日々、在りしことども



桜月三十日
食後、軽く水を浴びて近所の藤棚を覗きに行く。
そろそろ盛りは過ぎ始めているようだった。
足萎えるほど出不精な己のせいとはいえ、ここ数年溜息がこぼれるほどの藤を見た覚えが無い。
闇夜にあの甘い香りをかいで、初めてその存在に気付く。あんなことはやはり滅多に無いのだなと、 昔に思い巡らす。

暮れの空、低いところを蝙蝠が舞っていた。毎年、このぐらいの季節に盛んな姿を見かける。
とある花壇の、濃い青の花は今年も見事。これは是非欲しいのだが、さて花屋ポット売りのアレで正しいのだろうか?

以上、本日もつらつらと。
桜月二十九日
そういえば昨日、幾らか本を売りに行った。ブックオフ。
存在さえ忘れていたものが十円ででも売れたというべきか、この程度にしかならなかったと 呟くべきか。しめて五百円ちょい。幾らかはもって帰る。
売ろうなどと考えず、図書館を活用し、買う本を吟味する方向でと、結論。

なおもう一軒、別の古本屋へも、もって行って見た。貴金属の買い取り、切手の同横と、色々手を広げているらしい。へぇと思いつつ、受付に一声掛けて、
「あー、うちは本の買い取りしてないんだ」
……本を主軸にしない古本屋。古物屋? 法的な事情でもあるんだろうか。
桜月二十八日
レッドチェリーシュリンプ。二ヶ月も飼ってれば繁殖を始めるとか、卵から孵化したのでもそれぐらいでとか、一センチにもなれば早いのは、と聞くが、当方飼育三ヶ月、二センチ越えで未だ一個体も抱卵せず。
これは、アレか、あの『実は全部雌でした』というオチか。二三匹白いのがいるが、ただ栄養の足りてない色の薄い雌なのか。確かに髭は今一長くないし、腹部の丸い雄性突起が見当たらないし……

遺伝子汚染覚悟でミナミヌマエビの雄を放り込むか? しかし正確にはシナヌマエビの亜種であって、うちのは琵琶湖採取だから、さてミナミかシナか……


と、少々沸騰しつつ、レッドチェリーシュリンプの雄を求めて田舎店舗巡り。
まずは大本命、ビバシティ横のアヤハディオ熱帯魚コーナーへ。ここは存外ものが良いし、ちょくちょく繁殖させたりしている。……何故か何時見てもエビの仲間はちっちゃいのばかりだが。
『レッドチェリーシュリンプの雄くれ』という無茶な注文にも笑顔で対応してくれたが、どうも良く解らない。そもそも産まれたての個体が多く、判別が難しい。
残念ながら物理的に無理っぽいということになり、去る。

次いで、カインズへ。相変わらずでかいヤマトヌマエビが一杯。ここまで育つとは甘く見ていた等と、関係ないところで慄く。
肝心の赤だが、ミナミと一緒の水槽で売っている時点で諦める。どうやって雄とミナミを区別しようというのか。
最後に稲枝のB'ISTへ。ここは火曜が定休であり、今まで覗きに足を運んだ半分ぐらいはそういう曜日に何故かぶち当たっている。
無論、勿論、ちなみに本日も火曜日。

――後日電話で聞くに、これからの季節は蝦関係は入れないというような話だった。


同性愛の不毛さに苦しみのた打ち回る今日この頃。生産性は大切である。
桜月二十六日
寒、もしくは冷。藤の花が濡れ細る。花腐しの雨。

枕元の小机に水の入ったコップを置く。そのまま寝る。朝方、全てを忘れて寝返りを打つ。
――寝ている人間に水をぶっかけると本当はどう反応するのか。自分で実験してみた。人体実験。
桜月二十五日
豆腐ラザニアを作ってみる。水抜きした木綿豆腐を軽く焼いて使用。
蕎麦や豆腐は結構米の代わりになるが、どうしてもあっさり軽くなる。が、今回のようにたっぷりのチーズやミートソース、焼いたナスと合わせれば、むしろ丁度食べやすく仕上がると解った。 かなり成功。

