日々、在りしことども



月見月三十日
二年近く伸ばしていた髭を剃る。
アルカイダの下っ端指揮官ぐらいなら勝てる程にはなっていたが、この週末、親戚の祝事に顔を出す必要が出来、こうなった。仙人辺りを目指していたが、まあそろそろ飽きてきた頃合でもあり、剃ったこと自体には適度に不満があり、また無い。
――ちなみに、剃刀なんぞ役に立たなかったと書いておく。すぐに二枚刃が詰まって、獣毛のような髭の上を滑るだけであった。
月半ばには、地元行事の手伝いに出る必要がある。むしろ周囲に気を使わせてしまうだけだろう。
自分がどれだけ人付き合いや義理付き合いを苦痛に感じていたかを思い出した。早く、山の奥の奥にでも居を定めねば。

とりあえず顎の発掘から始めるとしよう。
月見月二十七日
寒い。
月見月二十六日
ウィローモスの育ち良し。伸びろ伸びろ。
月見月二十五日
ようやく水槽内のウィローモスが目に見えて伸び始める。数本とはいえ、新芽の薄緑が心を癒す。
――つまりは。やはりエビが多過ぎたのかッ。

まだ減らしてやると決意即実行。苔も無い小さな室内水槽に二桁放り込むんじゃなかった。


『ふたご最前線 5』読了。この作者氏の作品の中で一番好きなシリーズ。
一卵性の双子と、縫って踊れる婆ちゃんが良かった。特に双子は、あの手を振って合図するエピソードが特に。
月見月二十四日
先日、立ち読みした雑誌に載っていた料理を試す。揚げだし豆腐の鯖バージョン。
鯖に片栗粉をまぶして揚げ、からりと仕上がったところでツユヘ入れる。皿に盛り付ける段階で大根おろしをどっさり乗せ、仕上げにしその葉の千切りを散らす。
結構良し。ただ、小骨が無ければもっといい。
月見月二十三日
夜、出る。買い物を頼まれる。
バナナだけが見当たらず。一つ目のスーパー成果売り場は空、二つ目では置き場も見当たらず、ハテ流通に天候の不具合でも起きたか、はたまた格安セールで売り切れたのかと――
ふと、過去のココアや納豆品切れの件を思い出し、帰宅後に呟く。『テレビでバナナのダイエットでも放送されたのかね』『ああ、数日前に』
家人の返答に沈黙を持って答える。『だからバナナダイエットとか言って貪り食っている人がいるから買ってきてもらおうかと』

そこでダイエットを始めるかどうかではなく、自分で買いに動くかどうかが、小さくとも致命的な差でなかろうかと愚考する。

……それにしてもテレビに影響されすぎだ日本人。上手くやれば、良い意味でコントロールされた衆愚の国が完成するんじゃなかろうか。
月見月二十二日
晴。『回すぞー。洗濯機、ぎゅんぎゅん回すぞー』。物干し拭いて、最近乾きの悪い洗濯物を手に何往復か。脳内ではスイッチがハイに決まって、妙なテンションに。

裏のメダカ池が澄む。水槽の水の安定が、という話はよくあるが、この夏の実体験からすると、そこそこ雨でも降って一晩一気に冷え込むと、翌日にはとても澄んでいたりする。むしろ、温度変化がポイントではなかろうか?
裏池のメダカは、相変わらず警戒心が強く姿さえ見えない。琵琶湖のミズノモリで買って来た黒メダカ(本当の黒ではなく茶というか金茶色というか、昔ながらのメダカ色)を入れてからだが、それまで住んでいた連中も倣うようにすぐ隠れる。
魚類の警戒行動は伝染するのだろうか?

