firenze


下段は左右ともテアトロ・ヴェルディ


ルネッサンスの都、フィレンツェ。中世の宗教至上主義の抑鬱から解き放たれ、人間
本来の喜びを取り戻したかのような、活き活きとした潤いのある芸術に溢れた街。
ミケランジェロの数々の彫刻など、メディチ家の財によって育まれたルネッサンス芸術
の街には、オペラの本場イタリアのファンもうならせるフィレンツェ5月音楽祭がある。
初夏の花の都で繰り広げられるドニゼッティやベッリーニ、ヴェルディやプッチーニなど
のオペラの火の出るような熱演には定評がある。

5月音楽祭の本拠地はテアトロ・コムナーレだが、滞在中に鑑賞の機会がなく、代わり
に市中心部にあるテアトロ・ヴェルディでトスカーナ交響楽団の演奏でロッシーニの序曲
とベートーヴェン1番を聴く。指揮はジェルメッティ。イタリアオペラの本拠地でロッシーニ
の活き活きとした序曲(セヴィリアの理髪師)を聴けたのは幸いであった。出来ればオペラ
が観たかったが。劇場は結構古くて、スカラ座などの予算のある一流劇場と比べると
色あせかけた緞帳などに、ややほころびが目につくが、歴史のある劇場が市民の身近に
ごくあたりまえに存在しているといった風情は、うらやましいものがある。

フィレンツェといえば、美術館や観光地の要所要所は日本人や韓国人の観光客で溢れ
ているが、あまり知られていないこの古い劇場まで音楽を聴きに来るモノズキはさすが
に他になく、アジア人は私ひとりであった。溌剌とした演奏が終わって劇場をあとにする
とき、10人くらいのアメリカ人の高校生らしい若者たちが「ヨカッタヨナー!」などと言いあい
ながら、感激醒めやらず、といった感じで、たった今聴いてきた旋律を鼻歌でうたいながら
軽やかな足どりで通りすぎて行った。こういう気軽さでオペラやクラシックが楽しめる若い
人たちが、日本でももっと増えればと思った。


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