図書館の本で積読は駄目だろうと、色々返却してまわる。ついでに借りる。
旧隣町の図書館はそれは見事に藤を絡めており、本年も期待して足を運んだのだが、刈り込みか肥料で失敗でもしたか、本年は一つ二つ、端の方で取り損ねたかのような花房が垂れ下がるのみであった。花どころか、葉や若枝さえ伸びている様子が無い。
枯れてしまったわけではなかろうが、少々気になる光景であった。

水田には薄く水が張られており、蛙の声が響く。この週末の雨を利用するつもりであろうか。

後、水槽内部の配置をいじる。水流を奥から手前ではなく、左から右へ。なびく水草の風情も変わったが、さてこれでどうなるか。
桜月二十三日
昨日、家裏の交差点で役所関連とおぼしき人間他、十名近くが何やら一時たむろっていた。
そのうち高速インターチェンジに繋げるとかで、更なる交通量の増加が見込まれる車道と、通学やら犬の散歩で日々そこそこの人が使う小道。もしもの惨事など起こらぬよう、今のうちに見通しなどの対策を 練っているのだろうか、その時は思った。

本日、もう少し聞くに、統廃合による効率化という訳で、近隣の農協幾つか潰して裏に新しく建てるんだとか。

……ひと気の無い環境が、無駄に広いだけの空が、また削られてゆくのか……
桜月二十二日
何時の間にか芍薬の大きな蕾が膨らんでいる。しかし夜は肌寒く、どうも季節に乗り遅れて、実感が無い。

温帯睡蓮は葉を広げている。熱帯睡蓮ムカゴ株も浮き葉を出し始めた。鷺草も、水苔の間に緑色が見え始めている。が、一番期待していた大きな容器の蓮と、昨年の熱帯睡蓮株に変化が無い。駄目にしてしまったのか……不安が残る。

ネウロ完結を祝しつつも、とても残念に思うこの頃。本日も取り留めなく。
桜月二十一日
先日、ミナミが一匹昇天し、さっそく仲間の貴重な栄養源と化したが、それが良かったのかまた一匹抱卵する。
一方、抱卵個体だけを分けておいた瓶で、小さな姿を二つほど発見。まだ、多くの卵は腹に抱えられているため、特別に孵化が早かった個体だろう(そういうことがある)。
ただ、存外はっきりと姿が見える。経験では、孵化したての小エビはあまりに小さく透明で、目の焦点を合わせていても、一瞬別のことを考えただけで見えなくなる。ならば、もう数日前には小瓶の底を歩いていたのか。ちと、残念。

肝心のレッドチェリーシュリンプは大きくなるだけ、抱卵もせず。……何が悪いのか。

最後に、またこりずにbk-1に注文してしまい、未だ本が届かないと愚痴をこぼす。もう、あそこは駄目だ。いや、駄目なのはメール便を扱ってる黒猫か?
桜月十九日
定番の草餅を用意し、寿司を作る。興が乗ったので太巻きの他、稲荷と軍艦巻きを加える。
軍艦巻きは意外と簡単で楽しめたが、海苔の幅からシャリの高さ大きさまで、まだまだ要練習。
食後、意外と寿司が残ったことから、食事の支度に時間を掛けすぎたと反省し、ふと思い至る。
考えればシャリに全部で五合使った計算になる。それは残りもするか。
桜月十八日
鉦や太鼓の音が遠くに聞こえる。明日は祭りらしい。
桜月十六日
このところ駄目人間化していた。原因は大体わかってる。
金を節約しようと、日本ウィスキーの特大ペットボトル4リットルを買ったからだ。
まだ残ってる。費用対効果は非常に高い。ただ、人生や時間に対する負の費用対効果は、 あらゆる酒飲みの常で、まあ、アレソレ。

もう初夏なんだからと自分を諫める。
桜月十四日
久々の雨。これで睡蓮池の水位が上がってくれれば良いのだが。
去年発芽させた藤が、日々勢い良く新芽を広げている。もっとも、昔から家にあった鉢の藤は、もう花房をこぼしているのだが。――花はもう一二年、咲きそうに無い。

ウィローモスを少々手入れ。ミナミヌマエビはまた一匹抱卵したが、孵化の方は未だ。
抱卵個体は三とちょっと。全て孵れば三桁いくだろうか?