白メダカの稚魚は順調に孵っている。が、親の方が一匹死んでいた。昨日から行動がおかしかったし、とついでに数えれば、何時の間にかもう一匹消えていて残り計三匹。
まあ今頃買い足す気もなく、ミジンコを与える。

ドーベンはまだ咲いている。植えつけたムカゴ株はほとんど育っていない。他、幾つか出来た浮き株は、これを教訓にとにかく大きくなるまで水面に浮かべておくことにする。
また、そこに入れておいた子メダカだが、本日二三個だが抱卵しているものがいた。
まだまだ小さいのにと、感心した朝。
月見月二十一日
早朝、雷鳴。意外と近くに落ちたかと見ていれば、たちまちに曇り暴風豪雨となる。
それたはずの台風が、直撃しにだけ戻ってきたような光景。植木鉢にも転倒するものがあった。
そういえば例年夏場に一度はある、雷を伴った激しい夕立による長期停電が今年は無かったと回想。運が良かったのか、電力会社が頑張っているのか。

午後、久々に図書館。読書の秋などしてみようかと思う。
まあ、そんなこんな。
月見月二十日
小学校では運動会だとか。季節が急流の如く過ぎ行く。。
月見月十九日
ふと、昔を思い出すことが多くなった。大学の頃の生活圏の鮮明な光景、高校時代のつまらないこと、中学時分、耳に染みていた歌の響きなどが唐突に頭の中で流れ出す。
きっかけも別に無い。だが、段々巻き戻されていくこれは――半月がかりの走馬燈か?

願わくば、アルコールで死滅した脳細胞の変わりに、古い部分が使い直されているというオチだけではなきよう。


ただ寝ているだけで体重が落ちていた夏も終わった。寝酒を控え、夜食を摂らず、寝巻きは汗を良くかくよう長袖の厚着にする。それで大体、九十こそ切らなかったものの、五キロ以上は確実に削れた。
十二、十三という下桁を見て他人事のように何も感じないここしばらくの自分の在り様など、三ヶ月前ならまるで考えられなかった。半年ちょい前なら、一つ桁を繰り上げての末二、三に『あ゛――飲み過ぎた……』ぐらいは呟いていたようにも思う。
まあ連日連夜、あれだけ飲んで、小腹が減ったとラーメンを作り、掻き込んではそのまま毎日のように寝潰れていたのだ。ちょっとした生活習慣の変化でこうなるのも、またむべなるかな。

ただ――あんまり痩せている実感が無いというか、筋肉がさらに落ちてきている気がする。あれは比重が重いというし、老化で全身が萎えてきているだけであろうか? 散歩もジョギングも山道踏破のような運動も、ここ長らくした覚えが無い。本当に自分は健康的な意味で痩せてきているのか?

――プロテイン神の御加護を祈る日々が来たのかもしれない。
月見月十八日
彼岸花に被さる黒揚羽。柿はすっかり色づいて、重く枝をしならせる。
知らぬ間に、秋、深まる。

夜、寿司を食いにゆく。回転だが、流れてくる皿を待ち受けるのではなく、タッチパネルのメニューを押して次々注文するやり方に、時代の移り変わりを感じた。
味は、今一。具が冷た過ぎるとか、美味しそうなメニュー写真のネタには厚みがあるのに、いざ食さんと手に取れば、ものによってはスライスハム並みに薄いがこれ誇大広告に近いんじゃとか、まあそんな。
そこそこ食べ、そこそこ満足し、帰る。
月見月十七日
台風が近付いていると言うが、快晴。

『山魔の如き嗤うもの』読了。シリーズ評価を上方修正する。
幾らか読んだところで、『首無の如き祟るもの』なる前作を読み飛ばしていることに気付いたが、何ら支障は無いのでそのまま読み切る。
ラストの山場で真相が二転三転総取っ替えされるのは、良くあることなのであんまり好きではないが論じない。ただ、シリーズ二作目で感じた、このままTVのお約束的のように安っぽいパターン化して売っていくつもりなのかなという失望感は、綺麗に否定された。不条理の『怪』と論理の『解』、この二つをどちらかを立てて一方を添え物と従属させるのではなく、上手く縒り合せている。御馳走さまでした。

