日々、在りしことども



梅香月三十日
我らが愛した日清の安くて美味しいインスタント麺は、最早存在せぬ。

早朝より出る。目的はまた値上がる麺食品の買い込み。
車のガスがまず足りぬ。明後日から値下がろうに。けちって数百円分だけ入れたが、まず負け犬風が一吹き。
大型食料品店へ。時間を間違え、開店前の店先に立つ。負け犬風弐。続いて、既にインスタントラーメンが値上がっていることに衝撃を受ける。負け犬風参。
がっくりきたまま書店へ。先日、一日でも早く手に入れようとネットで取り寄せた書籍はしかし黒猫が未だ動かず、なのに本屋では全て揃っており、これが負け犬風その四。
花屋に行っても花が無い、値下がりを狙っている苗は未だ変わらず、そう言えば図書館に新刊が入っていたと足を向ければ、時間差で誰かが借り出している。『では、こちらの本を』と頼めば『……すいません、どうも行方不明になってるみたいで』と返し斬り。失意と共に出れば冷たい雨が私を打つ。

負け犬風が四方八方から吹き荒ぶ。しかも、どれもこれも安っぽいくせに精神の弱点を的確に突いてくる。

結局、図書館で思いがけず見つけた他の新刊と、二リットル280円で入手した白ワインだけが本日の収穫。

他、新しい敷布や布団カバーが心地良くて久々に快眠を貪れたとか、まあそんなことども。
本日も小さくごちゃごちゃとして、終える。
梅香月二十九日
ホエイプロテインは素敵なプロテインー!

影響されやすい人間というものは、何時まで経っても変わらぬものか。人の本質とは何ぞや。マッスル(詠嘆語尾)。
梅香月二十八日
忘れていたブルーベリー酒を瓶詰めする。漬けて大体半年ぐらいか。
酒は度数高めのウヲッカを使用、ブルーベリーは冷凍庫にあったのも含め、大量に投入。目に良い薬酒をイメージして濃厚に仕上げたもの。
しばらく前に味を見たときは今一だったが、あれからこなれたらしく、それなりに飲めるものになっていた。しかし。
――ストレートで酒を飲む人間にとって、果実酒に放り込む氷砂糖の量は、成分を抽出するための浸透率云々とか、永遠の課題であり、ぶっちゃけつまり敵が居た。 ……そんなに甘くないよう、ちゃんと加減したつもりだったんだが……

ま、冷たい水で割れば十分美味。洒落た酒瓶二つに収め、コルク栓を締めて押入れに安置。雰囲気のある瓶に入れると、ついもったいなく感じて手が伸びず、存外長く残ることになる。隣の黄金色の梅酒など、少なくとも五年は越えていよう。

今年は苺など試してみようかと思いつつ。これといってなく、本日終わる。
梅香月二十七日
深更、散歩していたところ突然かゆみに襲われる。
花粉症――にしてはくしゃみも無く、あのひりひりした感じとはまた違い、とにかく耳の後ろや手指、ついでに脛の辺りを掻き毟らずにはいられない。
主に肌の露出部分だから、先程白梅に顔を寄せた折、近くにかぶれる樹木でもあったか、はたまた出掛け前に摘んだ食べ物の何かでアレルギーが突発したかと、ちょっとした恐怖(料理をする人間が卵アレルギーなどにかかろうものなら……それは絶望にかなり近い)を抱きつつ帰宅。
掻き毟った部分が悪化しているようなので、とりあえず湯で全身を流す。
原因不明。血の巡りが良くなったのが不味かったのだろうか。
梅香月二十六日
源平枝垂れの蕾が、日に日に大きく膨らんでゆく。濃い朱色だけでなく、紅と白の入り混じった姿も確認でき、嬉しい限り。
思いの他、枝垂れ枝が伸びていないが、その辺りはこれからを楽しみにゆっくり育てたい。

で、苗の安売りを狙い雨の中、店へと突貫。桜は安売りがあったが、花桃は未だ良い値で並べられていた。
格安になった源平枝垂れをもう一、二株、ついでに藤も同じようなのを狙いたいのだが、 ぶっちゃけ植える場所などない。
啓蒙と称して誰かに押し付けるか、こっそり近所の公共施設の生垣に紛れ込ませるか――ううむ、どういう建前を口上に述べれば、記念植樹させてもらえるだろう?

後、買い物に。新書は立ち読みで読み切った。いい歳をして流石に店に悪い気がしたので、同じぐらいの値段の本を一冊購入。多分、何の解決にもなっていない。
切れかけていたビタミンC錠剤の入手に失敗。あれはすっぱいから、たまに飲むと菓子のようで美味しい。
以上、雑然と。本日終わる。
梅香月二十二日
久々に口にするダージリンが美味しい。

このところ、良い月夜が続く。
規則正しい生活が、ちとずれた。今の状態は結構気に入っているので、是非戻そうかと思う。
梅香月二十一日
本年の花粉はまだましかと思う。――ひょっとすれば歯医者で処方された薬が効いているだけやもしれんが。

