昼はドナウ川をわたってペスト地区のレストラン「グンデル」で、おいしいハンガリー料理を
楽しむ。ご当地名物のパプリカチキン、グラーシュ、ロールキャベツがおいしかった。地元では
高級レストランの部類になるが、通貨の差のため驚くほど手軽な価格で雰囲気の良い店で
食事ができた。

食後は徒歩や地下鉄でペスト地区を散策。日帰りであまりゆっくりも出来ないので、雰囲気が
良くて駅にも近いブダ地区へ早めに戻ってゆっくりと散策。一面の石畳がロマンティックで
味わい深い情緒を醸す。日の暮れる頃、マーチャーシ教会に入って、その静謐さにしばし、時を
忘れる。オフシーズンで観光客もほとんどなく、おばあさんがちらほらとお祈りを捧げに来ている
程度。外見はウィーンのシュテファン大聖堂と似てはいるけれども、内部の色使いはより民俗的。
アジアの果てであることが認識できる色使いである。蝋燭のゆれる炎だけが内部をうっすらと
照らし、暗くひんやりとした教会内は、老婆たちがうごめく時の衣擦れの音だけが時折聞こえる
程度で、完全に静寂が支配している。これはもう、静寂というひとつのシンフォニーである!
思うに、クラシックの原点というのは、この静謐さなのだと感じる。

たっぷりシンフォニー一曲分の時間をここで過ごし、教会を出た頃にはあたりはすっかりと夜景
に変わっていた。古い建物を照らす暖色の照明が雨に濡れた石畳のペイブメントに反射し、立ち
去り難い旅情を際だたせた。

残念ながら日帰り、その日の夜遅くにはウィーンのインペリアルに戻っていた。


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