一方、レッドチェリーシュリンプだが全く抱卵しない。雄はいると思うのだが……

そんなこんな、此処しばらくを雑然と。
桜月十二日
夜桜が見たいという家族に付き合い彦根城へ。満開。そろそろ花筏が水面に浮かびつつあった。
そういえば昨日は幾つかの神社で太鼓やらが出ていた。早くも初夏に移ろいつつある。
庭の源平枝垂れもそろそろ散りだしそうだ。
桜月十一日
桜とメダカ。

花見に出る。新しい場所の開拓。麒麟工場と長浜。

まずは近場、通るたびに良く咲いていると思っていた、麒麟工場付近の、犬上川のところで山側へと折れて進む土手沿い。終点が運動公園となっており、多くの家族連れが花見に興じていた。
両側からトンネルのように張り出している箇所もあり、落ち着いて楽しむには良い感じ。気楽に浸る。

次いで、長浜。渋滞を裏道で交わし、湖岸道路を長浜城の更に向こうへと北上する。すると、しばらくして琵琶湖沿いに現れる桜の列。
昨年、ここを通り掛かり、来年は絶対に歩いてみようと決めていた。

そして結論:自転車を積んでくるべきであった。

駐車場が解りにくく、この先でUターンするかと少し進めばまた現れる湖岸桜。それの延々繰り返し。
湖岸だー→土地があるー→桜植えるぞー。そんな感じ。
手入れされているようにも見えず、のびのび育っていて、桜並木と呼ぶには時折切れ目が現れる。
車や自転車で流し見るべきものであった。
ちなみに、琵琶湖岸ということで流入する河川や水路が多々あるのだが、
川だー→土手だぞー→桜植えるかー。やっぱりそんな感じ。縦横に桜、桜、桜。
五十年後には素晴らしい景色だろうが、今はまだ小さいのも多い。
ちなみに、ふらふら歩いていて出会った丁野木川沿いの光景が一番素晴らしかった。
両側に桜、或いはまた背丈を越えるような菜の花が黄色く斜面を埋めている。川面はのんびりと揺れ、風が汗ばむ体に心地良く、頭上をゆったり鳶が滑る。
空は、雲一つ無い青空。人もほとんど居らず、時折カメラを手にした人や老夫婦と擦れ違う。
どこまでも桜があり、早くも散るもの、まだ咲き誇るもの、ふと脇に折れた道路でも、枝先で水路の水を飲まんと花を降ろす木が並ぶ。
とても気持ちよく、そぞろ歩き。行ったり来たり。この時期、人が多いのは当たり前なので、むしろこの自然に満ちた穴場は、心に染み入った。

後、帰宅。本日は彦根城には寄らず。鼻が日焼けで赤くなりだした。


さて他方。昨日、白メダカが一匹、抱卵した。春分も過ぎたし、この陽気でそろそろとは思っていた。
が、どうも無性卵のようで採取に失敗。
本日は白二匹に黒もちらほら卵を下げている。白から採取。しかし、本来多くいるべき雄が白は一匹しかおらず、よって別容器に移動。続き、婚姻色の出ている黒の雄を二匹ほど放り込む。うまくいけば黒・緋・青・白、全色産まれるはず。今後に期待。

