日々、在りしことども



紅葉月三十一日
どうにも寒い。

エビの消えた水槽にミジンコをどっさり投入してみた。そのまま沈んで、敷石の間に消えていく。
この猛毒っぷりは何だろう? 何故、これで元気にメダカは泳ぐ?
CO2添加量について、再考する。
紅葉月二十九日
早朝、余りの寒さにストーブを出そうとする。風邪でもひいたかといぶかしむうちに、ふと 思い出す。――昨夕、換気のために開けた部屋の窓だが、何時閉めた?

午後、出る。何時もの給油先が留守だったので先に本屋等を回ったところ、赤く灯った 給油マークを見つつ、夕遅くの田舎道を走るという大変スリリングな一時を過ごす。
バイクに比べ、案外持つものだと記し、本日終える。
紅葉月二十八日
水槽の底、ミナミヌマエビが次々と酔っ払ったように横たわる。酸欠か、大量に溶け込んだCO2による水質変化のせいか。
全て別容器に移す。優先すべきはウィローモス。なおメダカは元気。さすが強い。
紅葉月二十七日
変質者が出たそうだ。車で下校途中の子供に近付いていって、『お小遣い、欲しくない?』。そんな男の特徴はサングラスにアフロ。
……真面目に変質者する気があるんだろうか。

水槽の水換え。大きく育って欲しいと水草用C02添加を、従来の500mlペットボトルから三倍の1,5リットルへと変更。夜中の酸欠など不安だが、効果はこれから見守るとする。
また、そろそろ寒さで亡くなるものも出てきたようなので、屋外の白メダカ稚魚を全て同水槽に移す。しばらく前に移動させていた九匹に比べ、明らかに育ちが悪い。こまめな餌遣りが差異となって現れた模様。やはり白でなくピンク系なのが今一。だがまあ、でっかく育て。
紅葉月二十六日
昨日、家人の土産にとタイムセールスで入手してきた『ハロウィン限定セット』、その限定茶葉『いもくりかぼ茶』。
会場で試飲した時は解らなかったが、小さく切って乾燥させたかぼちゃチップが入っている。
会場で試飲した時とこれは変わらず、焼き芋のようなマロングラッセのような、芋栗の風味がどっしりついてる。

実に変で、面白い茶だ。
紅葉月二十五日
「グラン・マルシェ」に足を運ぶ。「ルピシア」主催のお茶祭。入場無料ということだが、大阪までの往復がそこそこの値段。金券ショップ前自販機のバラ売り格安回数券を利用し、赴く。

入り口で招待葉書と引き換えに、クッキーやドライフルーツの小袋を貰う。会場内は中央、陸上トラックのような形のブースで世界の御茶の試飲が出来、周囲では茶葉、茶具、茶菓子、本やお茶関係のグッツ、地域限定茶にハロウィン限定茶などの販売コーナーがあった。

試飲は、ルピシア全ての茶葉があるのではなく、それでも紅茶緑茶烏龍茶、フレバードティーミルクティーアイスティーレモンティーハーブティー等々、九十種近くはあった。
来る前は喫茶店店員の様な格好をした人間が客の問いや求めに応じ、一回一回ポットを傾けるのかと思っていたが、流石にあちらは本職御茶屋。合理的に、トレーの上に小さな指先サイズの紙コップを幾つも並べ、底に試飲用の紅茶をほんの少し注いでおき、数が減ると新しいトレーを置くやり方だった。これなら数はさばけようが、何故か修羅場めいて次々ミネラルウォーターの口を切り、紅茶ポットを作っていたスタッフの姿を視界の端で覚えている。
一応、味の薄そうなもの、定番茶の方から回ったが、そのうち舌に渋みのようなものが薄っすら残りだすようになった。状況を説明する最も適切な表現は『椀子蕎麦って知ってる?』


他、地域限定茶は多くが売り切れており、後日郵送しますと注文用紙を配っていたり、男性のためのお茶講座も既に受付が終了していたり、茶葉の販売も店頭販売に比べると一般的なものの数が少ないように感じたり(ただし、フレバードティーは多く、また全品一割引)、サントリーの高級烏龍茶ペットボトルコーナーで関連の試飲をしたり、何故か閉会前タイムセールがあったり(……明日も此処であるはずなんだが……)、帰る前にお土産として蓋付きマグカップを貰ったり、等々。色々楽しめた。

