日々、在りしことども



梅香月三十日
雪が吹雪いている。ひょっとしたら、明日の朝には積もっているかもしれない。三寒四温とはいうが、本年は荒れすぎだ。
無性に米が食べたくなったので、夕飯直後に握り飯を作る。栄養素が何か足りていないのかもしれない。
梅香月二十六日
気が付けば、隣畑の早咲きの桜が今年も花を開き、庭では綻びだす紅梅、白木蓮が小さな爪となって枝に立ち、地には昔からの場所にまた水仙が白、黄色。

寒い日が続いているような気もしていたが、既に春か。
梅香月二十五日
旨い酒に出会った。

昔、実に口に合う日本酒の新酒にのめり込んだ。それからは惹かれるまま、学生の身でありながら毎晩のように店へと通いつめ、最後にはそのスタンディング・バーで一升瓶を購入して帰るという荒技を成すこととなった。
今となっては良い思い出である。
ただ、完全予約制の朝絞りという、繊細な新酒だったためか、翌年からは同じ酒を飲んでもそうのめり込むことは無く、ただ『日本酒にも当たり年があるんだなぁ』と自分を慰めたものだ。

その風味をふと思い出す、『当たり』の酒に出会った。
北島酒造の『純米吟醸 中取り 無濾過生原酒』。
微炭酸が舌を刺激し、日本酒というよりはジュースを思わせる新鮮な風味。その奥に、自分で仕込んだドブロクの上澄みをさらに上品にしたような、そんな影を薄っすらと感じる。
実に、よろしい。

なお、北島酒造は滋賀の酒蔵の一つで、味は非常に高く安定している。 白い袋に入った『しぼったそのまま一番酒』や黒い一升瓶に金の稲穂が垂れる『近江米のしずく』が 有名であり、酒屋どころか、コンビニやスーパーでさえ無頓着に見掛ける。 しかし、中身は昔から確かに良いものばかりなのだ。

とりあえず、是非にと皆様にお勧めする日本酒である。

追記:『中取り 無濾過生原酒』って、『もやしもん』に出てきたアレか?
梅香月二十四日
『世界の中心、針山さん』読。
高評価。何故か今一つ合わない作家だが、私の個人的嗜好と内容の良し悪しはまた違う。
あの魔法少女の、ネタ風に見えて真正面からの感動ものに仕上がっているところなど見事の一言に尽きる。
ただ――

『俺の魔法のステッキ』

……寝かし続けているネタと被っちまった……
梅香月二十三日
このところすっかり日が長くなった。まだ冬の感覚が抜けていない自分は、紫外線の摂取量が足りていないのかもしれない。
花粉症に苦しまぬ日々に感謝のこの頃。持病が癒えるとはこういった感じか。
改めて昨年の生物兵器環境を思い出し、国の林業政策関係者に憎悪の心の刃を向ける。
梅香月二十二日
『狼と香辛料』読了。
良質のファンタジー。こういう、手にしてホッとできる作品に巡り会えることを、幸せという。
表紙がまた素晴らしい。すくっと立つヒロインに合わせ、配置された題字や著者名。表紙買いの言葉通りなイラストに出会うことはあっても、題字まで含めて魅了されることは普通ない。鑑賞という意味では文字は邪魔な存在だが、これはむしろ逆。文字まで含めてこそ。
正直、額縁に入れて飾りたいと思う。

なお、内容評価関係では、ストーカーには至らぬものの、次もまずこの筆者の本は手に取ると思う。
続編では無い方が良い。一冊で完結するこういった話を、次から次へと何冊も書いてくれれば――至福。
梅香月二十一日
ここしばらくずっと本を読まなかった反動か、積み上げていたものを先日辺りから崩している。
と、いっても漫画やライトノベルが主ではあるが、客観的に顧みて本など読まぬのが世間の普通であり、 更に世界レベルで見ればこの国は特に異常な書籍氾濫大国であって――その、なんだ――
日本、万歳?