昼、風呂、読書。鳩時計を数え間違え、ちと失敗。まだ、少々疲れが取れていなかったのかもしれない。
午後、自転車で出る。日差しはきつく、されど風は冷たし。やけに汗が出る。
古代文字関係の良い本を読む。世界最古の粘土板料理レシピとか、マヤ文字の読み方とか、ハンムラビ法典に見る当時の『……最近の性は乱れすぎて……』ネタとか。
鯛焼き魚拓本を思い出す。図書館は、たまにこういう素敵な本に巡り合う縁があるから、好きだ。
本日以上。
梅香月十九日
違和感を覚える。良く解らないが確かに何処かおかしいようなので、じっと考え、気付く。
毎食後と睡眠前、一日計四回飲んでくださいと薬を貰ったが、いい加減な生活をしているから食事時間や睡眠時間を基準にしていると、規則正しい投薬が成り立たない。
具体的には、昨晩は一食足らなんだ。一日四錠と考えるべきか。

雨。隣の実桜が満開。余りの見事さに、梅と勘違いしていないかしばらく迷う。未だ自信なし。
本関係を幾箇所か回る。新書を立ち読みで最後まで済ませなくなった辺り、大人らしく落ち着いたと自画自賛していいものかはたまた積極性が無くなったと反省すべきか。

他、少々あれど本日以上。
梅香月十八日
白梅が美しい。
梅香月十七日
夕、ようやく歯茎の痛みが治まった。――ぶっくりと腫れだしているが。
痛みを感じるのと感じないの、どちらがまずかったろうか。
梅香月十五日
歯が痛い。ビタミン剤を飲んで、ついでに体内から消毒だァと久々に甘い芳香のホワイトラムを呷ったのが不味かったか。
梅香月十四日
歯が欠けたところに始終ものが詰まるので、歯医者へ。これを機に、怪しげなところ全てを治してもらうことにする。
とりあえずレントゲン撮影。すっかり時代は変わり、肺癌検診のように立ったまま顎を台に乗せてレーザーで顔の中心線を取り、巨大なヘッドホンに似たものがゆっくりと回転し、ぐるりと周囲を、周囲を、周囲を……肩につっかえかかり、慌てて左、右と小さく竦める。アレだ、電子レンジに大きすぎる皿を入れた時のような。――高さも機械は調整されたし、自覚より、腹回り以外でもこの体格はごついのだろうか?
他にも近代化の波は見て取れ、横になったまま見せられたディスプレイはパソコンのものらしく、撮ったばかりの写真を拡大、解説、クリック移動と説明に大活躍。
しかし歯を削ったり、吸い取ったり、顔にかける穴開きタオルはそこら辺の商店が配っていそうな薄物に鋏が入れてあって、つまり根本的な部分はそう変わっている様でもなし。
歯、自体は昔に神経を抜いていた一本が中を雑菌にやられ、恒常的に歯の根の先が膿んでいる状態だから、まずはそれを時間を掛けて治すとのこと。これまで歯が変色しているだけで痛み等は無かったが、あんな真っ黒な塊が体内にあって無自覚というのは、それはそれで恐ろしいものだ。

後、帰宅。夕食は仕上げるだけして自分は抜き、ポトフ用の白ワインやローリエを買いに行く。
予約はしておいたものの、来院を受付に申請するという風習を知らず、一時間近くのんびり読書に勤しんでいた己が間抜けさを最後に晒し、筆を置く。
梅香月十一日
快晴。花粉少なく、苦痛無く陽光を浴び外気に触れる。ああ、春とはかくも素晴らしいものだったのだな。
――存外に自分の体質だか日本の気候だかが狂っていると気付く。

出掛けていた家人が、ワカサギ釣りを見物していたら頂いたとかで、それなりの量を持ち帰る。炊き込み御飯や味噌汁、お浸し等、夕食は一通り支度し終えており、更にそこから三十分以上延々と天麩羅を揚げ続けるのは正直苦痛以外の何者でもなかった。
が、新鮮なだけあって実に美味。生臭さは微塵も無く、塩をパラリ、醤油を一垂らし、さくさく齧って気をなだめる。
梅香月十日

梅香月八日
雪がまだぱらつくかと思えば、途端に陽光満ちる季節の変わり。
梅香月三日
『稀刊 twelve 2008年13月号』、読了。トリコロ特装版の付録本。
これまで単行本に収められたことがなかった作者氏の様々な短編や投稿作(?)、長編四コマをまとめたもの。そのものの価格は約四百五十円(本体のみは八百円ほど)、しかし本体より分厚い本となっている。
特装だの限定だのと称し、アイテムを抱き合わせ販売してぼったくるのが珍しいものでなくなった昨今、これも確かに特別な『装丁』などではないが、ここまで読者を喜ばせる特装版はまずあるまい。

内容の方も、拙いところも多々あるが、作者氏の変遷や、今の持ち味の萌芽が見られ――題名まで含めての五コマ漫画、など――描き下ろしのイラストといい、贅沢なものとなっている。
一時、ネットでは数が足りないと噂が駆け巡り、発売日直前に訂正はされたものの、不安は拭い切れぬまま当日早朝開いたばかりの書店へ駆け込んだ。
徒労ではなかったと、まったり茶を啜りながら。
梅香月二日
飯でも食いに行かぬかと誘われ北へ。
年上の三十路独身男からムサイと言われたが、その評価にではなく、自分ではあんまり自覚がなかったというかもう気にしていなかったことに、ショックを受ける。
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