さて、次は『首無の如き祟るもの』を。
月見月十六日
筆と網で白メダカより直接採卵。ごっそり卵塊を入手する喜びを一度知ってしまったら、もう止められない。また、二匹目が孵化。卵だけ別容器に入れ、毎日水道水を換えるのが良い刺激になった模様。

昨日にはどうやら安定してくれたらしい自室水槽。見ればCO2添加ペットボトルが反応し切っていたため、酸素が増え、バクテリアも元気になったのだろうかとふと思う。――けど朝には新しい砂糖水と塩・イースト菌を投入。育て育てよウィローモスと呪文を唱えてみる。
月見月十五日
心身ともに極めて駄目な感じ。
月見月十四日
中秋の名月。

エビはまだ死ぬ。
月見月十三日
本日も水槽の水換え。エビの昇天もちらほら。
四分の一を毎日だったか。水槽に付いてきた小型濾過器だかエアレーションだかを動かすべきか?
月見月十二日
深夜、丑三時過ぎ。――水槽の水換えを行う。
もうちょっとぐらい持つだろうとか、汚れを分解するバクテリアはまず汚れなければ増えないし、と甘く見ていたところ、本日(いや翌日?)夜、水底でエビが横に――涅槃の姿勢に――なった。
経験上、大きなエビほど水質変化に弱い。いや、いい報せになったと呟く余裕も無く、二階と一階をバケツ柄杓カルキ抜き水道水入りペットボトル他を抱え上下運動。
よっぽど汚れていたのだろう、ほとんどの水を替えて余り綺麗になったようにも見えず。 とりあえずで、手を打つ。

夕にはまたCO2添加ボトルを転倒させたし、ウィローモスの育ちも悪いし、ようやく二輪目が咲いた裏庭日陰(日照の季節移動による)メダカ池の白睡蓮も見逃すし、少々よろしくない本日前後。
月見月十一日
白メダカ、ようやく孵化。また、業を煮やし親メダカから直接採卵という手法に出る。
幾つかの卵の中には既に黒い姿が見えているものもあり、自分は今、メダカが卵生から胎生へとグッピーの如く進化する過程を見ているのでは以下略。ついでに、小さな卵塊がメダカの口元についていたのも、捕獲時に暴れまわって付いただけで、やはり妄想に違いないまさかそんなナァ。

日差しの色も変わった。月も白く、夜は寒い。まだ残暑気分の抜け切らぬ自分には時間の経過がちと速い。
月見月十日
朝、筋肉痛だと思うが左腕の節々が痛む。何かをした覚えは微塵も無いが、数年前に体験した地獄を思い出し、重度のそれと判断。対応としてプロテインを摂取する。

晴。布巾を洗い干す。睡蓮の蕾、何故か閉じたまま。白メダカ、抱卵や交尾はするものの、上手くそれを藻に付けない。いっそ網で掬ってでも採取すべきか?
風景の中、稲刈り進む。昔はコンバインで穂先を収穫し、藁は細切れにして後ろに撒き散らしていた。機械か、農協辺りの指導方針でも変わったのだろうか、この秋、稲藁は長いまま端をくくり、田端に三角に立てたり、渡した棒に掛ける光景が目に付く。
藁は藁で何らかの加工資源として意味を見出したということか? 解らん。
月見月七日
やっと白メダカの卵採取に成功する。僅か三つだが、これからが楽しみ。
パイナップルと、何時の間にか大分大きく成長していた藤の鉢を、一回り大きいものに変える。ついでに、ドーベンのムカゴから育ったものを土に植え付け水中へ。
後は、初夏に挿し木と称して適当に赤玉土に刺しておいた源平枝垂れの枝の残りが、一本だけ新芽を育んでいるのに気付く。地面に直植した苗の方が不調なので、こちらもちと期待。