特に印象に残ったものをつらつらと書き出す。
『夏目友人帳』
『あかく咲く声』緑川ゆき氏の少女漫画。独特の感性の物語運び、時として芸術的なものを感じる『絵』。――少女漫画には時々こういった「違う凄いもの」がある。
普段、読まぬし解らぬのに、書店でどうしてもこちらの棚にも足を運び目をやってしまうのは、氏を初めとした 良い作品が、現在も泉の如くこんこんと確かにそこに湧き出していることを、知ってしまっているからなのだろう。

『逆襲の魔王』
賞を取るのはこういう作品なのだと、思わず頷ける作品。
とにかく無駄が無い。足りないというよりは、余計な装飾をぎりぎりまで削り落とした競争機械。
テンポ良く跳ねるように話は進み、それでいて大筋がしっかりしているため、世界の歪さに足を取られ躓くようなことがない。
続編を必要とするような説明や物語の語り不足が無く、きっちりと幕が引かれているところも高評価したい。

『ランブルフィッシュ 10』
終わってしまった。
帯などのあおり文句に「サバイブ編完結」とあり、このイベントが終了するのか、それとも話自体、シリーズが完結してしまうのかと、読み出す前は首を捻っていたが、どうやら後者終結のようである。
無論、『新学期進級編』『社会人編』と続編を出すのは可能だろうが、読者が気付いていないだろう伏線まで、ことごとく水も漏らさぬとばかりに回収してみせた今、その可能性は限りなく低いかと思う。
内容は、この作者らしく好き勝手やっていて、読み出せば止まれぬほどには面白い。挿絵も素敵で、正直、何故ここで終わってしまうのか残念さの余り首を捻ってしまう。
――ともあれ、良い作品でした。

『鋼殻のレギウス』
何となく手にとって見たが、結構楽しめた。どことなくある古いSFの香りや、挿絵もそれなりに魅力的だったが、ただ嫌う人間は蛇蝎の如く嫌いそうな作品ではある。
過去に傷のあるスーパー主人公に、明らかに陰謀の一つ二つなければおかしい男女比率の偏差――つまり寿司の緑短冊ぐらいの男と、残り全て美女状態。せめて男のルームメイトやクラスメイトぐらいは置いても罰は当たらないと思うのだが。
逆に、それでもちゃんと面白く読めるものを書くところが、この筆者の力といえようか。登場人物達の弾力ある会話など、実に楽しい。少女岡っ引見習いとか特に。
続編も出そうな雰囲気であり、少し注意しておきたい。


以上、乱文。いや、我ながら見事なまでの感想だ。他人に勧めようという意思が欠片しかない。
具体例を挙げ魅力を伝えるのではなく、やれ凄いそれ面白い。まさしく日記。
梅香月二十日
午後、突然農学博士が来訪される。
手土産に地元無農薬紅茶と水飴という実に結構なものを頂き、しばし雑談。
――実も花も無いことをぶつぶつ呟いていた気がする。

颯爽と去る博士をお見送りしながら、今度会うときまでには人生ネタの一つ二つでも仕入れておこうと 心に決めた、そんな春手前。
梅香月十四日
余り書くようなことなども無く。

最近良く人が死ぬ。
感覚的には週にニ三人、多いときは連日、或いは一日に複数。
田舎故、稀な訃報だったはずなのに。町からの『お知らせ』に、高齢化社会というものを肌で感じる。

このところ胃辺りの内蔵がかなり荒れていた。原因はそろそろ残りも少ない今になって判明。
――ダイエット中の空っ腹に生で流し込んでいたウイスキーの度数が50.5度であった。四十度ぐらいならまだ大丈夫なのだが。

うん、健康のために麦酒と日本酒だ。特にエビスの黒は体を癒す。

そういえば鮒寿司臭い。自分は、あえてあれを好き好んで食べようとは微塵も思わないが、家人が何故か好物であり、切り身を椀の底に並べ、湯を注いで味わいなどする(――さて、鰹節と醤油は入れたか?)。
しかも今回は贅沢にも二夜連続。今宵はまだ半分以上も皿に残し、ラップもかけずに卓上へ。 そして部屋に満ちる臭気

彼らにとってはこれも芳しい香りなのかもしれない。食べるのは勝手だ。幸せになるのも自由だ。
自分達の幸せが必ずしも他人にとってもそうではない、嗚呼なんとこの世は難しく、悲しく、そして臭いのか。


最後に、某氏の博士号取得におめでとうございますと申し上げ、強引に笑顔で本日終わる。
梅香月十三日
寒の戻りか、朝方雪が白く辺りを刷く。もう次の冬まではと諦めていたため、実に嬉しい。
久々の玉露が美味。
そういえば日本ウイスキーの『北杜』『富士山麓』だが、高度数といい値段設定といい何より瓶とラベル のデザインが、共同企画でもない限りどう見てももう一方のコピー商品としか考えられないんだが、一体どういう裏事情だ?
以上、本日のこと。つらつらと。
梅香月十二日
本日以下の文章は、多分に恣意的で誤誘導を招きかねない内容となっている。
こういうものが冤罪や偏見、差別に繋がっているのかもしれないが、二十一世紀の日本の田舎で 現実に起こっている出来事として、是非これを記録しネットの大海に流しておきたいと私は思う。