ちなみに一番混んでいて人が離れなかったのが、チャイの実演コーナーだった。試飲したが、優しく、美味しい味わいであった。大分砂糖を入れていたのが印象に残っているが、疲れたとき、休憩時には良い飲み物であろう。――淹れる手間がかかるので、そちらは誰かに任せるべきだが。

自家焙煎の凍頂烏龍茶をこころゆくまで頂いて、最後の締めとする。
カフェインのお陰か、はたまた常のようにキロ単位で歩き回らなかったせいか、遠出の割りにそうは疲れなかった日。
紅葉月二十一日
熱帯睡蓮のとことん浮かべていた生育の良いムカゴ苗が沈んでいた。枯れたかと持ち上げてみれば、根元に丸みと重み。
どうやら株が出来たらしい。
紅葉月二十日
そろそろセーターでも出そうかと箪笥を開く。穴の開いたジーンズが何本も出てきた。
この頑丈な布、何かに再利用できまいか。
紅葉月十九日
『にっこう』へ近江BLACKを食いに行く。こういうことをやっているらしく、黒と近江をテーマに据えた創作ラーメンなのだとか。蕎麦のように黒い麺、器を覆い尽くす海苔や黒胡麻を想像していたが、 魚介(鮎?)出汁の普通の美味しい醤油ラーメンであった。
鶏肉が美味であったとか、水菜が長すぎて食べ辛かったとか、シジミの佃煮でも乗っているかと期待していたのに出汁の方に使っているとかで解らなかったとか、炙ったもしくは干した魚の小骨がスープに入っていたが舌触りが悪いのできっちり漉した方が良いとか、 まあ雑感。
黒や意外性にそう拘らなかったようで、微妙なイロモノではなく、先に述べたように普通に美味しい醤油ラーメン魚介出汁。いつも塩か付け麺を頼んでいたので、たまの醤油もなかなかに良かった。

エジプト帰りの某氏から土産のパピルス栞を頂いて、帰宅。本日終える。
紅葉月十八日
服を買いに出る。肩紐の甚平が欲しいのだが、あれは外出着ではないともいうし、 まあ襟付きの洋服を冠婚葬祭用以外で持っていても問題はなかろうと、店へ。
ただ普段買わぬが故、シャツは肌着か服か? 上に羽織るものもいるのか?  スーツ下のチョッキが欲しいのだがやはりあれだけバラ売りは無いのか、などと棚上げや思考停止を積み上げる。結果、ズボンは楽に見つかったが、シャツは少し小さ目になってしまった。

それでもまあ、常のように困惑せず、服の買い物を楽しめるという珍しい一日であった。
やはり、洋服を選ぶという時点で『これはコスプレ』と割り切ったのが良かった模様。
紅葉月十七日
薬局前に、『試してみませんか?』と体脂肪測定器が置いてあった。
今まで設定方法が良く解らず途中で挫折し続けていたが、今回動く。
電器風呂を思い出させる、あのピリッというかヴンッというような感覚が 癖になりそうだ。
紅葉月十六日
人づてに、知人の写真を拝見する。旅先のものらしい。背景に、帽子を乗せたモアイ像。
…………この胸の内を表す言葉が見付からない。
紅葉月十五日
『電子レンジで作るホワイトソース』を試してみる。二分加熱して良く混ぜる。→ 二分加熱して良く混ぜる。→ついでに二分加熱して……というものであったが、確かに鍋を使った場合と違い、焦げも無く手間もほとんど無い。これは良い方法を知ったと、最後の三分加熱――

容器からあふれ出した白い海に泣く。
紅葉月十四日
室内メダカ瓶の水を飛び散らせる。広く浅く少し、しかしそこはお気に入りの本を並べた本棚。
『本の踵がーッ』
絶叫錯乱。片端から剥いて広げる。帯の活躍もあって、幸いといえる被害で済んだ。
――『次』が怖い。

普通の味噌の代わりに甜麺醤を用いた麻婆豆腐を試してみる。水も、七割ほどに減らす。
結果、コクのある出来に。
次はこれをを何時ものレシピに組み込むとしよう。
紅葉月十二日
地元の運動会。隣組の当番が回ってきているらしく、手伝いに顔を出せと家人に言われる。そして朝一の少し冷えた会場。
『で、何をすれば?』『帰ってきた人からゼッケン回収したり、ここの麦酒渡したり、といったところか』『……』
――無論、そんなものに手など要るようなこともなく、荷物を運んだ後は壁の地蔵。むしろ『いやー数日前から足がよう動かんでなぁ』『来てからいいなさんなや』『アハハハハ(周囲)』といった爺様の替わりに競技に出たぐらい。