なお、雨無く各容器の水位が結構下がる。温帯睡蓮は育ち、熱帯は未だその気配無く、蓮は保険のつもりで小さなバケツに仕込んでいた方が、水上へと芽を伸ばしている。

本日以上。
桜月十日
透かし見る 花天蓋の 雪の下

夜桜を愛でに彦根城へ。満開。乱れぬ水面に照らし出された桜がうつり、上下二倍を堪能する。
はらはら散るのは今週末か。
帰ろうとして、小耳に挟んだ井伊神社の枝垂桜を見ようかと足を伸ばす。佐和山の麓は琵琶湖側、寺社関連で綺麗に整備されているところを山の登り口まで進んだ、その右側。暗闇の奥。
――明かり一つ無く、何処まで山の中へ進めば辿り着くかも解らない。聞こえてくるふくろうの声。およそ、肝試しと自殺以外でまっとうな人間が進むような状況ではなく、懐中電灯片手に鳥居の下で足を止めて己について考えることしばし――

――あーもうとっくに残念な人生だし、何かあってもこれ以下ってことはないかぁ――

何かあればそれはイベントというやつである。
結局、平々凡々何事も無く、少し進んですぐに正面の神社に着く古い社殿を改修・保存する費用労力もないのだろう、。聞いていた通り大きなプレハブ、板で囲った工事現場シートのようなものの中に、すっぽりと覆い囲まれていた。
件の枝垂れ桜は左手に。それなりに大きな樹のようであるが、暗闇の中ではいまいち良く解らなかった。

芹側沿いの桜や、麒麟工場周辺の桜などを見つつ帰宅。以上。

雪崩咲く いさぎよしなど 誰の謂い
桜月九日
満月、桜。

桜月七日
ふと桜が見たくなり、出る。朝焼けの中の桜は――と早朝から自転車を走らせるが、 『どうせ日中は汗ばむほどの陽気になるんだから』と薄着で霜注意報の出ているような 田圃道をとばせばどうなるか。無論、一時間後にはコンビニで暖を取り立ち読んでいる私の姿が。

日当たりの良い場所は除き、満開はこの週末ぐらいだろうか。何故か鶯の声を良く聞きつつ、常のように彦根城へ。ゆっくり時間を掛けたせいか、久々の遠出にしては足の負担も少なかった。
蕾の多い桜も、また樹ごとの色合いの違いが濃く出ていて面白い。早くも盛んな柳の新緑などもまた良し。
帰り際、ついでに琵琶湖を望みに足を伸ばし、水槽用の流木など少し拾いもす。

出た時間が早かったせいか、のんびり戻っても昼過ぎ。十分日に焼けて花粉をたっぷり吸い込んだせいか、何故か顔がパンパンに。……普通、体を動かしたらむくみって減るもんじゃなかったろうか。

久々に使った道、その近所の光景がえらく様変わりしていた日。
桜月六日
例年、遠目に眺める桜の花雲は未だ色を見せず、まだしばらくかと考えていたが、本日少し北へと足を向けてみたところ、すぐに八分程度の花模様が其処にあった。
面で見る菜の花の鮮やかさ、持ちのよさ。雪柳のこぼれる白に、初夏はこれを挿し木で増やすかと考えてみたり。源平枝垂れの白に赤が少し混じった小鉢は開き、大苗はまず赤が綻びつつある。

暖かい日。桜をはじめとした花を見、もういるまいと源平の添え木を引っこ抜く。
桜月五日
花桃が緩みだす。

ミジンコが増えていた。サイズ的には中、小。大が、盛んに子を産んでいるよう。
やはり、とても癒される。
ミジンコ専用水槽を一つ作るべきだろうか。
桜月四日
雨。水槽赤エビ、一匹昇天。足し水がまずかったか、餌が悪かったか、はたまた非常食にと放り込んだ昆布か。
未だ抱卵せぬことといい、微妙にうまくゆかず。
桜月三日

桜月二日
図書館の館長氏に御挨拶する。この春で地元に戻られるのだとか。買うには微妙な、しかし読んでみたい本を色々取り寄せてもらい、地方公共の本棚にマイナーなミステリやホラーが並ぶ羽目となった、心苦しくも多々御世話になった方である。
頭を垂れ、御達者で、と。

春、変わりゆくことどもを感じた日。
桜月一日
エイプリルフール。
良く覗くネット小説投稿サイトで、立て続けに連載作品が完結しており、笑った。
皆考えることは同じ、というには始めて見た現象。とりあえず、記念に保存しておこう、
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