一昨日金曜の夜のことだが、近所の、それこそ徒歩一分とかからぬ地元公共施設が焼き討ちにあった。


丁度一週間前、町長および町議会議員選挙があった。先日、当町と隣町が合併したばかりであり、 その第一歩となる選挙だ。町長候補は二人、それぞれ両町から出ており、真意はともかく 構図的には代表同士が一騎討ちという形になった。
地盤となる町の人口比だが、あちらの方が結構大きい。経験は、三期連続町長を務めていた向こうに対し、こちらは何故かしら以前別の町の町長になっていたことはあるものの、それ以外では合併前の当町議会議員ですらなかった。
肝心の政策に関して――私は新聞だかの公報に載せられた両者のものを並べ読んだだけだが――正直、格が違うと感じたものだ。『頑張って人に優しくそれでいて活気のある町を作っていこう』という意味の抽象的な主張をしている当町候補に対し、幾つかの問題と、それに対する具体的な解決策を方向性や方法込みで簡潔箇条書きに並べて見せたあちらの候補では、政治家としての説得力がまるで違う。
実際、選挙終盤にはかなり危ないということで、追い詰められている話も耳にしたし、同級生や友人に電話やメールで投票を呼びかけて欲しいという話も(――念のために言っておくと、自分に投票して欲しいではなく、棄権せず投票に出掛けようという呼び掛けの依頼)きた。私は友達などいないし、かろうじてそう呼べそうな連中は皆、別の町や県にいるので、結局そのようなことはしなかったが。投票参加は、気に入らないなら無効票を投じに行くという人間なので、言うまでもなし。

――で、結果。三千票ぐらいの差をつけて当町候補が圧勝しました。

……あれ? 人口約二万人、不参加者や投票権の無い人間を抜いてその異常な結果は何だと、当然のこと直後には首を捻ったものである。
で、同じように直後、話が色々入ってきた。
あちらの町長――あるいは町政――はかなり無茶苦茶してきたらしく、その反対票や変革への期待票が全てこちらに流れ込んできたらしい。
具体的に聞いた話としては『表立ってそちらを支持すると暴力的な嫌がらせを受ける。けど、うちは一家全員応援しているから頑張って欲しい』『談合』『昔、選挙で対立候補を応援していた人間が役所から消えた』『親分による支配政治』以上、かなりはっきりとした地元民の声から、町で耳にした噂話まで。

実際、合併前には異常な土地の購入などが問題になった。『児童公園を作るから』と阿呆みたいな高い金を出し、町で土地を購入しようとしたのだ。当然、その金は合併後両町負担となる。こちらの町はやめるよう申し入れ、あちらの町でもおかしく感じた人々によって住民投票が行われ、話はぽしゃった。――はずだった。
その後、確か『前日の午後に臨時議会召集を宣言して即決』ぐらいの異常さで土地の大部分だけを『将来のため』と具体的な必要性も目的もなく購入されたのだ。ちなみに、その議会関係者(議長だったか)達が土地の持ち主だったり、土地持ち主達の組織の関係者だったりと、胡散臭さこの上なく、またそこいらへんを追及したやり取りの中の反論で――別にそれが一番強い主張という訳でもなかったが――『同和地区だから反対するのか。同和問題になるぞ』という、時代錯誤な脅し文句まで飛び出した。

ああ、そりゃ同和行政終結を公約にする議員候補が大勢居た訳だ。

ちなみにこの件に関してあちらの町の行政関係者が、『国が補助金くれるといってるんです。私達の金じゃないんです、ともかく貰っときゃいいんです』と発言したのを私は聞いている。成程、合理的な考えであり、その国の金がどこから出ているかなんぞ考えないこういう人間が居る限り、国の借金は無くなるどころか減りもしないのだろうと自分に頷いたものだ。

ともかく、そんなこんなで選挙は終了した。これで何かが終わったわけではなく、全てはこれからである。

で、先日夜。当町、有線放送施設が襲われた。
有線放送が何か、ここで詳しい説明は省くが、要は地元に密着したサービスを行う、スピーカーと放送番組付きの町内電話、ぐらいのものだ。役場に隣接してこじんまりとした建物があるのだが、そこに侵入し、荒らしていった者が居る。
物盗りではない。放送機材を破壊し、冷蔵庫内の飲み物をぶちまけ、散乱させた書類に火をつけ逃走。警報によって警備会社の人間が駆けつけるまでのわずか数分の出来事である。