数年振りだが、更に子供の頃とも比べ、恐ろしく人口、特に若者層が減っていた。 競技もイベントのようなものが数個だけ、午前には終わる程度。まあ、老人御近所の付き合いや、息抜き、子供らの良い思い出としては成立していたように思う。
実は余りにも遠ざかっていて出来なくなっていたラジオ体操を久し振りにしてみたとか、開会式閉会式の余りの自由っぷりに『強制でも規律は素晴らしいものだ』と運営係への同情含みでちと思ったとか、会場外で関係ない人がやっている連凧に興味を引かれまくっていたとか、そんなこんなでも子供は元気にそこそこいたとか、けど老人会の競技で観客席の密度が半分ほど減ったとか、子供姉妹のお揃い姿っていいなとか、まあ意外と何も無く終わった半日。

一点、久々に声を掛けてくれた人のことが全く思い出せなかったのが、心に残る。
名も聞いた。全く解らない。向こうも期待はしていなかったようで、ただ、嬉しそうに笑っていた。
間違いなく世話になった人だ。その記憶の一片たりとも自分の中に無い。

覚えられないのと、忘れて失うのは違う。己が愚かが、どういう意味で愚かなのか、また一つ知る。


記:近所友人の兄貴分だった人でなければ、青年団の前髪の時の関係だろうか……
紅葉月十日
メダカ池の清掃、睡蓮の手入れ。
『メダカの数が減ったらトンボのヤゴ』という常識に従って清掃。エビが全滅していた容器にミナミの追加などをする。
一方、睡蓮だが熱帯はまだ咲き続けている。肥料を与え、朽ちた葉をむしり捨て、育ったムカゴを他容器の水面に浮かべる。
温帯は夏の終わりより、更に鉢土が盛り上がっていた。植え付けていた鉢が、問題のあるレベルで小さ過ぎたらしい。植え替え、追肥、ついでに池を日向に移し、沈め直す。花は無理かもしれないが、もう少し育ってくれることだろう。
紅葉月六〜九日
生きてる。雨雨晴晴、だったか。

彼岸花は散ってしまった。数日前、雨の中。単色に沈む景色の端で、盛りが過ぎ色が抜け、様々な濃さのピンク色となった彼岸花が群れ咲いていた。淡く、綺麗な姿を今も思い出す。

地酒試飲会の案内が来る。11月9日(日)、大津プリンスホテルで13:00〜17:00、入場料千円。毎回足を運んでいたものとは違い、滋賀の日本酒限定、ただし全蔵参加というものらしい。
飲み貯めに行くと決める。

他、ごめんなさいごめんなさい生まれてきてごめんなさいと、ぶつぶつ呟く心境の日々。
紅葉月五日
雨。両足の踵に靴擦れ。出来たことより、痛いと感じない方に不安を覚える。
紅葉月四日
親戚の結婚式に赴く。同年代だからお前が顔を出しておけということだったが、

あちら:二十数人にも及ぶ御親族一同
こちら:叔父、私、計二名

――なんて笑えない親族顔合わせ。元々数が少ない上に、外国だ仕事だ学会だと、ものの見事に残りも都合がつかなかったらしい。長細い部屋の壁面は、一方が無人の椅子の列、もう一方は埋まった椅子の背後にも同数以上立ち並ぶ方々。全ての視線は私か、叔父か。いや、実際には端に二人座っているから、一括でもう浴び放題。前言撤回、此処までくると微笑しか浮かばなかった。
まあ、友人は沢山みえられていたので些細なことと、判じておこう。

ドライフラワーをライスシャワーとして風上に投げつけるという無謀に挑戦したり、少数派の和食の、しかし見事な旨さに舌鼓を打ったり、お祝いというより食事を堪能しに行ったような案配。
食後、たっぷりの紅茶で酒精を抜いて、帰宅。御馳走様でした。
紅葉月三日
明日着る礼服を試してみる。ズボンはぶかぶかで、上もちょっとおかしい。
数年に一度しか着ないとはいえ、大分体型が変わったようだ。
落ちた体重も筋肉の気がするし。
運動不足、極まったか。
紅葉月一日
図書館辺りに赴いたような気がする。良く覚えていない。
子供がわらわらいた。そういう季節か。
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