他、覚え書き。蜘蛛の巣、蜥蜴。裏の睡蓮は順調に育っているようで、沈めた鉢の中で土が盛り上がり、零れ落ちそうだとか。以上。
月見月六日
エビメダカラーメン。

ミナミヌマエビの餌に茹でた小松菜の葉を与えてみる。
ホウレンソウは良く聞くが、他の植物でも大して問題は無かろう、と。
寄って来ない。すぐに去る。ホウレンソウでなければ駄目なのかと寝る。
一晩たって。――穴だらけの葉に無数のエビがたかる光景。
六日夜、今はもうほとんど残っていない。恐るべき食欲である。

水槽の水草が育たんのは貴様らのせいか。

倒すべき真の敵を見定めた日。


白メダカだが、屋外という大水量や日光または温度が良かったらしく、たちまち元気に。本日、少しとはいえ卵をつけて泳ぐ姿を目にする。
採取は出来なかったが、冬前には稚魚を増やせるかもしれない。

夜、某氏よりお誘いあり。ラーメンを食いに行く。車ではなかったので、ついでに博石館の白麦酒とやらも頂く。きめの細かい味わい。
後、書店へ。人々の服装に見慣れない風情を感じる。そろそろ一層深刻に時代と断絶し始めたか?
帰路、誰も何も言わないのに、ブックオフに入る連中。そのまま、一度抜け出して犯罪を犯し戻るだけでアリバイ工作が完成するような一時の後、帰宅す。
月見月五日
ドーベンのムカゴ、順調に生育中。そろそろ土に植えつけられようか――けど五株十株、どこの池に沈めるつもりだ?
……本気で自分の森を作ることを考えるべきか……川よりは安いだろうし……

ブルーベリー酒、下の方に近づいてきたのか、甘みが増す。そろそろ瓶一本とそれなりに空けている計算か。仕込んだのは三本、普通飲み始めるのは更に今から二ヶ月後。
――そういえば新しい梅酒に古い寝かせた梅酒を注ぎ足して熟成を進める裏技があったはず。このブルーベリー酒の瓶も、水瓶の如くウヲッカを足し続ければ――

知っている。私は馬鹿の名を知っている。
月見月四日
裏の睡蓮がようやく咲く。白く丸い花。夕前にはかたく花を閉じる。
表のドーベンも、二輪が並び咲く。
白メダカの移動を期に、水槽掃除。

何のために生まれてきたのか?
世界を糞で埋め尽くすためだ。(byエビ)

そういう命もあるか。
月見月三日
調子が悪そうな白メダカを屋外へ。ついでに塩六十グラムほどを投入。
マツモが枯れるのは――カルキだから大丈夫だろう、多分。エビもきっと。

これを機に、明日は水草水槽の掃除をして、エビの数を調整するか。
月見月二日
雨、時折雷。
裏の睡蓮池はあふれ帰り、浅いところが好きなのか浮かび上がってきたエビ達がふちに引っかかっている。戻しても、またすぐに自ら打上げられる。
死してもそれを望むならば。汝、陸を目指すがいい。

また、これにより睡蓮の蕾や葉が一気に伸び上がる。
この夏に学んだことだが、睡蓮に必要なものは良く言われる『水面の広さ』と『日当たり』。
そして『肥料』と『水深』である。追肥を月に一度ほど。また、水面を十センチほど押し上げてみる。すると、一気に育ち上がる。
最近、どうもこれ以上の変化が無く(一定の所で成長も変化も止まってしまった)という人々に片端から教えてあげて回りたいコツである。

冬眠白メダカ、ミジンコを食さず。そんなに不味いかと、逆切れして更に追加。しかし、食わず。
ぱらぱらと落とした一袋百円のメダカの餌に何故か群がる。

『よつばと!』8巻読。
台風が一番、お祭りが二番目に好みの話であった。
月見月一日
食べ残しのミジンコが水槽内で子を産んでいる。白はもう、冬眠準備に入っているようにしか見えない。

午後、家裏の倉庫に救急車。事故か何かあった模様。
以前、在りしことども

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