――選挙に関係のある証拠など無い。関係ないと考えられるほど、異常な事件が頻発する土地柄でもない。表立って犯人呼ばわりしないのが常識や理性なら、心の中の猜疑心という犬を起こすぐらいは、また人間として当然のことであろう。

幸い、火は大きくなる前に消し止められ、無事な別室で通常通り有線放送は続けられている。
警察も警戒しており、つい先程、酒買出しの帰路、何気なく前を通り掛かってみたところ、灯火を消し、駐車しているパトカーが。――しかも通り過ぎて後、ふとバックミラーを窺えば、威嚇するかのように駐車場を出て、ゆっくりとこちらへ近づいてくるパンダ車の姿。

具体的な出来事と、真偽の疑わしい周辺状況は以上である。犯人が捕まりなどしたら、また書く。
他にもまあ、嫌な話は幾つかあるが、これがもう隣町のことでなく当町のことだというのは 気鬱な話だ。
気鬱だから、せいぜい明るくなるよう、この先自分に出来ることをやっていこう。
不平不満を垂れ流し、口をあけて天から何時か理想の社会が降ってくるのを待っている――そうではないのだと、自分は少なくとも教わった。だからこそ、色々問題があろうとも、同時に餓死者も出ず、日常的な政府弾圧が無く、言論放言の自由があり、人が笑って好きに暮らせる、この国や社会が、好きな時もあり、誇りとなりうることもあるのだ。


今回の事件が異常だとあえて書かずにはおられない、そんな自分の感覚が、今まで人々が積み上げてきたものの上にある、決して当然でも自然でもない素晴らしいものなのだと最自覚し、感謝を捧げながら。







追記:有線放送のすぐ近くには図書館がある。もし、今後そちらに何かあったなら―― 人間狩りだ。
梅香月十日
掲示板ですが、アルファベットを使う猿が暴れているため、隔離致しました。
というかそのうち新しいものを設置するつもりですので、この際、廃棄されたとお考え下さい。
見えないものは存在しません。誰の眼にも付かないところで阿呆がクズらしい人生を満喫していても、 存在を許される程度にはこの世界は寛容です。

『特ダネ三面キャプターズ 1』読了。
『トリコロ』で有名な海藍氏の作。毎回きっちり四コマで落ちる、かいわれ並みのネタ密集度が実に お見事。
普段、進んで四コマを読むことはないが(いしいひさいち氏は除く)、もしも出来のいいものは皆このレベルだというのなら、一度しっかり足を踏み入れてみるべき世界なのやも知れぬ。
梅香月九日
ケーキは素晴らしい。
甘いものは正直なところそう好きでも嫌いでもないが、ケーキは良いものだと思う。
目で楽しめ、季節を感じ、心を幸せで満たして、味覚を喜ばせる。純粋に栄養の摂取にもなるし、友人と突付きながら談笑する時間を素敵に演出したりもする。
他の菓子とは違って社交辞令で礼を言われたり、嫌がられることもまず無く、手頃な値段で手土産としては最高に近い効果と、場合や相手を選ばぬ応用性を発揮する。
何より、一度食してしまえば場所をとらぬというのが実に良い。これぞ無駄の無い、純粋な『幸せ』或いは 『よろしさ』の形ではなかろうか。
――本当に、ケーキは食すだけでなく、贈り物としても最適である。

味の確かな店に赴き、一人二つ勘定で箱詰めしてもらう。綺麗かつ美味しそうな、珍しいものが余りに多いので ついつい全て違うケーキを選んでしまうのは何時ものこと。
帰宅後、母の好きな寿司を作り、卓上に並べ数日遅れの『ハッピーバースデー』。
『お、雛祭りか?』
『わあ、有難う。――二回も祝って貰えるなんて!』
『……へ?』
聞けば、母の誕生日はもうしばらく後だとのこと。
『……では、このカレンダーのこの文字は?』
『あ、それ○○おばあさんの』

――別に誰も傷付かなかった。ケーキは素晴らしい存在だ。うん、まあだから、ヨロシ。
梅香月八日
そういえば今月は母の誕生日があったなとカレンダーを見れば、数日前のところに小さく『誕生日』の文字。

