praha


ルドルフィヌム(芸術家の家/ドボルジャークホール)
ファサード(上)
ホール内部(右)

外国の都市というと、ニューヨークとかロンドンやパリなどの大都市しか眼中にない
人からすると、ここで採り上げているウィーンとかベルリンなどは、中欧の退屈な地方
都市にすぎないかもしれません。ここプラハも、この10数年ほど前まではまだソ連の
影響色の強い、東欧共産圏への入口ともいうべき小都市でありました。

小学生の時に大阪万国博覧会のガイドで見た、「チェコ・スロバキア」という見知らぬ
国名のエキゾチックな響きに、一体どんな国なんだろうと言う素朴な興味を抱いたり、
アクション映画を観て「チェコ製の拳銃」なんてセリフが出てくると、妙に、うーん、これ
はきっと小国ながらおそろしく強い国に違いない、などと勝手気ままに想像したりして
いましたが、ビロード革命後はじめて訪れたプラハは、ウィーンを中欧の京都とすれば
言って見ればその小京都といった風情の、大変美しい街でした。

ボヘミアの一都市ということで、どんなエキゾチックなところだろうと思っていたけれど、
ビロード革命の舞台となったヴァーツラフ広場周辺にはすでに西側資本によると思わ
れる立派なホテルや高級ブティックやレストランが建ち並び、行き交う市民も思いの外
(と言っては失礼ですが)お洒落で表情も明るい。その前の年に訪れたブダペストには、
もう少し陰鬱な風情が残っていたのですが。

高いゴシックの双塔が美しいティーン教会と時計台の旧市庁舎が目印のヤン・フス広場
は観光風致地区で、観光の中心地となっています。広場周辺の古い民家の外壁も明るい
色に修復されて、中世の広場らしい表情をいまに伝えています。第二次大戦で大きな
爆撃を免れたプラハには、ドレスデンなどに比べるとこうした古い美しい建物が良い状態
で保存されているのだと聞きます。また、この広場に連なるパリスカ(パリ通り)には
1900年代初頭に建築されたアール・ヌーボー(ユーゲント・シュティール)様式の建物
が数多く見かけられ、その奇抜さと美しさの奇妙な融合に思わず観入ってしまいます。
建築というものは、いつごろから今のように味も素っ気もない、ただの機能的なハコに
なってしまったのでしょうか。

さて、この街には、ウィーンの国立歌劇場によく似た外観の国民劇場の他に国立歌劇場、
毎年プラハの春音楽祭が行われるので有名な、美しいガラス製の円形天井が印象的な
市民会館のスメタナ・ホール、ドボルジャークゆかりのルドルフィヌム(芸術家の家:ドボル
ジャークホール)、モーツァルトゆかりの貴族劇場(スタヴォフスケー・ディヴァドロ)などの
劇場、コンサート・ホールがあります。

芸術家の家と呼ばれるドヴォルジャークホールは、ヴルタヴァ河畔、有名なカレル橋の
一本北側のマネス橋の右岸に均整のとれた美しいベージュのファサードを呈しています。
大ホールはほぼ正方形に近いシューボックスで、美しい装飾の施された高い円形天井は、
18本の立派なコリント式柱で支えられている。二階席の一部は、この柱のためにステージ
全体が見えないかもしれません。

ここでは、ブロムシュテット指揮でバンベルク交響楽団で、幸運にもザビーネ・マイヤーとの
ニールセンのクラリネット協奏曲、それにヒンデミットの画家マチス(これがまた印象的で
あった!というのも、この街には旧いユダヤ教会のシナゴーグや、ユダヤ人墓地などがあり、
ユダヤ人であったヒンデミットを聴くにぴったりの場所だと感じたからです)、ベートーヴェン
5番という充実した演奏が聴けました。ブロムシュテットらしい端正な指揮ぶりとザビーネ・
マイヤーの恐ろしい技巧で、演奏は圧倒的なものでした。ただ、前から6列目くらいの中央
の良い席で聴いていたのですが、ホールの音響的には、やや中低域にモコモコとくすぶった
ように響く印象を受け、やはりウィーン、ベルリン、アムステルダムの3大ホールの美音と
くらべると、一歩譲る印象がありました。ただ、二階席の音がどうだったかはわかりません。
内装の美しさは特筆に値するものでした。

スメタナ・ホールは残念ながら改装中。スタヴォフスケー劇場では、グラーツからのアンサン
ブルでウェーバーの「魔弾の射手」を見れましたが、これはもう、学芸会なみの聴くに堪えない
ひどい演奏で、地獄のような1幕が終わるや、飛ぶように逃げかえりました。ヨーロッパ人と
いえども、だれもが立派に演奏できるもんじゃないって事を、納得しました(笑)。 ブルーの
色調に統一された内装は大変美しく、一見の価値があります。映画「アマデウス」でも、ここで
サリエリが演奏するシーンにロケで使用されています。

ほかに、市内を流れるヴルタヴァ川やカレル橋、プラハ城、ヴィシェフラード城跡などは、
「モルダウ」の民族的な響きを彷彿とさせます。

モーツァルトゆかりのスタヴォフスケー
劇場。ブルーの色調に統一された内部
の装飾が美しい。近年改装されたとはいえ、ギシギシと軋む桟敷席の床音が古さを感じさせる。また、小ぶりな建物のため電源供給かバックステージの機能に代わるトラックが舞台裏の敷地外に停められて
いたのが印象的。





ルドルフィヌムよりプラハ城を望む うっすらと雪に覆われたヤン・フス広場

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