……やばい。
梅香月七日
日々の行いについて。

議論などでは、発言内容や発言姿勢が重要なものとなる。当り前だ。『あれでも根は悪い人じゃないから、さっきの暴言もそう目くじら立てるようなものじゃないって』そんなふざけた物言いが私ならばともかく公の場で通れば、まともな社会など成り立たぬ。
しかしでは、形として後に残るようなもの、口の上手い下手だけが全てであろうか?
長く付き合って、時には勘違いなども交えながら罵り、違う意見を戦わせ、そうしてその果てに漠然と見えてくる『その人』、そういうものがあると思う。

立派な肩書き、しっかりとした発言。しかし、日々の行いの証が結果碌でもないものばかりならば、誰も付いてはいかず見限ることとてあるだろう。
……そんな選挙結果を目にして早や数日。あの異常な大勝に関し、其処此処であちらの悪行が耳に入る。抑圧されてきた人々の、抗議票や期待票が全てこちらへ流れ込んできたらしい。――少なくともそんなに怯えて暮らすぐらいならば、ちゃっちゃと証拠揃えて公権力に引き渡すべきだと思うが、そこのところどうであろうか?

ここ一番の見せ場だけではない、誰も見ていないような日々における積み重ね、行動、在り様。まずそこから綺麗に襟を正していく、そういう古い日本的価値観にも通ずる生き方を、私は美しく好ましく感じる。
梅香月六日
久々に本を読み終える。

『十字路のあるところ』
クラフト・エヴィング商会の吉田氏の短編小説集。ああいったデザイン的な仕事を普段からしておられるせいか、本の装丁は実にセンスの良いもので、カバーの下もシンプルなのにまた美しい。
中身に関しても、言葉が意味を伝える記号でも、裏側に満ちる意思を透かし示す窓でもなく、誰も知らない夜の天頂へ人を誘う階段となっている。
――普段、自分が読んでいるものとは違っている、しかしこういうものこそ『小説』なのであろう。

で、もう一冊。
『天を騒がす落し物』
こちらは中華ファンタジー。そっちの方面ではかなり評判が高く、『良作』であり、つい最近まで『何年も読者にお預け食らわした』――悪評も評判よ――と其処彼処で目にする。
実際、出来としては水準が高い。良くありそうな話か、逆に作者脳内の偏りのせいで噛み砕く必要がある諸々の世間一般作品とは違い、一つの独特な世界を、読みやすくぽんとそこに提示してみせる手腕。
自分の趣味とはいささか違うが、いきなり最初の敵にどう見たって中ボスかラスボスを持ってきたこの後の展開には、正直惹かれるものがある。

それなりに満ち足りて本日以上。
梅香月四日
投票前日と言うことで、各候補者の車が必死に――というか狂気じみてきている。
……思わしくないのか、それとも票が読み切れていないのか。
梅香月三日
夜、体を動かしに出て、ひたすらに股を裂き続ける。縦にしろ横にしろ、かぱんと 開く方々はきっと腱が伸縮型ではなくピストン式で出来ているに違いない。諦めず、頑張っていればいつか自分の股もピストンのように裂けるさ――と、変な背後霊に取り付かれた奇態な一時。
梅香月二日
エビスの黒麦酒と泡盛がもう美味しゅうて美味しゅうて。体重計の針がスキップで 右へと戻っていく。

このところ地方選挙中。田舎だと、あれやこれやがかなり露骨で笑える。まあ、本人様たちが大真面目な分、喜劇という雰囲気で落ち着いてはいるが。
――他人の不幸の味を思い出す。ああ、蜜柑にも似た芳しき金色のとろりとした甘露よ。
梅香月一日
最近、最後まで読み終えた本が漫画ですら無いな――と、本塚の中でふと思う。
つらつら思い返すに、『フロンティア』の完結巻を読んだことはすぐに思い出せたが、 あれを本と呼ぶのは率直なところ否定したい。

あれは、もっと――絞り出した魂の、そう、あえて詩心とでも言おうか。
そういう高い存在である。

……とりあえずとっとと普通の本を読むとしよう。紙魚ノ跡も戻してみようか。
以前、在りしことども
端月/ 如月/
端月/ 如月/ 梅香月/ 桜月/ 夏初月/ 雨月/ 七夜月/ 燕去月/ 月見月/ 紅葉月/ 雪待月/ 雪見月/
紅葉月/ 雪待月/ 雪見月/ メニューに戻る。